6.MOODY SNAKE
「それで、フクロウを飼い始めるのね」
「そうなの、でも困っちゃって。お兄さんに相談したんだけど、いいじゃないですか!って力説されて」

私はパパからんお許可がおりたので、早速次の日にペットショップに向かった。
そこで例のお兄さんにあったのだ。
お兄さんは私がフクロウと猫のどちらも飼いたいということをなぜか知っていた。
そして、どちらも飼えばいいじゃないかとそう言い出したのだ。

パパにはフクロウを飼うといったし、その許可しかもらっていない。
というのに、お兄さんは半ば強引に猫を見せにかかった。
もともと猫が好きな私は、まあ迷ったわけで。
しかも、猫を断ることに手いっぱいで、結局フクロウを買えなかった。
あまりにしつこいので、逃げてきてしまったのだ。

「でも、フクロウは学校の子たちを使うでもいいんじゃない?飼うのは猫にして」

モネは猫好きだから、彼女もまた、猫を勧める一人のようだ。
私も猫は好き、だけど。

「…ナギニが食べちゃわないといいけど」

3m級のナギニにかかれば子猫なんて一飲みだ。
そんなことを言えば、私が飼おうとしているウサギフクロウもあっという間だろうけれど。
ナギニは賢いけど、人間味がありすぎて嫉妬して食べる可能性がある。

私の小さなつぶやきはモネには聞こえなかったようだ。
彼女は猫のワッペンのしてあるエプロンを揺らしながら、小首を傾げただけだった。

「もう一回パパと相談しようかな」
「それがいいと思うわ」

私はロイヤルミクルティーをかき回して、ため息をついた。
パパは一度決めたことをそう覆す人ではない。
話は長丁場になりそうだ。


「そういうわけで、やっぱり猫にしようかなって。手紙は書くから」
「ナギニは猫は食わない。そこは心配いらない。だが俺は猫が好かん」
「え、そうなの?」

いつも通り、漏れ鍋に迎えに来てくれたパパに、いつも通り、今日あったことを話した。
そして、本題に移る。

パパは眉根をひそめて、唸るようにそういった。
パパが猫嫌いなんて初めて聞いたし、今までそんな姿も見たことなかった。
確かに私が野良猫に触ろうとすると、汚いからやめろとかそういうことは言っていたけれど。

ちなみに、ナギニが私の飼うペットを食べてしまうのではないかという不安を言ったところ、きっぱりとそれはないといわれた。
まあ私もないとは思う、嫉妬したとしてもパパの命令は絶対守る子だから。
つまるところ、私のペットはパパに気に入られなければならない。

「…お前の母親のせいでな」
「ふぅん」

私は一言それだけ言った。
パパがママに関して言及するのは珍しいことだ。
ママの存在を私は知らない。
私が生まれてすぐに死んでしまったママについて私が知っているのは、魔女であったということだけ。

一度、ママのことについてパパに聞いたことがある。
私が6歳の時、小学校の授業で両親の紹介をするという授業があって、それで聞いた。
ママについて聞いたら、パパはすごく不機嫌になったのを覚えている。
一種のトラウマだ、パパはママについて私が2歳の時に死んだ、とだけ言った。

「とにかく、猫はダメだ」
「とはいいましてもねー、店員さんがすごいのなんのって」
「…だったらペットはなしだな。それにお前にはヤタがいるだろう」
「やだよ、ヤタ寝てばっかりだもん」

ヤタというのは私の生まれたときに孵化したナギニの息子に当たる蛇だ。
さすがに蛇をペットとして学校に連れて行こうとは思わない。
何よりあの子はだいぶ重いし、大きいし。
偶然にもアルビノで真っ赤な目が可愛いが、いかんせん蛇だ。
私は可愛いと思うが、一般の人はそうは思わないだろう。

