真っ直ぐで眩しくて、夏の太陽みたいだった。
直視できないほど、輝いていた。
一方の私はどうだろう。
何に関しても打ち込めず、何に関しても人並み以上にできる。
最初に青峰を見たときに、似てるなって思って嬉しくなった。
私みたいに、“できてしまうことのつまらなさ”を知っている人がいた。
高校に入って、ようやく安堵できる場所ができた。
しかし、それは1年もたなかった。
青峰は新しい目標を見つけて歩き出した。
立ち止まっている私は置いてけぼりになる。
つまらない私は、置いていかれる。
離れていく背中を見るのが苦しかった。
どんな形であれ、青峰のためになれたら必要とされるだろうか。
そう思ってやったことは、裏目に出た。
すべては、何事にも本気になれないせい。
青峰と私の大きく違うところは。
青峰は勇気があって、私にはそれがない。
本気になって、それに見捨てられるのが怖いから私はそれから逃げ出していた。
「…逃げてんじゃねーよ」
「っ、」
「ったく…よくもまあ、ここまで逃げたもんだな、おい」
青峰と追いかけっこ…なんて可愛らしくもない逃走劇をしていた私だが、体力の差は歴然。
今までの小休憩はトイレに逃げ込むことで回避していたが、昼休みはそうはいかなかった。
危惧していた数学の授業は、いつも通り時間超過。
教室内で青峰を振り切って廊下に出たものの、人が多すぎて向かいのトイレには逃げ込めなかった。
とりあえず人の間を縫って走り、青峰を撒こうとしたのだが無理だった。
最終的にただの鬼ごっこになった時点で私の負けは決まっていた。
現役IH出場選手VS料理部味見係のガチンコ勝負なら勝敗は目に見えている。
女子の憧れ、壁ドンをされた状況で私は青峰を見上げていた。
誰だよ、壁ドンがときめくとか言ったやつ。
めっちゃ怖いぞ、青峰の壁ドン。
怒っているのはよくわかっている。
青峰の性格上、ああいった青峰のことを小馬鹿にしたようなことをすれば怒るだろうと思っていた。
でもそれでも、私にできるのはそれくらいしかなかったのだ。
臆病な私は、頑張れと声をかける勇気すらなかった。
こっそりと試合を見に行って、こっそりと応援するような根暗だ。
表立って応援して、なんで見に来たんだって怒られるのが怖かった。
何本気になってるんだって言われるのが怖かった。
「なんか言えよ」
「…って、」
「あん?」
「だって…それくらいしか、できないから。私、青峰の隣になんて立てないよ。桃井さんみたいに支えることなんてできない。だってそうでしょ?私最初っから青峰に寄りかかってばっかだった。青峰はそれを許してくれていたけど、青峰はやること決まったし、もう立ち止まってはいないでしょ。私はもともと青峰の都合のいい時にちょっと遊ぶくらいの存在なんだよ。今は荷物じゃん。だから、」
喋っている最中に、もう視界がぼやけて、言葉も途切れ途切れで。
恥ずかしいし苦しいしでもう嫌になった。
どうやったらここから逃げ出せるか、そればっかり考える自分が大嫌いだ。
もう青峰を見ていられない。
零れる涙も気にせずに、俯いた。
制服のシャツにシミがつくのを、ただ眺めていた。
もう何も言えない、これ以上は言いたくない。
「何言ってんだお前」
ごちゃごちゃになった頭に響く低い声が、言っている。
馬鹿じゃねーのと。
「いつ俺がお前を荷物だっていったんだよ。いつ都合のいい女だって言った?全部お前の思い込みだろ、ななしさん」
「じゃあ何なの…?私はただの隣人だよ」
「おう。そうだ、お前はただの隣人だ。俺はその隣人を結構気に入ってんだよ。気に入ってんのに置いてくわけねーだろ。それにお前くらい担げる」
青峰は壁についていた手を私に向けた。
大きな手が迫ってきたからびっくりして逃げようとしたけど、そう簡単に逃げられるわけもなく。
手は私の脇の下にもぐりこんで、大人が子どもにするみたいに高い高いされた。
あまりの急展開に、眼が白黒とする。
意味が分からない。
「あん?軽すぎだろ。ありえん。やっぱもっと食うべきだな、ななしさんは」
「は…?」
「メロンパンばっか食ってねえで、肉食え、肉。だからつくべき場所にも肉がつかないんだ」
なんだこれは。
担げるっていうのを証明したかったのか。
それになんか結構ひどいことを言われている。
でも、ちょっと嬉しかった。
「…じゃあ、今度焼肉行こ、青峰の奢りね」
「は?なんで俺なんだよ」
「この前、言ってたじゃん。120円じゃ割に合わないって」
「おま、焼肉いくらすると思ってんだよ。10倍とかそういうレベルじゃねえだろ」
ぶつくさと文句を言いだした青峰にいつも通りだなあって安心した。
とりあえず降ろしてもらって、教室に戻ることにした。
歩きはじめても隣人は隣人のまま、変わってない。
色褪せることなく、青は私の隣にずっといてくれるようだ。
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