10.彼女の知らない裏事情
最近、黒子の調子が悪いのは感じていた。
パートナーである青峰も同じようなことを感じていたようで、その話になった。

「まあ、仕方ないだろ」
「なぜ?」
「自分の好きな女が、相当レベル高いからなー。この前バスケでも見せつけられたし、落ち込んでるんだろーな」
「え、黒子っち好きな人いるんすか!?」

更衣室で着替えているのは、俺と青峰、黄瀬。
先ほど、緑間と紫原、黒子はコーチに呼ばれていた。
恐らく今日の練習の話だろう。
今日は3人組でチームプレイのレクリエーションをしていたのだが、あの三人組は相性が悪かったらしい。
しかし、チーム内で相性が悪いということはあまりよろしくない。
そのため、コーチに説教をされているらしい。

閑話休題、目下の問題は黒子の不調である。
先ほどの練習でもそうだが、どこかぼんやりしていてパスを回してもうまく起動しない。
彼は今やチーム内の切り札だ、不調のままでは困る。
そう思い青峰に話を振ったが、想像の斜め上を行く回答をもらった。

「好きな女?」
「1年の頃からずっと仲いいぜ」
「あ、もしかしてこの前の球技大会の11番っすか?」
「アタリ」

この前の球技大会、女子はバスケの試合だったので少々見にいった。
その際に、バスケ部でもないのに非常にうまい女がいた。
黒子はそれを食い入るように見ていたし、試合後には彼女の傍に駆けていった。
なるほど、納得した。

とはいえ、恋愛沙汰を部活に持ってこられても困る。

「どうしたものかな」
「もう、あの子マネージャーにしちゃえばいいじゃないっすか!可愛いし!」
「ねえよ、あいつ絶対嫌がるぜ」

黄瀬が笑いながらそういったのを、青峰が突っ込んだ。
ただ、僕としては黄瀬の言い分も悪くないと思う。
先日マネージャーが1人やめてしまったし、穴を埋めるという点でも悪くない。
黒子も緊張感を取り戻すかもしれない。

何事もやってみるとこが大切だ。
ダメならそのままマネージャーとして働いてもらえばいいし、いるだけで集中力が落ちるなら2軍や3軍のマネージャーになってもらうのもいい。

「…そうだな、話をしてみよう」
「マジで?」

俺の言葉に不機嫌そうな顔をしたのは大輝だ。
なぜ青峰がそんな顔をするのか、理解できない。
マネージャーは日ごろから手が足りない状態だし、桃井もそれを嘆いていた。
悪い手ではないはずだ。

「やめたほうがいいと思うけどな」
「その理由は」
「テツがキレる」
「黒子っちが?逆に見て見たいっす!」
「おい馬鹿、やめとけ。ああいうタイプが起こると一番こえーんだよ」

ちなみに、俺としては黄瀬と同じ気持ちだ。
黒子は普段、穏やかでおとなしい。
その黒子が怒るなど、想像もつかない。
8割の合理性と2割の好奇心から苗字さん名前さんをマネージャーに入れるための作戦を始めた。



俺としてはあと1週間くらい続けようと思っていたのだが、3日で終わった。
というのも、青峰のいう通り黒子がキレたからである。

「そんな理由で名前さんさんを巻き込まないでください」

青峰と黄瀬に事情を説明された黒子は、静かに怒った。
3日目の昼休み、いつも通り苗字さんを呼び出した俺だがなぜか黒子もついてきた。
俺は苗字さんのクラスのバレー部の女子に声をかけたのだが、その女子が苗字さんと黒子と面識があり、また俺が毎日苗字さんを呼び出していたのを知っており、また、彼女が迷惑しているのを知っていた。
それで、黒子を介したらしい。

1日目2日目と同様、苗字さんは面倒くさそうな顔をして俺に向き合った。
その隣の黒子が、苗字さんが口を開くよりも先に話し始めたのだ。

「黒子の不調が戻れば問題ないんだがな」
「…確かに僕の不調は申し訳ないので、きちんと割り切って考えます」
「ってか黒ちん、望み薄じゃね?その子、マネージャーにはならないっていったんでしょ?」
「言わないでください、結構傷つきます」

まあ、確かに紫原のいう通りだ。
苗字さんは俺が見ていても、恋愛に興味のある感じではない。
黒子が隣居ても、ほぼ自然体。

何より、マネージャーにはならないという回答をもらった。
もし黒子が好きならついてくると思ったから紫原のいう通り、望みは薄そうである。
黒子自身もそれには気づいているらしい。
そんなことで練習に支障をきたすなど、まったくもって不毛だ。

「ま、何がきっかけで変わるかなんてわかんねーだろ」
「珍しく青峰っちがいいこと言ったっすね」
「珍しくってなんだよ!ってかテツも落ち込みすぎなんだよ、苗字さんはああいうやつだ、諦めろ」

望み薄といわれて落ち込んでいる黒子を青峰が励ます。
隣の黄瀬が、ああいうやつってどういうやつっすか、と頓珍漢な返答をしていたが、青峰はそれを無視。
黒子は相変わらず気落ちしているようだが、それもそうですね、と答えた。

「…とにかく赤司くん、名前さんさんをマネージャーにするのはやめてください」
「残念だな、好きな人が傍にいればバテて倒れる回数も減るかと思ったが」
「それは…努力します」

バスが悪いと思ったのか目を泳がせた黒子を見た青峰が、なるほどそうういう意味では苗字さんを連れてくるのも悪くねーなと言ったので、黒子が必死になって止めたのはいうまでもない。


(男子バスケ部の日常)(まあ、中学生なんてこんなものだ)
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