06.希少価値高めですので
体育祭をサボりにサボった私たちにツケが回ってきた。

「はーい、じゃあ名前さんと美香子、美緒は確定ね。あと、私も出るとしてーっと」
「いや、ちょっと待って。マジで言ってる?」

反応したのは私だけだった。
美香子は秋空を仰ぎ見ているし、美緒は面倒くさそうに髪をくるくると指に巻きつけている。
文句を言うのも面倒らしい…すごいな、ある意味。

やる気があるのは体育委員の子のみ。
黒板にかかれている字を読み上げよう。

球技大会、女子、バスケットボール。
・松下千晶
・苗字さん名前さん
・高木美香子
・村山美緒


あと一人、どうすんだよこのメンツ。
誰も来たがらないだろうに。
そう思っていたが、松下さんの友人、青木尊というクールビューティさんが入ってくれた。
ちなみに彼女はクラス委員長である、こんな時まで駆り出されて大変だ。

文化部2人、バレー部1人、帰宅部1人という明らかに勝ち目のないメンツに、クラスの女子の士気は下がった。
仕方のないことだ。
私の士気も無論低い、美香子と美緒も同じく低い。

しかし、松下さんはそれを見越していた。

「マジ。ちなみに優勝したら担任から某高級アイスが女子全員に贈呈されるので、責任重大でーす」

青峰グループからの視線がいたいでーす。

彼女たちは私たちじゃ絶対に無理だと思っているのだろう。
だが、松下さんはクラスのヒエラルキーの上層にいる人だから、文句は出ない。
しかし、文句を言いたそうなオーラはバリバリ出ている。
それをものともせずに、松下さんは話を進めた。

この球技大会は、基本的に帝光中学で強豪といわれる部が存在しない競技を行う。
簡単に言えば、男子はバスケ以外の競技、女子はテニス以外の競技となる。
ちなみに男子はサッカーをするのでグラウンドを使用する。
女子は大抵、バレーかバスケの二択だ。
しかし、これまた大抵の場合、バスケになる。
理由は男バス部員が見たがるから。

球技大会に出るメンバーが決まり、ある程度のルール説明や注意事項を伝達したところでチャイムが鳴った。
女子の何とも言えない雰囲気が、他の教室の賑やかな声にかき消された。


「名前さんさん、球技大会出るんですか」
「流れでね…。ま、女子は何の期待もしてないし、適当にやるよ」

体育から帰ってきたテツヤがちらと黒板を見たかと思うと、自分の席に戻るよりも先に私のもとにやってきた。
体育祭での無気力っぷりを見ていたから、この状況が異常だと思ったのだろう。

テツヤは1勝ごとにお菓子を1つ、という可愛らしい条件を付けてくれた。
優勝とか現実味のないことをいう教師よりもずっといい。
ちょっとやる気が出た。

「テツ、赤司が呼んでるぜ…って、おいおい、球技大会、苗字さんがでんのかよ」
「流れで出ることになっちゃっただけだから」
「マジかよ、こりゃ見に行かねーとな、テツ」
「はい、名前さんさんが運動しているところってあまり見ませんから、レアです」
「お前ら私のことなんだと思ってんの?」

教室の前のドアからひょっこりと顔をのぞかせた青峰が黒板を見て呆れたような顔をした。
こいつはバスケ馬鹿だから、女子の試合を見に来るらしい。
ちなみに自分は参加しないのだとニヤニヤしながら言っていた、羨ましいだろうとも。

どうやら青峰にしろ、テツヤにしろ、私が運動をしている姿が想像できないらしい。
まあ1年のころからずっと運動関係の行事はできる限り避けてきた。
だから当然といえば当然だ。
青峰は私が1勝でもしたら飲み物を奢ってくれるらしい。
うん、やる気+1。

見られるのは恥ずかしいけど、そんなにバスケ部が見に来るなら適当なことはできない。
それに勝てばそれなりにものがもらえるときた。
一勝すれば、お菓子と飲み物。
優勝すれば、某高級アイス。
ふむ、ちょっと頑張ろうか。


(食べ物に弱いからな)(仕方ない、できるだけ頑張ってみよう)
prev next bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -