24.WORRY
大広間での一件のあと、ハッフルパフ生はハリーのことを話し合った。
本当にジャスティンに蛇をけしかけたのかという話だ。
襲われそうになった本人とマクミランは、きっとそうだと意見を曲げなかった。

「ななしさんはどう思う?」
「正直、ハリーじゃないと思う。なんでハリーがジャスティンを襲うの?理由がない」
「ハリーはスリザリンの継承者なんだろ!」
「いや…何でスリザリンの継承者がグリフィンドールにいるの…」

サラザール・スリザリンという人は、蛇語を話すことができるパーセルマウスという能力の持ち主だった。
だから、蛇語を話すハリーはスリザリンの継承者なのだろうという意見が多いようだ。
私はそうは思わない、さっき言った通り、ハリーがグリフィンドールの生徒だからだ。

ジャスティンとマクミランは私に言ってもしょうがないと思ったらしく、ソファーを離れて別のグループに話に行ってしまった。
それにしてもハリーは毎年何かと大変だなと眉根を寄せる。
彼自身が何か悪いことをしたわけではないのに、彼が悪く言われるのだ。
なんとも不憫だが、同情しかしないあたり、私も大概だ。

「あ、セドリック先輩」
「ななしさん…なんだか大変だったみたいだね?」
「そうなんですよ。別にハリーは悪くないと思うんですけど…」

セドリック先輩は寮で留守番をしていたから、事情はルイス先輩とマクミランから聞いたらしい。
うんざり顔の私の前にココアを置いてくれた。
ななしさんはいつもこういうのに巻き込まれるね、と苦笑いをしながら。

そういえば直接的ではないにしろ、私も微妙に巻き込まれやすい体質な気がする。
嫌だなあと思ったのが顔に出たのか、セドリック先輩が笑い出した。

「まあ、実害がないだけ今年はいいね」
「そうですけどね。…ハリーのこと、どう思います?」
「うーん…正直な話、別に継承者じゃないと思う。パーセルマウスだって珍しいけど、居ないわけではないだろうし、何より、魔法族の親がいる時点で直系ではないにしろサラザール・スリザリンの血をどこかでもらっていてもおかしくはないしね」
「1000年も前の人ですもんね」

俺なんて可能性高いぞーとソファーの後ろから乗り出してきたルイス先輩がのんきに言った。
そういえばルイス先輩の家はそれなりに有名な純血の家だ。
スリザリンに入らないだけで、ほぼ純血の家は意外と多い。
ハリーなんて混血と言っていたし、可能性としては低い方なのかもしれないくらいだ。

ルイス先輩が私の前に座って、クッキーに手を伸ばした。
テーブルの近くに顔を寄せて、ちらっとこちらを見て、顔を寄せる。

「何ですか」
「…ななしさん、むしろ心配なのはお前だよ。ペットは隠しとけ」
「あ。…極力そうします」

私が蛇のペットを飼っているのは、ハッフルパフの同級生の中では知れたことだ。
ただ、このタイミングで思い出されると面倒なことになりかねない。
パパには連れ歩けと言われたが、流石にそれも難しそうだ。

クリスマスの時に連れて帰って、もしあれなら置いて行こうかな。
今は寒い時期だから、そもそもほとんど冬眠状態だから散歩にも出さないし、傍に置いておいても意味がない。
下手に噂になったり、最悪、傷つけられたりなんてしたら嫌だし。

「あ、そうだセド。お前、アイラが呼んでたぞ」
「…そっか。どこにいるかな?」
「さっき、寮の外に出てったぞ」
「あーうん、わかった」

ルイス先輩はクッキーを食べながら、意地悪そうな笑みを浮かべて、お茶を入れてくれていたセドリック先輩にそういった。
セドリック先輩はそれを聞いた瞬間、お茶を入れていた手をぴたっと止めた。
基本的にセドリック先輩は曖昧に笑みを浮かべている。
しかしその曖昧な笑みは、その時々によって雰囲気を変える、今回は穏やかな感じから一気に面倒くさそうなものに変わった。

アイラさんに会いたくないんだろうなというのがひしひしと伝わる。
私はセドリック先輩が気を取り直して淹れてくれたお茶を手に取った。
彼はそれを見ると、ちょっと言ってくる、と小走りで寮の外に繋がる太った修道士の絵画をくぐって行った。

