09.死刑囚の末期
詳しい話は聞かなかった。
ただ、ななしさんの無気力の根源がそこにあるのなら、それはきっと根深く重大なものなのだろうということはよくわかった。

「…ななしさん、お前は芙蓉が何をしていたか知っているな」
「ええ」
「何をしていた?」

芙蓉の空白の20分。
やはりキーはそこだ。
そしてそのキーはななしさんが握り潰している。

答える気がないならそれでもいいと思った。
その時は、隙を見てあの双子に詳しい話を聞くだけだ。
ただ、赤司としてはななしさんの口から話が聞きたかった。
だからこんなくだらない推理ごっこをしているのだ。

「芙蓉は私の傍にいたわ」

ななしさんはもう隠さなかった。

そのせいで少々気がそがれた。
今まであんなに頑なに隠しているようなことを、こうもあっさり言ってくるのか。
なんだか遠回しに聞いていたのが無駄だったような気がしてくる。
ななしさんが諦めたのか、それとも飽きたのか。

「何のために?」
「私の発作を抑えるために。…もう面倒だから言っちゃうけど、私心臓病を持ってるの。それでそう長くは生きられないって言われてる。だから妹たちは私のことをいつかは死ぬお飾りだって言うのよ」

後者が正解だったようだ、ななしさんは推理ごっこに飽きたらしい。
今までの緊張感が一気に崩れたような感覚。
赤司ははあ、と一つ溜息をついた。

事の重大さと、ななしさんの適当さがミスマッチすぎて色々と実感がわかない。
これが死ぬといわれた人間なのか。

「なるほど」
「どう?蓋を開けてみたらとってもつまらないでしょう」
「そうだな」

ななしさんは本当につまらなそうに言った。
気の削がれた赤司はそれに軽く答える。

「蓋を開けるまでが面白いのよ、何事も。死刑宣告されるまでが大変だけど、宣告されてからは嫌に穏やかになる」

零された言葉はやたらに重かった。
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