07.Be good≠Like
長い黒髪をポニーテールにしてもらった。
バッシュではなく体育館シューズであるあたり、球技大会のクオリティがうかがえる。

「これでよし、と。とりあえず適当にやってみようか」
「はーい」

チームプレイの話はほとんどしなかった。
練習もなにもない状態から入っているので、試合をしながら考えようという適当さ。
ちなみに、クラスの女子の半数以上は興味なさそうに体育館の端に固まって座っている。
中には携帯を弄っている子の姿もある。
体育の教師に見られれば、即刻没収である。

さて、そんな心配はどうでもいい。
第一試合は同学年のお隣のクラスだ、女バスの子はいない。

男子の場合、暗黙の了解として競技と同じ部活をしている人は参加をしない。
しかし女子はそんな了解などない。
強い人や出たい人が出ればいい、そういう感じだ。

「ねえ、名前さん。私運動苦手なんだけど、大丈夫かなあ…」
「平気平気。美緒、もしボールが来たらどっかに投げちゃえ。私でも松下さんでも、誰でもいいから。敵がいたとしても、投げちゃえ。取られたっていいよ、取り返せばいいし」
「そう?」
「うん。ってか、運動してないからできないってわけじゃないんだわ、これが」

不安そうな美緒を励ました。
美緒は本当に運動が苦手で、穏やかで気弱。
こういった試合を怖いと感じてしまうタイプだ。

美香子は並の運動神経。
可もなく不可もない、どちらかといえば可より。
ある程度はできるが、基本以上のことはできない。

松下さん、青木さんは知らないが、松下さんはバレー部だからできるだろう。
青木さんも立候補したということは自信がないわけではなさそうだし。
まあ、ある程度はやっていけるチームだろうと思う。

体育委員の子が両チーム整列!と声を張り上げた。
さあ、お菓子と飲み物とアイスのために、頑張ってみようか。



体育館から聞き慣れたホイッスルの音が聞こえた。

「テツ、苗字さんの試合見に行こうぜ」
「桃井さんはいいんですか?」
「うちのクラス、女バスが結構いるし、運動部も多いからさつきの出る枠なんざねえんだよ」

ふいに隣にいた青峰君がうずうずした様子でそういう。
やはりサッカーよりもバスケが見たいらしい。
僕としてもバスケは見たい。

なにより。

「苗字さんがバスケなんてレアだろ」
「確かに、気になります」

体育会系のテンションが苦手といっていた名前さんさんがバスケをする姿など想像もできない。
今回だって無理やり選出されてようやく重い腰を上げたくらいだ。
体育祭をほとんどサボっていた3人組が運動する姿など、誰も見たことがなかった。
きっとその姿を見たいと思った人たちが、彼女たちを無理やり動かしたのだろう。

中には悪意があったのかもしれないし、ただの好奇心だけだったのかもしれない。
その真意は掴み切れないが、面白そうというのは確かだ。
ちょっと名前さんさんには申し訳ないが、僕も面白そうだと思う。

「バスケ、見に行くんスか?」
「黄瀬、お前は来んなよ。うるせーから」
「ひどっ!」
「黄瀬くんは選手選抜されているでしょう」

僕らが体育館に向かう途中で、黄瀬君が声をかけてきた。
彼の周りには、多くの女子がいてきゃあきゃあと声を上げている。
それを見た青峰君が露骨に嫌そうな顔をした。
黄瀬君は負けじと露骨に悲しそうな顔をする。

面倒くさい人が来てしまったと、ため息をつきつつ言うと、いたの!?と声を挙げられた。
ちょっと癇に障る。

「僕、先に行きますね」
「わあ、黒子っち怒らないで!」
「誰のせいだよ…」

どうやら黄瀬君は試合が終わったばかりのようで、結局僕らについてきた。
体育館の2階に上がり、コートを見下ろした。

体育館のステージ側で、名前さんさんが3Pラインから華麗にシュートを決めたのを、僕は見た。
いい争いをしていた青峰君も黄瀬君も、言葉を失う。
慌ててコート脇の得点盤をみて、驚いた。
すでに、僕たちのクラスは10点もの差をつけていたのだ。

「マジ?苗字さんうまいじゃん」
「はい…僕よりもうまい、ですよね、あれ」
「誰っすか、あの子!」
「あの子、すごいよー。得点入れてるのほぼ、あの子だしー」

呆然としている僕、驚く青峰君、テンションが上がる黄瀬君。
それに加わってきたのが、紫原君だった。
紫原君は相変わらずお菓子を片手に、だらっと手すりに凭れかかっていた。

「あのチーム、経験者はいないけどポテンシャル高めって感じ?1人ダメダメちゃんがいるけど、寧ろそれがいい感じに機能してるんだよねー」
「あ、あれか。13番」
「そうそう。その子は運動ダメっぽい。でも、それがいい感じに相手チームをかき乱してるんだよーどこにパスするのかわからないんだよね、その子」

13番は村山さんだ。
今もボールを受け取るが否や、オロオロとしてとりあえず見当違いの場所…ほぼ真上に投げた。
黄瀬君がおいおい、と苦笑する。
しかしその想定外すぎるボールを、素早くジャンプしてとったのが7番。
バレー部所属、松下さんだ。
松下さんはそのままドリブルして、敵チームの陣内へ。

「あー、あれは知ってる。バレー部の松下か」
「そうです。うちのクラスチーム唯一の運動部です」
「唯一?じゃああの11番は!?」
「帰宅部です。8,13は文化部です」

松下さんが立ち止まった。
ディフェンスが立ちはだかってしまい、3Pラインで止まった。
そこからシュートする勇気はないらしく、後ろにいた3番青木さんにパスを回す。

青木さんはパスを受け取るがすぐに3Pラインを超えるくらい高いパスを返した。
その先には8番、高木さん。
高木さんはそれを受け取り、シュート。

「ありゃ入ねーな」
「リバウンドっすね」

青峰君、黄瀬君の予想通りシュートはリングに当たってリバウンド。
それを敵チームが取った。
そのまま、猛スピードでドリブル。

「あれ、誰だ?」
「テニス部の子だよ」
「うお、さつき。いたのかよ」
「今来たの。むっくんとか大ちゃんとかが見えたから」

敵チームがゴール付近まで近づいた。
ゴール下にいたのは、名前さんさんだ。
彼女はドリブルをしているテニス部員に近づき、その足を止めさせる。
そして、一瞬の隙を突いてボールを奪い、即刻近くにいた松下さんにパスを回す。

「今のどうやって…」
「僕と同じです。あのテニス部員の子が一瞬左を見たでしょう。あれはたぶん、名前さんさんが視線誘導をやったんだと思います」

パスを受け取った松下さんはそのまま走る。
その反対端で名前さんさんが走っていた、結構早い。
すぐにゴールポスト下あたりまでたどり着き、松下さんからパスを受ける。
そして基本に忠実なシュート。
今度はリングに当たることなく、静かにネットを潜った。

次の攻撃に移ろうとしていた相手チームがライン外に出たところでブザーが鳴る。
結局、うちのクラスが10点差以上を付けて勝利した。


(ノーマークガールの台頭)(頑張らない系女子の本気)
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