隣の透明人間くん
私の隣の男は影が薄い。
いつの間にかいて、いつの間にかいなくなってる。

「っあー!もう何でいないの!」
「どうしたの、名前さん」
「黒子!何でいないわけ!?私が独り言言ってるみたいじゃん!」
「あの、いますけど…」
「いるんかい!返事してよ…!」

通路を挟んで廊下側の友人はいつもの光景に苦笑を漏らすばかりだった。
仲いいわねーと無責任な言葉を置き去りに、別の子の席の近くに移動してしまった。

私は恥ずかしいやらなんやらで、黒子に当たり散らす。

「それで、明日の日直の話ですよね」
「…そう、それよ」
「国語のノートを回収して、先生のところに持っていけと」
「うん…なんか疲れた」
「お疲れ様です」

薄く微笑んで黒子は飴を差し出してきた。
のど飴だった、大声出した後の喉に優しいのでありがたくいただいておく。

黒子はとてもいい人だ、それはわかってる。
たが、あまりにも薄すぎる。

私はもともと人を認知するのが苦手で、しょっちゅう人を見失う。
挙句に知らない人に声をかけてしまうというドジ。
人の顔の判別がうまくできずに、覚えるのも苦手。
そのせいか、黒子は特に認識できない。

「あ、黒子。朝夕は私がやるからいいよ。アンタ部活でしょ?」
「いえ、それは悪いです」
「いいって。どうせ私部活ないし。暇だし。黒子、バスケ頑張ってるんだからさ、応援させてよ」

うちの中学のバスケ部は厳しいことで有名だ。
私は運動に興味がないのでそんなこと知らずに入学したけど、中にはそのバスケ部に入りたいがために入学する人も少なくなかった。
まあそんなこと、一介の入学者には関係なく。
まあでも、応援くらいはするべきかなってくらい。

「そうですか…?」
「うん、だから何か奢ってよね。それでちゃら!」
「応援するんじゃなかったんですか」
「応援もしてあげるんだからさ」

苦笑を漏らす黒子だけど、結局分かりました、とそう言ってくれるんだからやっぱり優しい。



(名前さんってさ、馬鹿だよね?)(うん、黒子くんわざと返事してなかったよね)(黒子くんに遊ばれてるよね、名前さん)(ま、いいんじゃないかな、仲よさそうだし)
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