「…で、ななしさん。賭けに負けたのはお前だ。約束は守れよ」
「はいはい。…以前、呪いの話をしてくれましたよね、ルイス先輩」
「ああ、そうだな。そういうやつか」
「そうです。呪いの掛かった逸品を私とシャルロッテ、それからジニーで共有しています。それには作られた年代が書いてあるんです。その逸品について今、調べている最中です」
「…お前、結構危ないことやってんな」

声を潜めて私の今の秘密を伝えると、ルイス先輩はうげ、とドラコと出くわしたときのロンと同じような顔をした。
もっと詳しく話せというので、その呪いの詳細と、T・M・リドルという人物、ノートが作られた年代。
相当危険そうなので父に話すということを伝えた。

ルイス先輩は私の話を真剣に聞いて、それから口を開いた。

「…で、それ今はどこにあるんだ?」
「それが、この間ジニーの手に渡ってしまったんです」
「うわ…マジかよ。よりによって一番馬鹿そうなやつに…」

だいぶ酷い言いようだ。
ただまあ、オブラートにも何も包まず事実のみを言うのであれば、間違いなくその通りだった。
一番手に渡ってはいけない人に渡っている現状。
それから、間もなくクリスマス休暇に差し掛かるということ。
すべて、物事は悪い方向に向かっている。

ルイス先輩は秘密を一つ聞いて、私の行動の意味を理解したらしい。

「レストレンジの肖像画を気にしていたのは、そのころのことを聞くためか」
「そうです。ティエランドロさんは丁度50年前にこのホグワーツの7年生だったみたいです。スリザリンの出自ということですし、何か知っているかも」
「まあ…ダメもとで行ってみる価値はあるかもな」

ダメ元とルイス先輩は断言した。
私はそこに首を傾げたが、その意味は行ってみてわかった。

ルイス先輩と私はティエランドロさんの絵画のある廊下に行った。
ティエランドロさんは本を読んでいて、この間の貴婦人はいないようだった。
貴婦人がいないことに安堵しつつ、私はティエランドロさんに声を掛けた。

「こんにちは、ティエランドロさん」
「こんにちは、ななしさん…今日はお連れがいるんだね」

ティエランドロさんは、ちらとルイス先輩を見た。
あまり興味がないようで、ちらっと見ただけで挨拶もなかった。
その光景に少し驚いた、ティエランドロさんはもっと礼儀を気にする人かと思っていた。
ルイス先輩にも初めまして、と声を掛けるかと思ったのだ。

ただ、ルイス先輩は特にそこは気にしていないようだった。
むしろ、当たり前のように廊下の端に移動した。

「はい。最近物騒なので、1人では動かないようにと」
「ああ…警戒するに越したことはないだろうね。あの時いなくなったのも、ハッフルパフ生だった」
「え?」
「50年前のことを聞きに来たんだろう?」
「え、ええ…そうです」

ティエランドロさんは何でもないことの様に、50年前のことを話し始めた。
50年前に、ハッフルパフの生徒が3階女子トイレで何者かに殺害された。
殺害した犯人は、魔法生物だった。
それは秘密裏に処理された、ということだ。
もし、その事件と秘密の部屋に関連があるとすれば、その動物が秘密の部屋の脅威なのだろう。
今回もその動物が放たれている可能性はある。

「教えてくれてありがとうございます。あと一つだけ、聞いてもいいですか」
「ああ、どうぞ」
「ティエランドロさんは、スリザリンの継承者が誰だか知っていますか?」

絵画の中でゆったりと指を振って紅茶を淹れだしたティエランドロさんは、ぴたりとその指を止めた。
ただ、ティーポットは動きを止めることなく、きちんとカップに紅茶を注ぎ終わってからテーブルに戻った。
ティーカップに指を掛けながら、ティエランドロさんは答えた。

「そこには答えられない。…スリザリンに選ばれた者たちは誰もその者のことを言いはしないだろう」

優雅に組んでいた足を組みなおしたティエランドロさんは、微笑んだままだ。
ただ、ぴしゃり、と質問をはねのけた。
これは絶対に答えてもらえない、それは明白だった。
あまりしつこく食い下がると、今後の関係にひびが入りそうだから、やめておいた。

「わかりました。ありがとうございました」
「ああ…くれぐれも、深入りはしないことだね。身内を悲しませるようなことはすべきでない」
「肝に銘じます」

ティエランドロさんはそれだけ話すと、もう帰りなさい、と言って本を開きだした。
どうやらこれ以上の話は聞けないようだ。
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