彼氏は透明人間!
テツヤのミスディレクションとやらは、スネーク顔負けである。
新入生を入部させようと躍起になっている人たちから、まったく相手にされない。
これはある意味貴重な体験だろう。
チラシすら貰うことなく、校門から下駄箱まで辿り着くことができた。

「僕はバスケ部に入部願だけ出してきますから」
「ああ、うん。待ってる」

人がまばらにしかいない下駄箱で、テツヤは上履きに履き替えることなくそういった。
なぜ途中で提出していかなかったのかといえば、偏に私が人酔いしたからである。
何も言ってはいなかったがいつもよりも速足で歩いていたし、気付いていたのだろう。
私は下駄箱の前にあった階段に腰かけて、走っていくテツヤを見送った。

それにしても、綺麗な校舎だ。
オープンキャンパスに来た時も思ったけれど、作りたての匂いがする。
私たちもこの学校も、まだまだ若造なのだ。
ここで一緒に成長していくのだろうなあ、と思う。
きっとたくさんの思い出を吸収して、傷を作って、そうしてかけがえのないものになっていくんだ。
そう思うと、なんだか唐突にこの学校が愛おしくなった。

「名前さん?」
「あれ、テツヤ。早かったね」
「案の定誰も気づきませんでしたから、名前だけ書いてきました」
「あらら、相変わらずだねえ」

階段に腰かけていた私に手を差し出すテツヤに苦笑して、その手を握り返した。
スカート汚れてないかな、白だから汚れ目立ちそう。
テツヤは頻りにスカートを叩いている私に、大丈夫ですよ、と苦笑した。

「あ、そうだ。クラス見てきました。同じクラスでしたよ」
「お!幸先いいねー」
「はい。これで通算4年目ですね」

よかった、帝光中からここに入学した人はそういない。
美香子も美緒も別の高校に行ってしまった。
そうなると、また私は対人関係で苦労することとなる。
事情を知っている人が一緒にいる方が安心だ。

教室にはまだ誰もいなかった。
机の上にはいくつかの書類が置かれていて、机の右端には名前が書いてある札もあった。

「あ、男女で出席番号別なんですね」
「ありゃ。じゃあ席遠いねえ」

なんというか、こういうところで男女を意識させられるとは。
ちょっと釈然としないが、まあ仕方ない。
中学3年の頃は席が近いことも多かったから、ちょっと寂しいけど。

テツヤの席は窓際の後ろから2番目。
私は廊下側から2番目、1番前、黒板が近い。
結構席が離れてしまったな、と思いながらテツヤを見ると彼もまた眉根を顰めていた。
あまり感情を表に出す人じゃないから珍しい。

「どうしたの?」
「最初の1,2か月は男女の溝が深まりそうだなと思いまして。これじゃあ男子は男子で集まることになるでしょうし」
「確かに。…でも、テツヤ薄いし平気でしょ。教室がめんどい感じなら出ていけばいいじゃん」
「…ほんと、失礼ですよね。でもその通りです」

ちょっとむっとした口ぶりだけど、表情は穏やかな笑顔だ。
テツヤは人より観察力があって、ちょっとした事にも気が付く細やかさを持っている。
また、真面目で常識に捕らわれやすい傾向にもある。
簡単に言えば、お堅い性格。

ちょっと考えすぎなような気がする。
先を考えていくのはいいけど、臨機応変に行くのがベスト、それが私だ。

「ここにも赤司くんみたいな変態いるのかな?」
「…いないと思いますよ。あんな人、彼1人で十分です」
「だよねー」

思い出すのは2年の頃、赤司くんに呼び出しされまくったあの3日間である。
あれは濃かった。
その上、赤司くんに気に入られてしまったのか、いろいろしつこかった。

そう言えば、中学時代の同級生たちは非常に濃かった。
変態赤司くんにバスケ馬鹿にモデル、占い馬鹿、お菓子中毒…いや、濃いな。
私の兄たちの友人にも負けず劣らずである。
一家そろって変人に好まれる性質らしい。

「ここではどんな人に会うのかねえ」
「どうでしょうね」

ま、楽しみは後に取っておくとしよう。
私は緩む頬をそのままに、まばらにやってきた同級生に挨拶をした。


(新生活のはじまりはじまり!)
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