リリーのブレスレット
シリウスはそれだけ話すと俯いてしまった。
その隣のリーマスはもう聞いた話だったのだろう、冷静に話を進める。

「それで、なんだけどね。このピアスをどうするかシリウスは迷っているんだ。もし、2人が欲しいのであればあげようってシリウスはいっていたんだけど…ねえ?」
「…きっと父はシリウスさんに持っていて欲しかったからそれをあなたに渡したんでしょう。母はよく言っていました、父は優しくて家族思いな方だったって。シリウスさんのことが心配でそれをあげたんでしょう。…僕らから見てもシリウスさんは危なっかしいのであなたが持っていたほうが良いかと」

最後は苦笑しながらアルタイルはそういった。
それに釣られたようにリーマスが笑う。

続けてアルタイルは口を開く。

「それに、僕らはすでにお母様からお守りを貰っていますから。スピカと…ハリーもだよな」
「え?僕?」

今まで話が来なかったハリーは突然話を振られて驚いたようにアルタイルを見る。
アルタイルは不思議そうにハリーを見て、それからスピカを見た。

「…スピカ、」
「え、あ、ごめんって。忘れてたんだよ、いろいろあってさあ…」
「はぁ…その手首のブレスレットだ。外れないだろ」

ハリーは自分の右腕のブレスレットを見た。
シルバーでできたブレスレットは小さな百合のモチーフが付いていて、どちらかといえば女物だった。
しかし母の名がリリーと言うこともあり、それが気に入っていたのだ。

外れないのには焦ったが、ダーズリー家族にとられずにすんだので気にならなかった。

「それはお母様がリリーさんに頂いたアクセサリーなの。ネックレス、ピアス、ブレスレットの三点セットだったものを私たちに分けて与えたのよ」
「無論、守りの魔法をかけてな」

ハリーは驚いたようにそのブレスレットを見る。
アルタイルとスピカは自らのアクセサリーを見せた。
アルタイルにはネックレス、スピカにはピアスが各々あり、それらには百合のモチーフが付いている。

「お母様は、スネイプ教授と一緒にあの日の惨劇を見ていた。お母様とスネイプ教授がその場で持っていたリリーさんから貰ったブレスレットに守りの魔法をかけて、ハリーに持たせた。誰にも取り外しができないように、追加の魔法をかけて」
「誰から、それを?」
「スネイプ教授とお母様が話しているのを私が盗み聞きしたの」

悪戯好きなスピカは母の部屋に盗み聞きができる装置を置いていた。
偶然その日に訪れたスネイプ教授と母の話を盗み聞きしてしまったのだ。


4年の夏休みだった。
たびたびこの家に訪れる客だったので、セブルスが突然来ても誰も驚かない。
リビングにいたスピカが対応をした。

「あー、スネイプ先生。いらっしゃいませー、暑いですね…見てるだけでこっちまで暑いですー」
「一言余計だ、スピカ。名無しさんは?」

姿表しで突如現れたセブルスにスピカは驚く様子もなく、その真っ黒な格好を怪訝そうに見た。
リビングで冷却魔法がうまくいかず何度も杖を振っているスピカに、セブルスは杖を振る。
完璧に冷却魔法がかかったのか、一気に涼しくなった。

セブルスに御礼をして、スピカは答えた。

「自室ですよ。一緒に行きますー水分持っていってあげなきゃ…熱中症になっちゃいます」
「それは危ないな。手伝おう」
「いえいえ、お客様なんですから、どうぞ少し待っていてください」

キッチンに立つスピカの隣にスネイプは立つ。
もう手馴れたもので、スネイプは茶葉を用意していた。
スピカは諦めて手伝ってもらい、アイスティーとホットティーの両方を作り、名無しさんの自室に向かった。

