26.FATHERS
クリスマス休暇のホグワーツ特急は非常に混み合っていた。
まあ、ホグワーツであんなことがあったら当然と言えばそうなのかもしれない。

できれば、クリスマス休暇の前にジニーから日記帳を取り返したかったが、それは叶わなかった。
その上ジニーも含め、ウィーズリー家の兄弟たちは全員ホグワーツに残るらしかった。
シャルロッテは実家に帰ることになったらしい、コンパートメントには逃げられないようにとスピカ先輩と一緒に座らされている。

私もできればスーザンたちのコンパートメントにいたかったのだが、スピカ先輩が直々迎えに来てしまったので、こちらに来ざる終えなかった。
ブラック姉弟とシャルロッテ、それからセオドール、私の5人が集まっているコンパートメントを見た生徒たちはすぐに目を逸らしてそそくさと退散していく。

「ななしさん、それ、ヤタ?」
「あーうん。そうだよ」
「出してもいい?」
「…やめた方がいいと思う」

アルはいつも通りだ、マイペースに私の膝の上にある籠を指差して楽しそうにそういった。
その瞬間、隣のスピカ先輩がすごくいやそうな顔をしたので、出さない方がいいだろう。
そう?とマイペースになアルにセオドールがため息をついた。
シャルロッテはうんともすんとも言わず、窓の外の風景を眺めるばかりだ。

「そういえば、ドラコは?」
「あの子、今年はホグワーツに残るんですって」
「それは…またなんで」

そういえば、ホグワーツ特急に乗り込むとき、ドラコの姿を見なかった。
これだけ純血の家が集まるコンパートメントにもいないし、どこにいるのだろうと思ったら想定外の答えが返ってきた。
こういった危険が迫ったときに真っ先に帰りそうなドラコが居残っているとは。
大変に失礼なイメージではあるが…でも少し違和感があった。

ドラコの父もまた、狡賢く、己の身を守るためなら何でもするようなタイプだと思ったのだが。
初めて会った時も、パパにへりくだるような感じだった、周りも見ずに。
そんな人が一人息子を危険な城に残すなんて。

「まあ、理由なんて何でもいいわ。私、あの子があまり好きではないの」
「あー…」
「分かるでしょ?うちの父も、マルフォイ家の当主様があまり好きではないもの。気が合わないのね」
「分からないこともないですけど…」

スピカ先輩は矜持が高い。
家のことも、自分のことも、完璧にこなそうとするし、純血の家を取りまとめて話をすることもある。
この間だって純血の家として、この継承者のことについての方向性を遠回しに決めた。
触らないことは、無関係であることを明示するための行動だ。

スリザリンの継承者が誰かは知らないが、これのせいでスリザリンの関係者人間が人を襲っていると思われてもおかしくはないのだ。
というより、そうなるはずだった、ハリーがいなければ。
そうなったときに、スリザリンの、もっと細かく言うのであれば純血主義と思われる家が疑われる可能性が高い。
その時、何も知らないふりができるように、寮内で密会をしたのだ。

ドラコも矜持は高いが、それはあくまで自分のことだけだ。
マルフォイ家のことへの矜持しか持っていないような気がする、家自慢ばかりだし。
スピカ先輩は純血であることへの矜持がある。
優秀であること、美しい振る舞いをすること、それらはブラック家をよく見せるだけではなく、純血という存在自体の価値を上げる行為だ。
純血の人は、美しく優秀で高貴であると印象付けるための努力をしている、と思う。

「まあ、人それぞれですかね…」
「ななしさん、やっぱりヤタのゲージ、僕に貸してくれない?」
「ええー…、出さないでよ?」
「分かってる」

ただ、それは素晴らしいことだが、全員の人にそれを強いるのは違う。
別にスピカ先輩が他の人に強いているわけではないのだろうけど、プレッシャーにはなりそうだ。
優秀な人の発言は、往々にして重い。
そして何より、すべての人がスピカ先輩のように優秀でいられるわけでもない。

