21.GENEALOGY
思っていた矢先にこれか。
クディッチの試合が終わった次の日、私は一通の手紙を受け取った。
送り主はシャルロッテで、どうやらルイス先輩を気にして手紙での呼び出しに切り替えたらしい。
確かにそちらの方が空気が悪くならないからいいと思った。
ただ、図書館に行きたかったという言葉は“今日の午前、天文塔3階空き教室で待っています”と書いたシャルロッテには伝わらないのが難点だが。

前回とは違う空き教室に私を呼び出したシャルロッテは困ったような顔をしていた。

「ジニーが日記を返してくれと…でないと絶交するとまで言われたんです」
「ええー…何それ」

もう滅茶苦茶だ。
思うにシャルロッテはジニーに甘すぎる。
冷静だと思っていたが、意外と普通の友達大好き女の子のようだ。

パパに渡せと言われたこともあって、ジニーの手に渡すわけにはいかない。

「ジニーに渡すのはやっぱり危ないですよね…」
「そりゃね。私もいろいろ調べてみたけど、危なさそうだよ」
「でもジニーが彼に相談したいことがあるんだって言うんです」
「その相談、私たちにじゃダメなわけ?それっておかしいでしょ」

そうですよね、と悲しそうに微笑むシャルロッテだが、その心は決まっているように見える。
シャルロッテにとって、より仲がいいのはジニーだ。
なんとなく、そうなる気はしていた。

「今日は日記帳、持ってきてないよ。持ち歩くのも嫌だから」
「…分かっててやったんですね、ななしさんさん」
「いや、ただ単に本当に持ち歩きたくないだけ。調べれば調べるほど、気持ち悪いのよ」

呼ばれた時点で日記を持って行くか多少考えたが、考えた結果、やめるに至った。
どうせこのように言われて、持っていれば持ち帰ろうとしただろうことは想定内だ。
一気に不機嫌そうな無表情になったシャルロッテを冷静に見つめる。
シャルロッテだって、少し考えればジニーのためにならないことくらいわかるはずだ。
ただシャルロッテは冷静ではない。
親友に相当問い詰められたのだろう。
シャルロッテには悪いが、今は耐えてもらうしかない。
ジニーを守るためにも。

シャルロッテにはとにかく渡さないという旨を伝えて、その場を去った。
昼食までまだ少しある、図書館に行って、ティエランドロさんのことを調べよう。
そう思って、天文塔から図書館へ向かった。

図書館には殆ど人がいない。
今までは秘密の部屋を調べようとしていた人で溢れていたというのに。
若干不思議に思いながらも、魔法歴史学のジャンルの本が置いてある場所に直行した。
探している本は、“純血一族一覧”だ。
一族の家系図が出版されているのって、すごいと思う。

「あ、」

あった。
レストレンジ家の家系図の中に、ティエランドロさんの名前があった。
息子の名前はロドルファス、その上にティエランドロとかいてある。

今からおおよそ50年前の人だ。
ということは、何かしら秘密の部屋について知っているに違いない。
教えてくれるかどうかはさておき、何かアドバイスをくれることだろう。
問題は、いつそれを聞きに行くかになるが…ここのところ忙しくて自分の思い通りに物事が進まないことが多い。

本を棚に戻して、図書室から出ようとしたとき、慌ててやってきたセドリック先輩に会った。
セドリック先輩は走ってきたのか、荒い息のままだ。

「ななしさん!よかった…あまり1人で動いちゃダメだって、言ったろ?」
「あ、えと…すみません」
「…いや、ごめん。強く言いすぎた。早く寮に戻ろう」
「何かあったんですか?」

セドリック先輩にしては強い口調だったので、びっくりした。
一応謝っておいたが、セドリック先輩もばつの悪そうな顔をした。
ただ、その手は私の手を握って離さない。
早く戻ろうと急かすあたり、何かあったのだろうと思ったが、その場では教えてくれなかった。

手を引いて、図書室から出て、動く階段の踊り場に出てようやく、セドリック先輩はこちらを見た。
まだ身体が熱いのか、額には少し汗が浮かんでいる。

「昨日の晩、グリフィンドールの下級生が1人、石にされたらしい」
「え…」
「さっき、その噂が回ってきて、ハッフルパフは大騒ぎさ。その中で、またななしさんがいないなんて話になって、さらに大騒ぎ。捜索部隊が立ち上がったってわけだ」
「うっわ…なんか申し訳ないです…」
「それはいいんだけど…気を付けて、本当にななしさんって巻き込まれやすいし」

どうやら相当心配されていたらしい。
それにしてもグリフィンドール生の1人が石にされたとあっては、大ごとだ。
むしろ今まで噂にならなかったことの方に驚く。

先生たちは警戒を促すことをしないらしい。
どちらかといえば、事件を隠し、物事を穏便にやり過ごそうとしているような気さえする。
お陰で生徒の中では、自衛することが重要視されたり、噂が強い力を持ったりするようになっているようだ。

ハッフルパフ寮に戻ると、ハンナとスーザンが駆け寄ってきた。
2人とも慌てた様子だったから、本当に申し訳ない。
行き先くらい伝えておけばよかった。

「ななしさん!ああ、よかった…!」
「ごめん、行き先いえばよかったね」
「もー、ほんとよ!」

ルイス先輩が私を探しに出たきり、まだ帰ってきていないらしい。
不安そうにセドリック先輩を見上げたが、微笑んで、ジャックは有名な純血家の人だから大丈夫、と答えた。
ルイスという名前は“純血一族一覧”には載っていなかったが、本家の方の名前は載っているのかもしれない。

セドリック先輩はルイス先輩を探しに行くと言って寮を出た。
彼が出て行ったあとで、ハンナがこっそりと耳打ちしてくれた。
ルイス先輩の本家はクラウチ家なのだと。

「ほら、貴方が仲良くしてるシャルロッテ・クラウチが次期当主よ」
「あー…なるほど、それで機嫌が悪くなるんだ」
「そういうこと」
「だから、ルイス先輩はたぶん大丈夫よ。ディゴリーだって有名な家だし」

そういうハンナとスーザンも家としてはかなり有名だ。
考えてみると、私の周りは純血の家もしくは名家で固められているような気がする。

2人はようやく落ち着いてきたのか、座りましょ、とソファーの傍に移動した。
腰掛けて、一言目が爆弾だった。

「そういえば、ウィーズリーの女の子が来たわ。ジニーって子」
「え?何しに?」
「ななしさんに今日返してもらう予定のもので、寮にいないかもしれないから同室の子に頼むって言ってたんだって、言ってたんだけど…言い忘れたのかと思って渡したの、違った?」
「あーうん、ありがと、忘れてた」

怪訝そうな顔をしたハンナに、すっかり忘れてた、とだけ付け加えた。
本当は忘れてなんていないし、そもそもそんな約束はしていない。
だいぶ頭を使ってきたのか…それともシャルロッテに入れ知恵されたのか。

別にハンナが悪いわけではない。
…いや、仮にも人のものを勝手に他人に渡すのはどうかと思うけど。
でもジニーの言い方がうまかった。
あれは一見すればただのノートだから、貸し借りがあってもおかしくはない。

きっとハンナは中身を見なかったのだろう。
人のノートを盗み見るような子でもない。
だから、例えば私が1年の時に使っていたノートだと思ったのかもしれないし、ジニーとシャルロッテの3人で交換日記でもやっていると思われたのかもしれない。

ただ面倒なことになったことに違いはない。
クリスマス、パパになんて言おう。

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