「で、どうなの?シャララくんの影に隠れちゃってる感じ?」
「別に黄瀬君がいてもいなくても、僕の影は薄いですから変わりないですね」
あとシャララ君ってなんですか?と怪訝そうに聞いてきたテツヤ。
1年の時に隣になって以来なかなかに仲が良く、きちんと顔と名前が一致している人た。
それから、彼は彼なりの空気感があって、それも感知できるようになった。
1年前までは隣にいても全く気付かなかった私だが、慣れたものだ。
2年になって、また同じクラスのテツヤにシャララ君のことを聞いてみた。
彼はすぐにそれが黄瀬君と気付いたらしい、すごい。
「シャララ君って言うのは黄瀬君のコードネームね。秘密だよ?」
「…分かりました。あと、ネーミングセンスには突っ込みませんよ」
「どっちでもいいよ、それは」
シャララ君のネーミングとしては、纏っているオーラによるものだ。
なんというか、彼のオーラはシャランラーって感じ。
ちなみにテツヤは空気だから表現にしようがなく、青峰はぐわって感じ。
といっても誰も理解してくれないから言わないけど。
休み時間ももう終わる。
今はテツヤと席が離れているから、私は自分の席に戻らなければならない。
窓の淵から腰を浮かせて、さて行くかと思った時に、ふっと思い出した。
「あ、テツヤ。君はそんなに心配ないかもしれないけど、脇、締めたほうがいいよ」
「はい?」
脇フェチ、怖いからね。
放課後、鞄に必要最低限の教科書とノートだけを詰め込んで、席を立った。
部活に急ぐ黒子とすれ違い間際に挨拶をして、エールを送って、私は下校。
「ってわけで、レッツゴー!」
「いや、いやいや行かないから」
するはずが、1年からの友人に鞄を掴まれた。
やめてください、私の可愛いマスコットが!
ゲーセンでお金をかけて取ったぬいぐるみのパスケースが引っ張られてリールが伸びる。
ひええ、と情けない声を上げて、友達のほうへと戻る。
友人は夏の日差しのようにキラキラした目をこちらに向けて、ぐっと親指を立てた。
まじでご逝去してくれないかな。
「名前さん、これ、引きちぎるよ?」
「いやマジで勘弁してくださいそれだけは!」
「じゃ、行こうね」
何ていうか、内弁慶だからこうなるんだろうな。
どうにもならない私の性質に、内心イライラしながらも、彼女に引っ張られるように体育館に向かった。
体育館には雨の日でもこんなに人口密度高くないよね?ってくらい人がいた。
幸いなのは男子がおらず女子だけということ。
この蒸し暑いのに汗臭い男子がいたら私は泣く、その点女子はにおいに敏感だからいい匂い…が混ざり合って最悪だわ。
湿気と匂いで若干の吐き気すら覚える。
それに加えて、男の掛け声。
いやマジで帰りたい。
「…美香子、私もう無理…」
「え、うわ、顔色わるっ!え、いいよ、外出な!」
お前が連れて来ておいて何言ってんだというツッコミをする気力もなく、私は体育館から転がるように出た。
外の空気は相変わらず湿気ているが、体育館内よりは数倍まし。
ふう、と一息ついてたたきに座った。
まだ体育館の熱気が身体の中に籠っているような気がする。
エイオーという掛け声と黄色い声援のせいで耳が痛い。
しばらく、顔を俯かせていたが誰かが来るので慌てて立ち上がった。
別に普通の人ならそんなに慌てることないのだけど、この感じはやばい。
声をかけられたくない部類の人が近くにいる。
シャララ君じゃないし、青峰でもない、むろんテツヤでもない。
なんかもっとやばい奴。
「大丈夫か?」
「…あ、はい、大丈夫なんで、どぞ」
「そうか。気を付けろよ」
「あれ、苗字さんじゃん。よっ」
「…よっす」
げ、と言いたくなるのをぐっと堪えた。
立ち上がってなお、私よりもずっと高い位置にある赤髪。
ちらと私を視界に入れると、気遣うような言葉を吐いた。
その言葉で具合悪くなりそうだよ。
それと気を付けろって何にだよ、友人にか。
あと、さりげなく声かけてくんな青峰。
今いい感じに通り過ぎてくれそうだったやつが、またこっち見たじゃねーか。
「なんだ、青峰。知り合いか?」
「こいつ、テツのこと見失わねーやつなんだよ、な?」
「な、じゃねーよ。巻き込むな馬鹿峰」
ふざけんな、地に落ちろ青峰大輝。
そしてこっち見んな、赤髪。
ついでにその隣の長身緑眼鏡も見んな。
知り合いは極力作りたくない。
どうせ覚えられないし、覚えていなくて廊下で無視しちゃって関係最悪とかしょっちゅうなんだ。
視線を感じつつもそれを無視して青峰に食って掛かっておく。
「じゃ、私帰るから。ばいばい、馬鹿峰」
「馬鹿峰ってなんだよ!」
「そのままの意味だばーか」
「マジでかわいくねー!」
「ほっとけガングロ!」
小学生かってくらいの言い合いをしつつ、走って逃げた。
二度と放課後の体育館になんて行くもんか。
(こういうとき黒子のステルス機能は羨ましい)(というか私も欲しい、ステルス機能)