捉え方は様々だけど、人によっては彼女を重いと思う人間もいるだろう。
そんなことを言っていたらきりがないし、気にしていてもしょうがないから言わないけれど。

逆にアルは周囲に無関心でマイペースだ。
その方が一緒にいて楽というのはある。
それだけではいけないのだろうけど。

「ななしさん、こっちよ。…荷物はアルたちに任せればいいわ」
「うん、ヤタは任せて」
「あー…うん。ヤタ、大人しくね」

ガタン、と音を立てて完全に列車がとまったのを確認してから、スピカ先輩は立ち上がった。
居心地悪そうに窓の外を見ていたシャルロッテがいの一番に立ち上がって、荷物を取ろうとしたのを、スピカ先輩が制した。
確かにシャルロッテの片腕よりも一回り大きなトランクを網棚から降ろすのは危ない。
スピカ先輩はアルをちらっと見たが、彼はヤタの籠を持って離さなかった。

見かねたセオドールが代わりに鞄をすべて下し、最後にアルの頭を軽く叩いて先を歩いた。
アルはきょとんとしていたが、やがてヤタの籠を私に手渡して、代わりに私のトランクを持ってくれた。

「ヤタは冬眠とかするの?」
「基本的にはね。でも、暖かい場所ばかりにいるから最近はしてないかな」

普通爬虫類は冬場に冬眠をする。
ただ、暖かい場所ばかりにいる室内飼いの蛇たちはあまりそれをしようとはしない。
そのせいか、コンパートメントから出て、冷たい風に当たったのが嫌みたいで、籠の中で微かに唸っているくらいだ。
温室育ちなのだ、うちの蛇たちは。

列車を降りると、先を歩いていたスピカ先輩がたっと駆け足でホームを進み始めた。

「お父様!」
「ああ、スピカ、アル。お帰り。…ななしさんとシャルロッテは久しぶりだね」

その先には黒髪の背の高い男性が立っている、レギュラスさんだ。
細いラインの黒いコートも、あれだけ綺麗に着こなされていれば本望だろうと思うくらいには変わらず美人である。
スピカ先輩はレギュラスさんに駆け寄り、軽くハグをしていた。
私の周りの女の子は総じてファザコンだ。

そのレギュラスさんの隣で、私たちに手を振っている男性がいる。
初めて会う人だなあ、とぼんやり見ていると、背後のシャルロッテが歩いて彼の隣に立った。
なるほど、あの人がクラウチさんということだ。

「バーティに会うのは初めてかな、ななしさん?」
「あ、はい、初めまして。ななしさん・ななしと申します」
「ふうん、こいつがななしさんね」
「お前な…こちらはバーティミウス・クラウチ・ジュニア。シャルロッテのお父さんだね」

ルイス先輩とよく似た、濃いブラウンの髪にぎらついた褐色の瞳。
見れば見るほど、シャルロッテとは似ても似つかないことに驚いた。
そして性格に難ありだ…しかもかなりストレートに。
まあ、好き嫌いがあるのだろうし、私がそのうちの嫌いに分類されただけだろう。

形式的な挨拶だけをして、ちらっとシャルロッテを見た。
父に呆れたような視線を向ける彼女に、クラウチさんは気づいてないらしい。

「レギュ、お前この後どうするんだ?」
「彼女を送ってから、普通に帰る。…パーティには呼んでるんだから、少しくらいいいだろ。そんな目をするなよ」
「親父がくるんだよ」
「いい加減仲直りしろよ。十何年喧嘩してるつもりだ?バーティ?」

レギュラスさんがこんなにカジュアルに話しているのを初めて見たかもしれない。
ちょっと新鮮だし、こっちの方が私的には好きだ。
いい加減にしろ、とレギュラスさんに一周されたクラウチさんはため息をつきながら分かったよ、と引き下がった。

親子喧嘩を十何年もやっているとは、若々しいことだ。
シャルロッテは少し目を輝かせていた。
何がそんなにうれしいのか、私には分からなかったけど。

「すまないね、ななしさん。痴話話に付き合わせてしまって」
「いえ…」
「バーティは誰に対してでも、好き嫌いをストレートに出すタイプなんだ…スリザリンにはああいうのが偶にいる。悪い奴じゃないんだかね」

姿くらましがをして消えたクラウチさんを見送ってから、レギュラスさんは行こうか、と声を掛けてくれた。
苦笑いをしながら先を歩くレギュラスさんの話を聞きながら、私はドラコを思い出していた。
うんうん、いるよね、そういう人。

レギュラスさんは私をキングズクロス駅から少し離れた場所に留めてあるタクシーの前まで連れてきた。
どうやら今年もタクシーで帰ることになるらしい。

「では、ななしさん。また来年会おう」
「ななしさん、またね」

ブラック家の3人組と別れて、私は一人タクシーに乗り込んだ。
さて、パパに話すことがたくさんあるぞ。
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