自室をノックするとはい、と控えめな名無しさんの声。
その後少しして、何か?と素っ気無い返事が返ってきた。
スピカが面倒くさくなってきて、自室のドアを開ける。

名無しさんは自室の窓際の椅子で本を読んでいた。
ぼんやりと緩慢な動きで、開いたドアを見た。

「お母様、スネイプ先生がお見えですよー」
「あら…セブルス、珍しいこと」
「…名無しさん、話がある」

マイペースな母の姿にスピカは呆れつつも、サイドテーブルにお茶を置いた。
セブルスの様子を見るに、なにやら大切な話のようなのでスピカはそそくさと部屋を出る。

秘密主義の母は大切な話のときに部屋を出ろと命令することは無い。
そのかわりに、話が全く本題に向かわない。
そのため、相手側であるセブルスの機嫌が悪くなるのだ。
そうなると厄介なので、さっさと部屋を出るに尽きる。

そして、スピカの自室に戻りふと思い出す。
この前フレットとジョージと一緒に作った盗聴器が母の自室に置かれたままだった。
普段から自室に篭ることの多い母が熱中症にならないようにと仕掛けたものだ。
本をめくる音や、些細な音を逃さないように作られている。

最初は聴かないようにしようと思っていたが、やはり母とセブルスの会話が気になる。
アルタイルは決して母に昔のことなどを聞くなといっていたが、スピカは好奇心旺盛だ。

「聞いちゃえ…」

やることも無いし、少しくらい盗み聞きをしてもばれやしない。
そう思い、こっそりと耳をそばだてた。

「あのブレスレットはうまく動いている?」
「ああ、今年もあの子を守った。お前は本当に守りの魔法がうまい」
「ありがとう。でもね、あのアクセサリーセットにはきっとリリーの守りの呪文も入ってるんだよ。だからあんなに強い」

セブルスの声は聞いたことも無いくらい優しかった。
学校で聞くようなあの厳しい声でも、この家のリビングで聞いた呆れた声とも違う。
母の声も、穏やかだった。

「そうなのか…全く母親というのは強いものだな」
「そうかもね。あなたも大概強いけれど…まあ褒め合いはやめましょ。恥ずかしいわ、いい歳して」

くすくすと母の笑う声、滅多に笑うことの無い母が笑っていることに衝撃を受けた。
アルタイルと母を笑わせようと何度思ったことだろう。

アルタイルは勉強をし、優秀になれば母に喜ばれると思って頑張った。
スピカはたくさんの魔法を覚え、楽しい魔法を編み出せば母に喜ばれると思った。
幼い頃から、母が悲しそうな顔をしているのを見て、なんとか母に笑って欲しいと思ったのだ。
母は年月がたつに連れ、少しずつ笑うようになった。

だけれど、こんな風に笑った声は聞いたことが無かった。
昔からセブルスはよくこの家に来る。
だが、母とどういった関係だかは知らなかった。
まさかと思ったこともあったが、それはセブルスの口からNOという言葉を貰っている。

「とにかく、あのブレスレットがうまく働いてくれているようで安心したわ。あれはアルタイルとスピカのものとも連動して動いているから」
「元々は3つで1つだったからか」
「そう。便利で助かるわ。アルタイルかスピカを通じてハリーも守れるから。私にできるのはこの程度で申し訳ないけれど…」
「いや、十分だろう。名無しさんは警戒もされていないんだ、貴重な存在さ」

それ以降、名無しさんはアルタイルやスピカの学校生活についてセブルスに聞いていた。
2人がどんな子どもたちと触れ合い、どんなことに興味を持っているのか。

スピカは盗聴をやめ、耳のピアスに触れる。
これはハリーの母親が母に宛てたものだったのだ、それを母が重ねて守りの魔法をかけた。
去年も一昨年も、ずっと危険な目にあいかけていた自分たちを守っていたのだ。

セブルスのこともリリーのことも母のことも気になることはたくさんあった。
だけれど、母のあの優しい言葉は、温かいこのピアスは本物で。
やっぱり愛されているのだと、そう感じたのだ。



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