オアシス黒子家
じりじりと焦がすような日差しとアブラゼミのコーラス。
それらを全身に受けながら、私と黒子は陽炎の中を歩いた。

「あ、黒子。コンビニ寄っていい?」
「…いいですよ」

黒子の家はここからちょっと先、駅側にあるらしい。
私の家よりも駅に近くて羨ましい。
私は道の先にコンビニを目敏く見つけて、駆け寄った。

黒子はその後をゆっくりと追いかけてくる。
走る気はないようだ。
私は先にコンビニの中へと入った。

「あーオアシス」
「涼しいですね。何を買うんですか?」
「飲み物とかお菓子とか。黒子、何食べたい?」

私はペットボトルの入っている冷蔵庫を開けて、どれにするか悩んだ。
そのようなポーズを取っていれば、冷蔵庫の冷気を一身に浴びることができる。
私の下心を読んだらしい黒子が扉を閉めるまで、私はそうしていた。
閉められた扉越しに、何を買うか、きちんと悩んだ。
ゴクゴク飲むならお茶だが、折角買うなら炭酸。

私はちらと黒子のほうを見た。
黒子はちょっと驚いた顔で私を見ていた。

「…何?」
「いえ…きちんとしているのだなと思いまして」
「え、なにそれ酷い」
「すいません。別に気を遣ってもらわなくて平気ですよ」
「いや、さすがに手土産なしで人様の家には上がれないよ。上がると決めたら何かしらのものは持ってくのがマイルールだから。で、何がいい?」

わお、私そんなに礼儀のなってない子だと思われてたのか。
いや確かにモラルはあんまりないけど。
無意味にコンビニの冷蔵庫開けて涼んじゃうけど。

私は驚いている黒子に苦笑して、炭酸とジュースどっちがいいか聞いた。
彼は少し悩んだ後に、炭酸がいいと言ったので見たことのない新作のソーダを手に取った。

「苗字さんさんは新作を怖がりませんね」
「黒子は怖い?」
「そうですね。ちょっと手を出しづらいです」

まあ、そういう人もいるだろう。
美味しいとは限らないし、それで飲み切れなかったら嫌だし。
ただ私はそのようなリスクよりも、好奇心が勝る。
ただそれだけのことだ。

「なら私もいることだし、新作だらけにしちゃおうか。気になってるやつ、食べてみよ!」
「いいですね。そうしましょうか」

苗字さんの家でやることはこうして決定した。
題して、“新商品品評会”だ。
ちなみに私のお財布からお金を出そうとして、足りずに結局割り勘になったのは秘密だ。


黒子の家は、普通だった。
コンビニから歩いて5分くらいの立地にある、普通の一軒家。
小さな庭があって、みずみずしいミニトマトが生えていた。
なんだか家庭的でいい感じだ。

「ただいま」
「おじゃまします」

さすがに家に上がるときはちょっと緊張した。
思えば、中学の男子の家に行くのは初めてだ。
小学生の時はしょっちゅう誰かの家に転がり込んではゲームをしていたが。

黒子がただいま、というと奥からおかえり、と女性の声が返ってきた。
リビングからひょっこり顔をのぞかせたのは、黒子と同じ髪色の女性だった。
たぶんお母さんなんだろうが、若い。
黒子ママは私の顔を見て、まあ、と頬に手を当てた、可愛い。

「あら、テツヤ。彼女さん?」
「そのベタな勘違いやめて。友達だから」
「初めまして、クラスメイトの苗字さん名前さんです。おじゃまします」
「初めまして、テツヤの母のやよいです。どうぞゆっくりしていってね」

何で母さんまで自己紹介してるの、と顔を赤くして呟く黒子が面白くて笑った。
笑ったのがばれたのか、黒子は不機嫌そうに私の手を取って家の奥へと進む。
階段に差し掛かったあたりで、後ろから「あとで麦茶持っていくわね」という声が追ってきた。
黒子はそれに適当な返事をしながら、階段に足をかける。

階段を登ると、部屋が3部屋ほど。
その中の一番奥の部屋が黒子の部屋らしい。
“テツヤ”と木でできたカタカナの文字がプレートに収まっていた。

「徹子の部屋みたい」
「失礼なこと言わないでください、入れませんよ」

むっと眉と眉の間に谷を作ってしまった黒子に謝ったが笑いが止まらない。
自分で言っておいて結構ツボに入った。

入れませんよ、といいつつも入れてくれた黒子の部屋は、きれいだった。
机とベッド、それから本棚とローテーブル。
机の上は無駄なものがなくすっきりしているし、本棚もちゃんと整理されている。
黒子はローテーブルの上に置きっぱなしになっていた文庫本をさっと机の上に移動していた。

「綺麗だね」
「そうですか?」
「うん、私なら突然友達が着たらまずは10分リビングで過ごしてもらうよ」
「…なるほど」

黒子は妙に納得したようだ、なんだかムカつく。
私は黒子に促されて、ローテーブルのクッションのもとへと腰かける。
その間、黒子はエアコンの電源を入れ、それを終えた後に来た黒子ママから麦茶を受け取り、そうして部屋を一周して、私の隣に座った。

ブォン、とエアコンが生暖かい空気を吐きだす。
あー夏だなあ。



(人の部屋でくつろぎすぎです)(人の部屋じゃなくて黒子の部屋だからだよ)(…そういうことをサラッといわないでください)
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