京都の夏は暑い。
締め切りの風呂場のような暑さ。
小走りで纏わりつくような風を振り払うように前に進んだ。
低い建物が多くて日影が少ないのも腹立たしい。
打ち水をしてもすぐ乾いてしまうのはそのせいだった。
暑さのあまり短くしたスカートを彼は下品と一蹴するだろうか。
まあそうだとしても、暑さには敵わない。
それにしても制されるとは不便なものだ。
おかげさまで、この暑いに男子は黒い長ズボンを履かなければならないし、冬の寒いに女子はスカートを着用しなければならない。
あほらしいが、それが制されるということ。
まあ、それでも世界はトントンになるようだが。
小走りのまま門扉を潜り、下駄箱でローファーを脱ぐ。
一瞬だけ足元が涼しくなるが、そのせいで上履きの不快さが際立った。
階段を上り、2階。
その奥の一室が1組の教室である。
開け放たれた後ろのドアから教室に入った。
教室内にはすでに9割方のクラスメイトが揃っていた。
挨拶もせず、廊下側2列目前から4番目に着席、しようとしてやめた。
こんな汗をかいた状況で座りたくない。
小走りで疲れたから座りたいが、座れば汗を拭くのも億劫になる。
腹立たしいが鞄だけを椅子に座らせ、その中からタオルを取り出そうとした。
「おはよう、ななしさん。珍しく遅かったな」
隣から差し出されたのは白いタオル、ついでに他愛のない会話のきっかけ。
ななしさんはそれを受け取るかどうか迷って、言葉を返した。
「やってみたかったの、遅刻ギリギリ」
言葉と一緒に、差し出されたタオルに手のひらを向けた。
さすがに人様のタオルを使うほど困ってはいない。
差し出した側の赤司はそれに気を悪くすることもなく、タオルを引っ込めた。
そして言葉だけを返す。
「そうか。感想は?」
「最悪」
汗を拭いながら涼しげな顔で最悪を語ったななしさんに、隣の赤司は苦笑した。
彼女はきっとこうなることをわかっていて実行したのだろうと赤司は思っていた。
ななしさんは普段合理的かつ冷静なくせに、変なところで遠回りをする。
汗を拭ってようやく落ち着いたらしいななしさんは、鞄を乱暴に机の横にかけて椅子に座った。
その顔には若干の疲労の色が見えた。
「走ってきたのか」
「いや…小走り程度。でも余裕がなくて疲れた。こんな思いをするなら朝の数十分なんて犠牲にすべきね。大体、そんな朝の数十分を大切にするくらいなら夜に数十分早く寝ればいいのよ」
「正論だな」
正論ではあるものの、それができない人もある。
ななしさんは理解できない、といわん限りにため息をついた。