22.GAMBLING
一応、パパには事の経緯を手紙にして送っておいた。
私自身もジニーやシャルロッテにコンタクトを取ろうとしては見ているが学年が違うのと寮が違うのとでうまくいかなかった。
いや、それだけではない。

「…マジで見に行くのか?」
「そうなりますね…」
「ロックハート先生が講師なんですよ!ああ、もう、ロックハート先生の実技が見られるなんて!私たちとってもラッキーよ、こんな機会って滅多にないもの!」
「あー OK、そうだな」

そっと隣を歩くルイス先輩の顔を見上げると、彼は苦々しい顔をしていた。
大抵の男子生徒はロックハートのことをよく思っていない。
高学年になるにつれて、その様子は顕著になる。
ルイス先輩もまた、ロックハートが嫌いだ。

事の発端は、掲示板に張られた羊皮紙1枚だった。
そこには、夜の8時、夕食を終えた後の大広間で決闘クラブを開催するという旨が書いてあった。
決闘を見に行くか、と思った人も多くいたらしいが、とある噂のせいで激減した。
決闘クラブの主催がロックハートという噂1つで、行く意味を見出せなくなる人が多くいたらしい。
私もそれは大いに頷けたので、行くのをやめようと思ったのだが、ハンナたちの勢いに負けて一緒に来た。

そして、ロックハート嫌いのルイス先輩がなぜついてくるのかといえば、ただ単に安全のためである。
基本的に下級生だけでの行動もよくないと上級生たちは思ったらしく、どんな移動にも誰か先輩が一人付くようになった。

そのせいで、というと非常に失礼ではあるが、私はやりたいことが何もできずにいる。
特にルイス先輩はクラウチ家とレストレンジ家にいい思いを抱いていないから、シャルロッテのところに行くのもダメ、ティエランドロさんのところもダメという感じだ。
そして極めつけに、彼自身、グリフィンドール生もあまり好きでないと来た。
全くと言っていいほど救いようがない状態だ。

「ななしさんも楽しみでしょ?」
「私的には、相手の先生が誰になるのかが気になるかな…、フリットウィック先生だと言いな、あの人強いらしいよ?」
「よく言うけどな、それ。実際には見たことないわ、俺も」

正直、全く楽しみではない。
ルイス先輩のことを散々棚に上げておいてあれだが、私もロックハート先生に期待はしていない。
そのロックハート先生の犠牲になる先生が可哀想だなというくらいだ。
酷い時間の無駄になるだろうから。

楽しそうに前を歩くスーザンとハンナ、その半歩後ろに苦笑いを浮かべているであろうミーニャ。
そして私とルイス先輩の5人組だ。
セドリック先輩はうっかり1つ課題を忘れていたそうで、泣く泣く欠席していた。
まばらに歩いているグリフィンドール生とスリザリン生が不思議そうにこちらを見ている。
上級生を連れ歩いているのが珍しいのだろう。

「あ、ハンナ、スーザン、ななしさんとミーニャも。こっちですよ!」
「ジャスティン、来てたんだ」
「はい。あ、エイブ先輩と一緒に来たんですよ。僕とアーニーが一緒です」

大広間は机がすべて撤去されていて、広い空間になっていた。
そこにはすでに生徒が10数人くらい集まっている。
見る限りでは、その殆どが3年生以下の下級生のようだ。

先に来ていたらしいジャスティンがハンナたちの姿を見つけたらしく手を振ってきた。
そちらに向かうと、マクミランと興味無さげに本を読んでいるエイブ先輩がいた。
エイブ先輩は本当についてきただけというような感じで、決闘クラブには全く興味がないらしい。
ルイス先輩に、後は任せたよ、と言ってそのまま大広間を出て行ってしまうくらいには。

押し付けられたルイス先輩はため息を一つついて、大広間にできている壇上をぼんやりと見上げていた。

「おい、ななしさん。誰が対戦相手か賭けようぜ」
「ええ?何を掛けるんですか」
「そうだな、もしお前が勝ったら、次のホグズミート行きの時に両手いっぱいのお菓子を買ってやる」
「ルイス先輩が勝ったら?」
「…お前の秘密を一つ俺に教えろ」
「何ですか、それ…」

暇を持て余したらしいルイス先輩がよく分からない賭けを持ち出してきた。
私の秘密が賭けに使われるとは思いもよらなかった。
一見すると、私の方に利があるように思える。
秘密といっても、適当なものでもでっち上げでも、ルイス先輩にはそれがばれないからだ。

ただ、適当な秘密を言うのは少し気が引ける。
それは私の性格上の問題だろう。
あまりにも対価のズレがある賭けはしたいと思わない。
しかし、勝った時の対価がかなり魅力的と来た。

どうしたものかな、と思ったが、これはいい機会なのかもしれない。
ルイス先輩が何を思ってこの賭けを始めたのかは定かでないが、もし彼が私に何かやりたいことがあるのでは、と疑ってこのようなことを言いだしたのであれば。
私が今持っている秘密の一つを明かすだけで、シャルロッテのところに行くのも、ティエランドロさんのところに行くのも可能になる。
悪くない賭けだ、悪くなさ過ぎて気持ち悪いくらいに。

「分かりました。いいですよ、賭けましょう」
「よし。お前からでいいぜ、誰が来ると思う?」
「…私は最初に言った通り、フリットウィック先生で」
「ほう、その心は」
「それ以外の先生は全力で断りそうだからです」

もし噂通り、決闘クラブの主催がロックハートだったとして、その相手を務めてくれそうな人は限られていると思う。
マグコナガル先生は断固拒否しそうだし、スネイプ先生は話も聞いてくれないんじゃなかろうか。
スプラウト先生は戦闘向きではないし、ピンズ先生も然り。
来てくれそうな人といったらフリットウィック先生くらいしか思い浮かばなかった。

一方、ルイス先輩はスネイプ先生に賭けた。
“魔法の一発でもぶっぱなしたいくらい苛ついてるのはスネイプ、合法なら絶対やる”という理由だ。
その話を聞いた瞬間、あ、と思った、これは負けた。
すごく説得力がある。

「見ろ、賭けは俺の勝ちだな」
「ルイス先輩の理由の説得力だけで負けた気がしましたもん」
「だろ?秘密は後でな」

壇上に現れたのは、派手なローブを着たロックハートと、対照的に真っ黒なスネイプ先生だった。
スネイプ先生は今にも視線でロックハートを射殺しそうである。
2人は壇上でお辞儀をした後、杖を構えて決闘のポーズをして見せた。
この2人のどちらが勝つか、なんて賭けはまともな人ならしないだろうなあと思いながら、壇上を見ていた。

結果から言うと、スネイプ先生の圧勝。
見事な武装解除の魔法が決まり、ロックハートは杖を飛ばされるだけでなく、身体ごとすっ飛んだ。
その威力には驚いた、スネイプ先生は昔から闇に対する防衛術の教師をしたいと言っているらしいが、なぜ断られるのかが謎なくらいだ。

そしてロックハートが壁にぶつかった瞬間、ルイス先輩はガッツポーズをしていた、どうやら彼も相当ストレスを感じていたらしい。
ロックハート先生とスネイプ先生の決闘だけを見て、ルイス先輩は私たちから離れて、壁際に向かった。
ルイス先輩は決闘に参加するつもりはないようだ。

秘密は何を話そうかと考えている間に、生徒たちの決闘が始まった。

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