夕日を背負い投げしよう
帝光中学は、自転車通学が可能な学校だ。
ヘルメット着用がルールではあるが、守っている人はほとんどいない。
いや、だってダサいしね。
若者の特徴として、ファッションに命かける傾向にあるから。

「でも私はいざという時のためにヘルメットは常備してるんだよ、偉くない?」
「いえ、被ってないと何の意味もないと思います」

冷静なツッコミは到底13歳のものとは思えない。
夢がないなあとからかうと、苗字さんさんは常識がないですね、と返された。
あれ、黒子ってこんな辛辣な人でした?

夕日に照らされたコンクリート。
今日は珍しく部活がなかったらしい黒子が帰りに声をかけてきたので一緒に帰ることになったのだ。
家の方向が一緒らしい。

「ってかさ、黒子、乗ろうよ。ニケツしよ」
「いやです。僕は苗字さんさんを乗せて安全に運転できる自信ないです」
「いや、私が自信あるし」
「僕の分のヘルメットがない状態で苗字さんさんに命を預けるのはハイリスクすぎです」

というか、黒子私を乗せる気だったのか。
意外と男気あるな、と思ったけどむしろそれは怖い。
ぶっちゃけ黒子の後ろ乗りたくないわ、速攻でコケそう。

でもな、私夕方のアニメの再放送見たいんだよな。
でも黒子を置いていくわけにはいかないし。

「そうだ、走ろう!」
「え?」
「走ればいいんだよ、そしたら早く帰れるよ!黒子は修業にもなる!」
「修業ってなんですか」
「ほら、鞄貸して!荷台に乗せたげるから!」

あれだ、あの夕日に向かってってやつだ。
まあ夕日は私たちの背中側にあるんだけどね。
眩しくないから走りやすいよね、うん。

呆然としている黒子の鞄をひったくって、荷台に引っ掛ける。
私は自転車のハンドルを握って、ペダルが足に引っかからないように軽く回した。

「行くよ!」
「え、ちょっ」

驚いている黒子を置いて、とりあえず走った。
着慣れない制服のスカートが邪魔だ。
脱いで下に履いているハーフパンツだけになってしまいたい。
春のちょうどいい風がびゅんびゅん耳のそばを抜けていく。

まあ、体力があるわけじゃないから交差点に差し掛かったあたりですぐに止まった。
数十秒遅れて、黒子くんが追いついた。

「…僕の鞄を人質にしないでください」
「っは、ごめん、ごめん!はー…疲れた」
「大丈夫ですか?」

肩で息をしている私と裏腹に、黒子はそこまで息が上がっていなかった。
なるほど、これが運動部と帰宅部の差。

「くっ…帰宅部として、もう少し帰宅力を手にしなければなるまいな」
「何言ってるんですか」

冷静なツッコミありがとう、黒子。
信号が青に変わったので、私は自転車のハンドルを押した。
横断歩道を渡って、ようやく落ち着いた呼吸を整えた。
もう一走りしようかなと思ったが、体力的にきついのでやめておいた。

「代わります、どいてください」
「え、私のチャリ…」
「取りませんよ。ほら、早く」

黒子は私の手の横に手を掛けて、私に手を離すように促した。
私は言われた通り、手を離して自転車から離れる。
スムーズに位置移動を行って、私の自転車は黒子の手により押されるようになった。

「…やだ、黒子イケメン」
「何言ってるんですか…」

呆然と黒子を見たら、彼は顔を赤くしていた。
その顔を見て可笑しくて笑うと、彼は不貞腐れたようにそっぽを向いた。


(え、何黒子可愛い)(可愛いといわれて喜ぶ男はいません)(褒めてるんだから素直に喜びなよ、喜ぶのはタダなんだからさ)(そこまで喜びに飢えていません)
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