04.天然産です
購買部に行ったというのに、まだ10分ほどしか休み時間を消費していなかった。
テツヤは私にいちごミルクを手渡し、コーヒー牛乳のパックを机に置いた。

「まあ、こんな感じです」
「…いや、マジですごい」
「そうですかね?」

テツヤ曰く、いつもこんな感じらしい。
どんなに混んでいても、人にぶつかられて外にはねだされるということがないらしい。
適当に流れに乗っていれば、大抵先頭に辿り着く。
漂流しているものと同じだと。

私はいちごミルクのパックにストローを指しつつ、その話を聞いた。
いやはや、素晴らしい能力だ。

「羨ましいなあ、その能力があれば私も面倒な人と関わらなくて済むのに」
「面倒な人と関わることがあったんですか?」
「青峰は面倒な人じゃないと思う?」
「…僕はそうは思いませんが、名前さんさんにとってはそうかもしれません」

まあ、面倒といっても悪い人じゃないから邪険にすることはない。
ただ周りの目とか、そういうのが面倒であまり関わりたくない。
青峰は何も悪くないのだ、悪いのは私と周囲の環境、割合は7:3。

最近はテツヤがレギュラーの昼食に呼ばれるようになったので、青峰が教室に来ることは少なくなってきている。
私はキセリョグループの女子と昼はよく居るという状況に戻っている。
まあ今日はテツヤと私、2人での昼食なる。
私はテツヤの前の席の人の椅子を借りて、テツヤの前に座った。

「濃い人と一緒にいるとなんか疲れるもん。青峰と一緒にいるのは楽しいけど後々どっと疲れる。普段普通の人といるとギャップがねー」
「なんとなく分からないこともないですけど…」
「私はテツヤくらいがちょうどいいよ」

お弁当を開きつつ、しみじみと思ったことを話す。
テツヤは良くも悪くも普通だ。
いや、極端に薄いところは普通じゃないけどそれくらい。
ちょっと人と違うところもありつつ、それ以外は平凡。
完全に特徴的なところがない人はもうそれは普通じゃない。

さて、そんなテツヤはちょっと顔を赤くして、そうですか、と答えた。
今の会話のどこに照れるところがあったんだ、多感なのか。

「今日は彼女たちのところに行かなくていいんですか?」
「大丈夫。美緒たちには今日は超常体験してくるって伝えてあるから」
「それ、ちゃんと伝わってるんですか?」
「うん。あっそ、って言われたし」

美緒は去年1年一緒だったこともあり、私の扱いに慣れている。
私が誰と昼食を摂ろうと、彼女は何も言わない。
来るもの拒まず、来ないもの追わず。
そのストイックな姿勢が私は好きだ。

卵焼きを口に含む、私好みのあまじょっぱさ、さすがお母さん娘のことは何でも知ってる。

「女子はよくわかりませんね」
「そう?」
「普通あっそ、なんて言われたら傷つきませんか」
「まあ、普通はそうかも。でも間に信頼関係があれば問題ないっしょ。シャララ君がいじられてるのと同じ」
「なんでそれ、知ってるんですか」
「この前、美香子に連れられて体育館行ったんだ。その時に見た」

まあ見ていたのはほんの10分程度。
丁度ストレッチをしているようなときに見に行った。
その際に、シャララ君が青峰にどつかれているのを見たのだ。
まあシャララ君、いろんな人に愛想振り撒いてストレッチ適当だったから青峰のちょっかいは妥当だ。

空になったお弁当箱を畳みながらそういうと、テツヤは黙った。
どうしたのだろうと思うが、私も何も言わず、温くなったいちごミルクを喉に流す。
クッソ甘い。

「名前さんさんはバスケの試合、見に来ないんですか」
「少なくとも今の時期は無理。体育館のあの熱気に当てられて10分が精一杯だったし」
「そうですか…、冬なら来てくれますか?」

冬ならあの熱気に耐えられるだろうか。
少し考えてみた…あの掛け声と黄色い声援に耐えられるなら大丈夫だけどどうだろう。
ああいう威勢のいい声というのは苦手だ。
普段聞くことがない(ように兄たちが尽力している)から、どうしても慣れない。
ビリビリしてて、ちょっと怖いような気がするのだ。

どうだろうなあ、と悩んでいると、テツヤの少しだけ高い声がその淀んだ思考を掻き消した。

「名前さんさんが来てくれたら嬉しいです」

飲んでいたいちごミルクがべこっと音を立てる。
あーこれは冬に一回くらい試合見に行くパターンだわ。


(テツヤって天然?)(はい?)
prev next bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -