“2人で来たい海に”
そう書かれた海の絵には、砂浜で寄りそう少年と少女が描かれていた。
美化ポスターのはずなのに、ゴミ一つ描かれていない。
ただ只管に綺麗な2種類の青と生成色の砂浜。
気恥ずかしく思うわけだ、これは。
僕は静かな市民会館で一人、頬を赤くしていた。
「へえ、綺麗な絵だなー。誰の?」
「クラスメイトです」
「ふーん」
学校の宿題で、夏休みの課題を見て感想文を書くようにというものが出た。
この課題に困惑したのは、男子バスケットボール部の1年。
大抵、放課後の部活で市民会館が閉館する時間には間に合わない、休日は部活があるし、何より会館の開館時間、土日祝は午前のみ。
学年全体で出された課題なので、無視することもできず。
監督が今日1日だけ、部活を早上がりにして部員全員で見に行くようにと促したのだ。
僕は最近仲良くなった青峰君と一緒に見て回っていた。
先ほど彼の作品も見たが、まあひどかった。
感想に困るくらいにはひどかった。
夏休みの1日をかけて、僕と名前さんさんは2つの課題を済ませた。
美化ポスターと河川の写真の課題だ。
名前さんさんは美化ポスターで、僕は河川の写真で入賞した。
まさかそんなことになるとは思ってもいなくて、二人で驚いたものだ。
入賞作品には、ちょっとした花が添えられる。
名前さんさんの作品を見つけるのは簡単だった。
「もしかして、こいつお前の写真に写ってたやつ?」
「…そうです」
「やるじゃんか、テツ。女子と2人で海とか!」
「静かにしてください、青峰君」
僕が入賞を果たした写真は、あの川辺で子供と遊ぶ名前さんさんの姿を映したものだった。
子どもとはしゃぐ中学生の図、川はオマケ程度のものなのに、なぜか入賞した。
コメントを見ると、川は人をつなぐ場所である、なんて書いてあった。
確かになと思うが、それでいいのだろうか。
茶化す青峰君を戒めながら、僕らは館内を見て回った。
その時見ていた作品を、僕はあまり覚えていなかった。
覚えていたのは、名前さんさんの作品ばかりだった。
(あんなにガサツそうな人があんなきれいな絵を描くなんて)