ナルシッサと星の指輪
「その後のことは、私にも分からん。だが、レギュラスは間違いなく、死喰い人として存在してはいた。それがレギュラスの両親の意志であったし、ブラック家の意向だった。フィアンセと結婚もしていた。…しかし、レギュラスが名無しさんとの関係を切ったとは思えなかったが」
「…レギュラスは、名無しさんにこっそり家を与えてそこに住まわせていたんですよ。ずっと」

一通り過去の話をしたルシウスは、紅茶に口をつけた。
次に口を開いたのは妻のナルシッサだった。

思いもよらない人物に、ルシウスまでもが彼女を見た。

「ブラック家の目に入らないような、マグルの目にもつかないような誰もいない森に、彼女はたった一人で。でもそれでもいいって名無しさんはそれを呑んだんです。レギュラスと一緒にいられて、それでいてレギュラスが一番楽な方法ならそれでいいと」

名無しさんは、卒業してからずっとレギュラスだけを見ていた。
レギュラスが卒業するまでの2年、彼女はマグルの世界で働き、それを待った。

そしてレギュラスは卒業と同時に、プロポーズをした。

「レギュラスが自らプロポーズをしたのは、名無しさんにだけ。フィアンセはいつの間にか決まっていましたから、挙式をしただけです。愛はなくとも、家のためということだったのでしょう。間違いなく、レギュラスは名無しさんだけを愛していました」
「…ちょっと待って?お母様の結婚指輪なんて私たち見たことないわ」

双子は疑問に思った、母の左手に結婚指輪が嵌っている姿を見たことが無い。
だから長年、母は結婚することなく子を成したと思っていたのだ。
母は父に捨てられたのではないかとそう思っていた。

「いいえ。名無しさんの左手の薬指には間違いなく指輪があったのよ。名無しさんの最期のとき、見えたでしょう?ねえ、あなたたち」

ナルシッサは辺りを見渡した。
戸惑いながらも頷いたのは、マルフォイ夫妻とシリウス、リーマスだった。
その面々は名無しさんの最期のときに、名無しさんの目の前にいた人々だ。

「確かに、ちらりと光るものがあったな…多分指輪だったと思う」
「多分、じゃなくてあれは指輪よ。あの指輪の仕掛けを考えたのは私なのだから、見間違うことなんて無いわ」

仕掛けを考えたのはナルシッサ、実際にその魔法をかけたのはレギュラスだった。



「ナルシッサお姉さま、お姉さまはルシウスさんにどのような指輪を貰ったのですか?」
「え?指輪って、結婚指輪のこと?」

唐突な質問にナルシッサはきょとんと従兄弟を見た。
椅子に掛けている従兄弟はなにやら古めかしい本手にしながら、そう問いかけた。
レギュラスは手元の本を見たまま、ナルシッサのほうは向かなかった。
きっとその頬は赤くなっているのだろうと、ナルシッサは気にせず答える。

「そうね、シルバーリングよ。あまり派手でないもの。どんな服にでも合う、シンプルなものだけれど」
「ああ、普段つけているわけですからシンプルなほうがいいのですね」
「そうそう。…あの子にあげるの?そうなるとちょっと大変ね」

ナルシッサとレギュラスの中でのあの子とは、必ず名無しさんを指す。
名無しさんはナルシッサとも仲がよかった。
昔にナルシッサの命を助けただとかで、ルシウスにも一目置かれていた。

しかし、純血の旧家の嫡男がどこの家の子とも知れぬ娘と一緒になることはできない。

「はい。表向きにはなれなくても、彼女はいいと…2年も僕のことを待っていてくれているんです。僕も何か形を残してあげたくて」
「本当に真っ直ぐなのね、あなたもあの子も。…よし、私も考えてみるわ。可愛い従兄弟と後輩のためだもの」

レギュラスはその言葉に、顔を上げた。
きょとんとナルシッサの顔を見て、やる気に満ちた様子だったのでありがとうございます、とだけ言った。

ナルシッサはレギュラスのことも、名無しさんのこともお気に入りだった。
3姉妹の末っ子だったがために、弟や妹というものに憧れていたからかもしれない。
入学したばかりの名無しさんを見て、見ていられないと母性を刺激されたこともあるくらいだ。
ときどきスリザリンにやってくる名無しさんによく世話を焼いていた。
レギュラスに関しても然りである…とはいえあの乱暴なシリウスには辟易していたが。

「デザインとかなら考えられるけれど…」
「そうですね…じゃあ、女性としてこんな魔法がかかってたら嬉しいとかありますか?名無しさんを守るために何らかの魔法はかけようと思っているのですが」

レギュラスは名無しさんの安全を第一に考えている。
もし名無しさんの存在が家にばれたら、最悪その存在を消されかねない。
そうさせないためにも、レギュラスはさまざまなことを考え名無しさんを守っていた。

「そうね…でも結婚指輪って双方がしていないと意味が無いでしょう?まず、ばれないようにしなきゃ」
「あ…そうか、僕もしなくちゃ意味が無いのか」
「…もしかして忘れていたの?もう、変なところで抜けているのね、あなたは」

うっかりしていた、と苦い顔で俯くレギュラスを苦笑しながらナルシッサは見た。
他の親族と比べて、すこしうっかりしたところがあるのがレギュラスの可愛いところでもある。
ブラック家の人間はかなり完璧主義者が多いので、そういったレギュラスの性格は貴重だ。
そういうナルシッサもブラック家の中ではおっとりしていて、ドジなのだが。
似たもの同士、仲がよい。

思案をしなおすレギュラスを見ながら、ふとナルシッサは思った。

「ねえ、こんなものはどうかしら?2人きりのときだけ姿を現す結婚指輪」
「2人きりのときだけ?」
「そう。そうすれば誰にもばれないし、2人きりのときは愛を確かめ合えるわ。2人だけの秘密って素敵じゃない?…あ、私は知ってしまったけれど…」

最後の言葉で少し落ち込んだナルシッサを尻目に、レギュラスは考えていた。
かなりいい案だとそう思ったのだ。

魔法自体もそう難しくない。
2人の魔力に呼応するようにすればいいだけだから、小半永久的に魔法がかけられる。

「ナルシッサお姉さま、その案頂きます。2人きりの秘密にはできないけれど、3人だけの秘密にしましょう。約束してもらえますか?」
「ええ、もちろんよ!その代わりできたら見せてね?待っているから」
「もちろんです、ナルシッサお姉さま」

楽しそうに笑うレギュラスの姿に、ナルシッサも喜んだ。



「結局、その指輪を見たのは名無しさんの最期のときだけだったわ…、素敵だったわね」
「最期…お父様の魔力があったということですか?」

アルタイルが不思議そうにナルシッサを見つめる。
その瞳は昔に見たレギュラスの瞳によく似たグレーだった。

その問いに答えたのはシリウスだった。

「名無しさんは最期に守護霊を出しただろう、アルタイル」
「ええ、犬でしたね」
「…昔の名無しさんの守護霊は犬ではなかった。元々は白鳥だったんだ。それが変化した」
「そして、レギュラスの守護霊は犬だった」

つまり、母の最期を延ばし、守っていたのは父だということだ。
どうやってそんなことができたのかはわからない、しかし指輪は姿を現したし守護霊は犬だった。

シリウスはどこか傷ついたように搾り出すように話していた。
一方のルシウスはとても冷静だ。
その違和感を抱えつつも、話は進む。



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