というわけで、ヤタはお留守番。
ほかのペットがほしい。

「お前、子猫でも飼ってみろ。ナギニはともかく、ヤタは怒るぞ」
「え」
「ヤタはお前のペットだからな。寝てばかりだが、お前が他のペットに夢中になれば怒るだろう」

ヤタは春夏秋冬問わず寝ているぐうたらだ。
だからどうせ私が何を飼おうと何とも思わないだろうと思ったのだが。
パパはそうは思わないらしい。
蛇使いのパパがそういうなら、きっとそうなんだと思う。
飼ってた子猫が、気が付いたらヤタのおなかの中に…とかいやだな。

家に帰って、ご飯の準備ができるまでヤタのゲージを眺めた。
相変わらずヤタはヒーターの上で蜷局を巻いて寝ている。

「ヤター、猫飼ってもいい?」

一応、ヤタに声をかけてみた。
これはいつものことで、パパ曰く、話せばわかるだそうだ。
パパもナギニによく話しかけている。
ヤタは面倒そうに眼を薄く開いた。
赤い目がちらりとこちらを見て、シューと声を出した。
これは威嚇音だ、どうやらヤタは私が猫を飼うのに反対の模様。

「でもさ、ヤタを学校に連れていくわけにもいかないし」

ヤタはそういっても不満気に威嚇音を立てて、鎌首をもたげている。
ご立腹のご様子、いつも寝てるだけなのに。
いつもはヒーターの上から動かないのに、珍しくこちらに這ってくる。

「いまさら愛想をふりまかれましてもねー、ヤタ君」

捨てられる寸前の男みたいだ、未練がましい。
大切だと思うなら普段から気持ちを伝えなくては…という話はさておき。
彼は新たなペットを迎えたくはないらしい。
私の腕に絡みついたヤタはじっとこちらを見ている。

「ヤタは学校くる?」

ヤタは鎌首を縦に一度振って、私の首まで這い上がってきた。
冷たい感触にはもう慣れた。

それにしてもヤタは学校までついてくるようだ。
ヤタもまあまあでかい、成体だし当り前ではあるが2m位はある。
しかも重い、学校に持っていくには不向きなペットといえるだろう。

「パパに言ってみよう。で、ヤタがいけるようなら学校に連れていくペットはヤタにしちゃおう、しょうがないね」

ヤタは首に絡んだままだ。
はっきり言おう、重いし苦しいしでギブ。

「ヤタ、重いから離れて。パパのところに行こう。…ヤタにとってはママのところか」

パパのそばには必ずと言っていいほどナギニがいる。
だから、ヤタにとってはママのところだ。
ヤタはおとなしく私の足元に降りて行った。
きちんということを聞いてくれるあたり、従順なところもあるのだ。
私は階段を下りて、パパのもとに向かった。

パパはすでに夕食を作り終え、テーブルに運んでいるところだった。
私はそれを手伝い、ヤタは邪魔にならないようにナギニのもとへと向かった。

「パパ、やっぱりヤタを学校連れてく」
「それがいいだろうな。フクロウは学校のものを使えばいい」
「うん。で、ヤタ大きいから小さくできない?」
「お前、魔法を万能だと思っているだろう」
「できないの?」
「できる」

夕食のパンをちぎりながら、私は口を開いた。
パパはヤタを連れていくという結論に満足気だ。
どうやらパパにとってはそれが最もいいことだったらしい。
私はヤタをペットとして学校に連れていくなんて思いもよらなかったけれど、パパはそれを考えのうちにいれていたようだ。

本題のヤタのサイズについてだが、もったいぶってはいたがどうやらできるらしい。

「1mくらいにするか」
「え、もっと小さくていいよ」
「あまり小さくしすぎるとかわいそうだろう」

私は30pほどで十分だと思うのだが、それだと小さすぎるらしい。
結局ヤタは学校に行くときは1mほどの大きさにしてから、という結論に達した。
学校での私の印象が気になるところであるが、まあ仕方ないか。
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