ステルス迷彩ごっこに私は興味津々だ。
「できないの?黒子」
「名前さんさんはスネークさんになりたいんですか」
「スネークにさん付けすると気持ち悪いね」
「知りませんよ」
天然のステルス迷彩を持ちあわせるテツヤなら、いくらでもそれくらいできそうな気がする。
彼がいればもう段ボールを被らなくてもいいんだよ、スネーク!
「…まあできますね」
「できんの!?」
まじか、結構冗談のつもりで言ってたのに。
テツヤは手に持った本をぱたんと閉じた。
「やってみますか?」
「うん、ぜひ!」
やばい、この人魔法使いか何かなのかな?
じゃあ、次の昼休みに実践してみましょう、と言いだしたテツヤのせいで私は4時間目の授業、ワクワクして寝ることができなかった。
4時間目の授業を珍しく寝ることなく過ごした私は、少し眠たい目をかっぴらいてテツヤの席に向かった。
相変わらず彼は薄く、見えづらい。
「名前さんさん、今日のお昼はお弁当ですか?」
「そうだよ」
「なら、飲み物を買いに行ってみましょう。一緒に」
机の傍によると、テツヤが唐突にそう言いだした。
私の家はいつもお母さんがお弁当を作ってくれる。
低血圧で大変なのに、毎日頑張ってくれているので頭が上がらない。
閑話休題、どうやらこれから購買に向かうらしい。
この時間の購買は非常に込み合っており、飲み物を買うくらいじゃ行く気にならない。
お昼にいちごミルクが飲みたくなる時もあるが、あの混雑を思えばその気も沈む。
それくらいには人が多く、それは先輩になった2年でも変わりない。
少しばかり背の高いだけのテツヤと私では、購買で何か物を買うのは難しい様な気がした。
その感情が顔に出ていたのか、テツヤは薄らと笑って、大丈夫ですよ、という。
何が大丈夫なんだよ、と思ったが口には出さなかった。
前を歩くテツヤが、唐突に手をつないできたから。
「僕から離れないでくださいね、危ないですから」
階段を下りて、一階の購買部に辿り着いた。
目の前には人人人…いやこれ無理だろって思いながら見ていると、テツヤに手を引かれた。
ぼんやりしていたせいか、簡単にテツヤのほうに引き込まれる。
いや、いやいや、マジか。
ステルスしたいとか思ったけど、まさかこんなに密着することになるのか。
「あ、うん」
「僕から離れるとステルス機能がなくなりますから。さあ、行きましょうか」
「あーゲームでよくある設定だ」
「そういう感じです」
テツヤ、ゲームとかするんだろうか。
スネークを知っているようだったので、少しはするのかもしれない。
しかし、スネークの出てくるゲームをするイメージはない。
どちらかというと、あの村で暮らすゲームとかのほうがイメージできる。
さて、そんなことを思っている間にも、私たちは購買部に進む。
以外にも、サクサクと進むことができていて驚いた。
人の流れに乗っているようだった、誰も私たちを押しのけようとかそういうのはない。
「名前さんさん、何にします?」
「え、いちごミルク…」
「分かりました」
そしてあっという間に、購買部の一番奥にある自販機までだどりついた。
驚きだ、たいていの場合は身体の大きな運動部の人たちに妨害されて、入ることすらできないのに。
慣れた手つきでテツヤが自販機のボタンを押す。
「じゃあ、戻りましょうか」
無論、帰りも人の波に流されるだけで済んだ。
うわあ、すごい。マジですごい。
(リアルステルス機能とか科学者涙目)