恋は台風
お茶を一口飲んで、高校生活を考える会、再開である。

「それで、マネージャーにはならないとして、どの部に入るんです?」
「帰宅部一択です」
「…またですか」

先ほど、名前さんが唐突に言った言葉の余韻のせいでまだ顔が熱い。
それを冷ますように、話を軌道修正した。
問題は、名前さんがどの部活に入るか、だ。

僕はバスケを続けると決めている。
となると、帰りが相当に遅くなるのだ。
名前さんを待たせるのは忍びないけれど、一緒に帰りたいという気持ちもある。
もし名前さんが運動部に入れば、休日を共に過ごすことは難しいかもしれないが、朝夕は一緒に登下校することができる。
僕はその可能性に賭けている。
…とはいえ、名前さんが面倒くさがりで運動部なんて入りっこない、というものわかっている。

本来なら男バスのマネージャーを、と思ったが先ほどそれは辞めることにした。
名前さんは自覚がないだけで…自覚がないのは仕方ないのだが…かなり可愛い。
はっきり言って、なぜ僕の彼女をやっているんだと10人中9人が言うレベル。
というわけで、僕としてはピリピリせざるを得ない。

「帰宅部とはいえ、高校生ですから!グレードアップする予定!」
「何をどうすれば帰宅部をグレードアップできるんです?」

名前さんはそんな心情を知る由もなく、楽しそうだ。
彼女は中学の3年間、様々な教師に部活に入れといわれ続けてきたが、長らく回避。
卒業までどこの部にも所属することなく過ごした。
…いや、帰宅部という学校未公認且つ部員本人のみの空想上の部活に入っていた。
名前さんなりの帰宅部ルールを作り、忠実にそれを守り続けていた。
高校生活では、その気力を是非とも別のベクトルに向けてほしい。

さて、確か帰宅部のルールは1.学校が終わったら即刻帰宅、2.夕方のアニメ再放送に遅刻しない3.安心安全を振り撒く帰宅。
ツッコミどころがありすぎて何も言えないが、まあ、簡単に言えば交通ルールを守りつつもさっさと帰宅することが絶対規則。
それをどう変えるというのか。

「帰宅部兼、アルバイト部に進化させます!」
「アルバイト…」
「帰宅の最中にきちんとお金も稼ぐ、そんな帰宅部を目指します!」

なるほど、高校生になればアルバイトもできる。
僕は部活に夢中だったからその着眼点はなかった。

それに、アルバイトの場所によっては帰りに寄って、そこから一緒に帰ることもできるだろう。
朝は別かもしれないが、帰りは一緒に帰れるかもしれない。
妥協案としては悪くないし、名前さんに運動部を進めるよりもよっぽど現実的だ。

「いいんじゃないですか?」
「でしょ?」
「それでさ、誠凜の近くにマジバあるからそこにしようと思って。駅前だから帰り道だし、テツヤ、マジバのバニラシェイク好きじゃん?待たせるときも便利だし。求人も出てるし、高校生のバイトにはピッタリっしょ」

…なんだ、名前さんもきちんとこのことについて考えてくれていたのか。
何だか僕だけ空回っているような気がしていたが、気のせいだったようだ。

というわけでどうでしょう、彼氏様!といわれれば頷くしかない。
というか妙案だ、僕のことも自分のこともしっかり考えてあったようだ。

「これで帰りはテツヤと帰宅部活動できるね〜帰宅部員も増えたし万々歳!」
「これ以上は増やしません」
「うん、2人だけで十分です!」

名前さんの言葉の節々から聞こえる好きに、僕は振り回されるばかりだ。


(恋は台風)(目の彼女、暴風域の僕)

prev next bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -