03.隣人と部活
部活に出る気はあまりない。
やることもやる意味もないものに時間を費やすのは無駄だ。
だから滅多に参加しないのだが、今日は桃井に捕まってしまった。

身体を動かす事自体は嫌いなわけではない。
だから、適当に動いておいた。

「そういえばさ、青峰くん。ななしさんさんって運動神経いいみたい」
「なんだよ、突然」
「今日の体育で、ななしさんさん凄かったの」

桃井は何となくななしさんを気に入っているらしい。
俺には明け透けに話すななしさんだが、女子にはどこか一線を置くような態度を取る。
そのため桃井であっても、ななしさんと軽々しく友達になるのは難しいらしい。
友達になりたいからか、桃井はななしさんに関しての情報を良く知っているようで、それを俺に話してくる。
別に俺はななしさんの情報なんてどうでもいいのだが。
まあ休憩中の世間話にはもってこいか。

それにしても、ななしさんとスポーツが全く結びつかない。
あの色の白さとか線の細さとか、どう考えてもインドア系だ。

「今日の体育、女子はバスケだったんだけどね。私から見て上手だと思うくらい」
「そりゃ、すごいな」

桃井は今まで俺やその他の、キセキの世代を見てきた女だ。
その桃井を唸らせるとは、ななしさんは本当に出来るらしい。

「そりゃ男女の差はあると思うから、女子に当てはめてだけど・・・男子で当てはめるならテツくん程度の能力はあると思う」
「・・・なんか分かりづらくなったな」
「そう?」

テツといえば、俺らの中でも最も体力もテクニックもドベだった特殊能力持ちの不思議ちゃんだ。
あまりにも薄すぎる影を利用するという逆転の発想でシックスマンとして活躍していた。
あいつ、今どうしてんだかな、ちゃんと見つけられているのだろうか。

そのテツだが、まあ人並み以上には無論できる。
女子にしてはできるほうなのだろう、恐らく。

「へー今度見せてもらうか」
「え、それはななしさんさんがかわいそう」

そんな期待もしてない。
ただ桃井が興味を持ったということに興味を持っただけだ。


その話を聞いて、俺は部活を抜け出しななしさんの元へと向かった。
もう部活の方に戻るつもりは無いので、制服に着替えなおした。
堅苦しい詰襟をやっかみながらも、校内を歩く。
ななしさんは料理部に所属しているらしい事を桃井から聞いた。

料理部がどこで活動をしているかなんて、教えてもらわずとも想像が付く。
運動部並みに想像しやすいだろうと思う、家庭科室だ。

「え、誰?」

何も考えずに家庭科室を開けたら、知らない女どもの視線が一気に集まった。
悪い気はしないが、いい気もしない。
いかんせん向けられる視線は、こいつ誰、とか、青峰くんだ怖い、みたいな感じだ。
そしてななしさんは見つからない。
チビだから埋もれてしまっているのだろう。

「ななしさん、いるか」
「ななしさんさんはまだ来てないよ。あの子、味見役だから」

なんだそれ。
いやいや、料理部ってのは作ってなんぼじゃないのか。
何だ、味見役って。

「えっと、一年の青峰君でしょ?私、若松君のクラスメイトだから話は聞いてるよ。とりあえず、ななしさんさんが来るのはまだ先だから、いったん戻ったら?」

若松のクラスメイトだという2年の女は苦笑しながらそう言った。
今日の料理が出来上がるのはあと1時間くらい後なのだという。
どうやら煮込み料理に挑戦しているらしく、家庭科室は暑かった。

戻ればいいといわれても、もう戻る気にはならない。
とりあえずどこかで時間を潰そうと、家庭科室から近い空き教室を探した。
普通の教室では暑いから、どこか冷房が入っている場所。
そう考えて、構内図を思い出して、結果的に図書室に来た。

「…いるじゃねえかよ、ななしさん」
「青峰、部活は?」

冷房の効いた図書室で優雅に本を読んでいるななしさんを見たときは脱力した。
家庭科室から1つ階を上がった先にある図書室にいるくらいなら、部に顔を出せといいたい。
とはいえ、俺も部活に出ずに体育館裏でたむろしていることがあるので人のことはいえないと思った。
エアコンのゴウゴウという重苦しい音以外は、何も音がない。
教師も今日は不在らしく、図書室にいるのはななしさんだけだった。

そして、自分が部活に行かないことを棚上げして、俺の部活の心配とは図太い。

「もう行った。ってか桃井がお前がバスケやるっていうから」
「やらないけど」
「体育でやったんだろ?」
「まあ…人並み」

桃井のいうことと相違点があるが、たぶんななしさんが謙遜しているだけだろう。
ななしさんは手に持っていた本にしおりを挟んで閉じた。
そして、時計を見上げる。
まるで俺なんていないみたいな対応の仕方。

その様子に少々苛立ちつつも、話を続ける。

「やろうぜ」
「青峰と、バスケ?やだよ、怖い」
「怖いってなんだよ」
「殺されそう」
「なんだよそれ」

ななしさんはようやくこちらを見た。
立っている俺を怪訝そうに見上げているその顔は、本当に面倒くさそうだった。

殺されそうと抑揚なく言われても、なんとも思えない。

「私チビだし、押しつぶされるでしょ」
「あーなるほどな、気を付ける」
「無理。青峰にそんな繊細な心遣いがあると思えない。無理」

まあ確かに、女を気遣うのが上手とかは思ってない。
そういうのは黄瀬や赤司、黒子の役割であって俺はそういうのは向いてない。
バスケしてる時だって楽しむことしか考えてないし。
確かに、推定身長150cmのななしさんと1on1やったらちょっとまずいかもしれない。

それにしてもこういう時に思い出すのは、中学時代のやつらばかりだなと感慨深く思った。
ななしさんを目の前にしていても、なぜか思い出すのは中学のことばかりだ。
まあ、入学して1か月ちょっとの高校にそんな愛着があるわけもないのか。

「青峰?」
「ああ…なんでもねえよ。手加減はする」
「それも嫌。手加減って言い方嫌い。…そうだな、身体を動かすくらいならいいよ」

ぼんやりと中学のことを思い出していると、目の前のななしさんが不思議そうにこちらを見ていた。
そうだ、俺はあそこには戻れない。
だというのに、なんて未練がましいのだろう、女か。

ななしさんにその場しのぎの言葉を返したら、辛辣な返事をもらってしまった。
この女は我がままだ。
欲しいと思ったらくれというし、嫌だと思ったら嫌だという。
だからこそ、女にしては付き合いやすいと思う。

ななしさんはバスケをするというよりかは、身体を動かすということにシフトチェンジしたらしい。
つまりはお遊び程度にやりましょうってことだ。

「おお、いいぜ」
「ちょうどよかった。これで美味しく部活のご飯が食べられそう」

ちゃっかりしてんな、ななしさん。
味見係を結構本気で行っているのだろうか。
ついでに俺も料理部の食事にありつけないかな、と思いつつ、涼しい図書室を後にした。
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