川辺のエンジェルはスナイパー
海岸線の見える高台を下りていく最中に、小さな川を見つけた。
子どもたちがそこで川遊びをしている。

「涼んでいこうよ!」
「え、混ざるんですか?」
「いや、さすがにそれはないけど。写真撮りたいし、少し休むにはちょうどよくない?」

テツヤは私の言葉にうなずいた。
彼もそんなに体力があるわけではないから、たびたび休みを入れることには賛成らしい。

私たちは自転車をベンチの脇に止めて、川辺に近づく。
子どもたちは小学生の高学年くらいの子から幼稚園くらいの子まで幅広い。
母親らしき人たちが川辺で子供たちを見張っていた。
私たちが近づくとちらとこちらを見たので、挨拶をしておいた。

挨拶とは偉大で、きちんと挨拶をするだけで警戒心は消えるらしい。
自転車で海を目指している、というと彼女たちは笑って青春ね、と言った。
その母親たちに頼んで、遊んでいる姿をちょっと撮らせてもらう。

「よし、写真の課題終わり!」
「え、それだけですか」
「それだけです!川入る!」

私は1度だけシャッターを切って、すぐに子どもたちの遊んでいる方へと走った。
いや、だって水鉄砲とか胸アツ。

「お姉さんもいーれて!」
「いいよー!」

素直ないい子だ、10歳くらいの男の子が笑いながらこちらに水鉄砲の口径を向けた。
いいよって笑顔で言ってる割にはデンジャラス。
慌てて水を避けると、背後から水飛沫。
今度は水鉄砲ボーイよりも年下っぽい女の子が小さな手のひらで水をかけてきた。
まあ、その小さな手のひらではそこまで多くの水はかけられないらしく、そこまでの被害はない。

と思っていると、その子のお姉さんらしき色違いのワンピースを着た女の子が不意打ちといわんばかりに脇腹に水鉄砲で水をかけてきた。

「ちょ、タンマ!話し合おうじゃないか!」
「もんどうむよう!」

踝のちょっと上までの水深だからか、子どもたちは駆け回っている。
私は水鉄砲ボーイアンドガールを避けつづけた。
いや、私武器持ってないし逃げるほかないよね。
しかし子供とは無情なもの、逃げる私を追いかけまわし、なんだかんだでかなり濡らされた。

「いや、子どもって怖いわ。手加減ってもんを知らないね」
「中学生のお姉さんに手加減なんてするわけないですよ」
「結構濡らされたー、…まあチャリ漕いでれば乾くか」
「大丈夫です、透けてないですから」
「そこ?」

テツヤはいつの間にかお母さま方と仲良くなっていた。
ベンチに座って、仄々と会話をしている。
なんというマダムキラー。

川から上がった私にタオルを差し出してくれるあたり、私のお母さんはテツヤなのかもしれない。
お母さま方と子どもたちにバイバイして、私たちは前に進む。
自転車の風は少し冷たく感じたけど、日差しは強く熱く感じた。


大きな川を渡り、国道を横切って、そうしてようやく海沿いの道路に出た。
海を見ると一気に会話が増えた。
普段おとなしいテツヤが楽しそうに海について話していた。

「久しぶりです、海に来るのは」
「あんまり来ないよね、泳げないし」
「はい、小学生の時に貝殻拾いに来た以来です」
「女子か!」

失礼ですね、とムッとした声が前から流れてくる。
ごめんごめんと気のない返事をすると、弁解するように図工の材料だったんです、と返してきた。
なるほど、それでフォトフレームでも作ったんだろうか。

私はここにいつ来ただろう。
海に行きたい、というと兄たちがこぞって車を出すので(一人だと車を出す機会がないらしい、たまには運転したいと張り切っていた)ここよりももう少し遠いところにある海に行っていた。
だから、この近所というほど近所でもなく、遠いというわけでもない微妙な距離にある大して綺麗でもない海に来たのはずっとずっと昔の記憶だ。

「私は…覚えてないなあ」
「あまりここまで来ることもないですしね」

キ、とテツヤは自転車を止めた。
浜辺に出る階段があるから、一度ここで自転車とはお別れ。

急な階段を登って、高い防波堤へ。
突然開けた視界に、目を細める。
キラキラ輝く水面だけが、視界に広がった。


(海だ)(海ですね)(大きいね)(大きいですね)(…海だああああ!)(ちょ、引っ張らないで!)
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