昨日泣いた鴉が今日は笑っている。
そんな感じだ、先週の落ち込みはどこへ行ったよ、テツヤ君や。
「テツヤって結構情緒不安定?」
「なんですか、突然」
テツヤは怪訝そうに私のほうを見た。
ま、そうなりますか。
先週、死にそうな感じだったのに、週末を終えてみれば、なんか元気になっていた。
顔色もよくなったし、笑顔も増えたし、ツッコミも健在。
何があったのか知らないが、心配したこちらの身にもなってくれ。
何だか私が疲れた、勝手に疲れただけだけど。
「先週はあんなに元気なかったくせにー」
「…もしかして、心配してました?」
「心当たりないんかーい。私の努力はなんだったんだーい」
「すみません、余裕がなかったものですから」
「別にいいんだけどね、私が勝手に元気だっただけだから」
でも何だか腑に落ちないんだよ。
ちょっとくらい何があったのかとか教えてくれたっていいじゃん。
仲良しじゃん?私ら。
机に突っ伏せてむくれていると、テツヤは本当に困ったような顔をするからこっちが困る。
「すみません。先週はちょっと部活で凹んでいたんです」
「でも解決したんでしょ?」
「はい。またこれから頑張ります」
「頑張り屋さんめー。無茶するなよー」
はい、と嬉しそうに言うテツヤはいつみても輝かしい。
全く青春してるな、貴様。
テツヤはどう見たって運動に向いていない。
だけど、自分が好きだから一生懸命にバスケをしている。
それってすごいことだよなあって私は思うのだ。
誰にヘタクソって言われても、馬鹿馬鹿しいって否定されても、一生懸命。
ちょっと羨ましくもなるのは秘密。
「黒子―、いるか?」
「いなくね?」
「いないわよ…ねえ名前さん!黒子知らない?」
「…いますよー、テツヤ。私の隣にいますよーみなさーん」
2人で話していると、廊下側から声がした。
私たちの席は窓際なので、教室全体で伝言ゲームが始まっていた。
廊下側の扉にいた男子から、黒板の近くにいた男子へ、そこから教卓前の席の女子へ。
そして、その子が私とそれなりに仲のいい子だから、そこから私へ飛んできた。
ぱっと視線が私のほうに集まるが、テツヤには気づいていない。
ある意味すごいなーと思いながらも、私は隣を指さした。
隣ではテツヤが、指を差さないでください、とどうでもいいお母さん的小言を零した。
「うわ、黒子いたの?」
「いました、最初から」
「青峰が呼んでるぞ…って、おーい青峰、お前何不法侵入決め込んでんだよ」
「不法もクソもねーだろ」
ざわざわとクラスが騒がしくなる。
いや、元から騒がしかったんだけど、騒がしさがまとまってきた。
そのまとまりの中央にいるのは、背の高いガングロだ。
なんか、NH○の動物番組で見たペンギンの巣みたいな頭をしてる。
ってか背が高い、マジで高い、お兄と同じくらい?うそお。
「どうしたんですか、青峰君。君が来るなんて珍しい」
「おう。赤司から伝言。今日の放課後、第一体育館だってよ」
「分かりました。わざわざありがとうございます」
どうやら部活の人らしい。
マジででけー、何センチあるんだろ。
座っているせいか、どうしても威圧的に感じてしまう。
あとガングロもいただけない、威圧感倍増。
ってかバスケって室内種目じゃん?
何でそんなに日焼けしてんの。
そう思いながら不躾に見ていたのが悪かたらしい、目があった。
「あ、もしかしてこいつ苗字さん名前さん?」
「え、何で知ってんの」
「夏休み、2人で遊びに行ったんだろ?」
「テツヤ君?君口軽くない?」
「言ってません」
青峰はエスパーかよ、馬鹿そうに見えるのに。
そう思ったけど、そんなわけはない。
だって馬鹿そう、見た目的に。
なんで?と黒子に聞くと懇切丁寧に説明してくれた。
「先日、バスケ部の1年で市民会館に行ったんです。課題をしに。その時に名前さんさんの絵と僕の写真を見て…」
「…わお、マジか。見たの?マジで?」
「見ました。ばっちり。綺麗でした」
「うわー、今からでも遅くないからあの時の私の首絞めてー」
まさか見るとは思っていなかった。
感想文の課題が出ると思ってもみなかったし、何よりそんなものわざわざ行って書くものでもない。
ちなみに私は空想の世界で市民会館に行って作品を見て、その感想を書いた。
ガングロがニヤニヤしながらこっちを見ている。
こっち見んな、小学生。
(んで、彼女?)(違います)(違う)(ガングロ君は下世話な想像しかできないの?思春期?発情期?)(ガングロ君ってなんだよ)(突っ込むとこ、そこですか)