20.TRAGIC
私はできる限りエイブ先輩から離れた位置を歩こう。
スーザンやハンナを先に行かせて、私は列の最後尾に立とうとした。
ただ、私の後ろにルイス先輩が自然についた。

『変わった子もいるものだわね』
『まあ、多様化したということだね…こんばんは、ななしさん』
「あ、こんばんは」
『全く、昔はこんなじゃなかったわ』
『良くも悪くも、今と昔は違いますな、マダム…』

階段を登ろうとすると、嫌味っぽい声が背後から聞こえた。
ちらと振り返ってみると、いつかの貴婦人がうっとおしそうにこちらを見ていた。
そしてその隣には、ティエランドロさんが立っている。
なんだかこの2人、いつも一緒にいるな。
そして、ティエランドロさんがいつもフォローを入れている…。

ティエランドロさんは私に気づいたようで、微笑みながら挨拶をしてくれた。
貴婦人はいつも愛想がないが、ティエランドロさんは愛想よく挨拶をしてくれる。
慌てて挨拶を返して、私はハンナの背中を追った。
後ろから、マダムの今に対する嫌味とティエランドロさんの皮肉が聞こえてきた。

「ななしさん、あの絵画と仲がいいのか?」
「あーうん、1年の時にちょっとありまして」
「ふうん…お前、あいつが誰だか分かってるか?」
「え?ティエランドロさんでしょ?」
「いや、ファミリーネーム」

ティエランドロさんたちが飾ってある階から遠ざかって、大広間にもう少しでつく。
今日の夕食は何だろうと考えていたそんなときに、後ろからついてきていたルイス先輩が、隣を歩きながら小声で聞いてきた。

ティエランドロさんのファミリーネームは聞いたことがない。
ただ、ドラコのことを知っているくらいだから純血なのだろうとは思うけれど。
ルイス先輩は眉根を潜めて、教えてくれた。

「あの絵画の名前は、ティエランドロ・レストレンジ。レストレンジ家の前当主だ。…息子夫婦は、今アズカバンにいる」

続けて、ルイス先輩はその息子夫婦が死食い人でロングボトム家の当主を惨殺した経歴があること。
それから、その経歴がありながらホグワーツにいるのはおかしいということを聞いた。
気を付けろ、と言われ、それに頷いておいたが、心の中では早く彼に会わなくてはという思いでいっぱいだった。

ルイス先輩の話を聞いた時に思ったのは、息子夫婦のヤバさじゃない。
息子夫婦の年齢が死食い人のということは、マルフォイ家やブラック家の現当主と同じくらいの年齢の可能性がある。
その可能性が当たっていたなら、ティエランドロさんは50年前の人だ。
つまり、50年前に開かれたという秘密の部屋の話を知っている可能性がある。

ティエランドロ・レストレンジという人について調べようと、ハンナたちを誘って図書館に行こうとした。が。

「え、図書館?明日はクディッチの試合見に行くんだから行かないわ」
「あー…そうだった」
「何、ななしさんったらもう忘れたの?」

別に忘れていたわけではない、それを覆い隠すぐらいの衝撃がさっきあったから、それで…ちょっと、忘れていただけだ。
ぜひとも調べたいが、単独行動を良しとしないから、明日は難しそうだ。
クディッチの試合が終わったら、調べに行くとしよう。

ハンナはもう、と笑いながら髪をとかしている。
明日はみんなでポニーテールにしようという話だ。
そういえば、スリザリン寮に行ったとき、アルがこっそり教えてくれた。
ドラコの初試合があるから見てやってほしいと。

スリザリンではクディッチが好きな人とそうでもない人の二極化が進んでいるのだという。
身近な人で言うなら、ドラコ、スピカ先輩、アルが好きな人、セオドール、ザビニ辺りがどうでもいいと思ってる人で別れる。
私的に、ブラック姉弟がクディッチ好きということに驚きを隠せなかったが、どうやらミスターブラックが元スリザリンのクディッチチームのシーカーだったそうだ。

アルは箒が苦手だが、スピカ先輩は上手でクディッチチームからの誘いがあったくらいだったらしい。
ただ、ブラック婦人が許さなかったそうだ、あんな危ないものと。
閑話休題、そういうわけで明日のクディッチを見に行かないという選択肢はない。

「ま、早く寝なさいよ、ななしさん。最近は夢見もいいんでしょ?」
「…まーね。あれ以来、怖いのは見てないから」
「ならいいんだけど。ななしさんって、どこか抜けてるっていうか、自分のことについて鈍感なところがあるから。気づかないところでストレス感じてたりしそうで心配なのよ」

小声でスーザンがそう囁いた。
本当にスーザンは面倒見がいいお母さんみたいな人だ。
いつもその優しさに助けられる。
ありがと、と返して、これ以上彼女に心配させないように、早めに布団に潜り込んだ。

クディッチの試合の見どころは、同級生のシーカーたちによる、スニッチ争奪戦だった。
ドラコがちょっと油断した隙に、ハリーがスニッチを見つけた。
ハリーの動きを見てドラコが追いかけ、観戦席の下を飛んだ時には、流石の私も下を見下ろしたくらいだ。
ミーニャは怖がって席に座ったままだったけど。

結局ハリーがスニッチを取って、試合終了となった。
が、ハリーの悲劇はここから始まったらしい。

「聞いた話だと、ただの骨折だったらしいんだけど…。ロックハート先生が治そうとして、骨を消しちゃったそうだ」
「うっわ…えっぐいな…」
「やったことないけど、再生魔法って相当だよな…」

セドリック先輩曰く、骨折したハリーの応急処置にロックハートが当たったらしい。
ロックハートを教師だと思っていない人はほとんどここで顔を歪めることになる。
結果としてハリーは骨折した骨ごと消され、今再生治療中とのことだった。

私たちはきょとんとしていたが、セドリック先輩とルイス先輩の顔にはご愁傷さま、という文字が貼られているかのようだった。

「再生治療は、ないものを作る行為だからね…魔法のレベルで言うと相当高いものなんだ。魔法の難易度が高ければ高いほど、魔法をかけられる対象に負担がかかる」
「なんか、想像できました」

もともとあるものを治す行為は、魔法界に置いてあまり難しいことではない。
それこそ、“レパロ”なんかは2年生で習う魔法だ。
しかし、もともと存在しないものを創造する魔法は難しい。
できないことはないが、時間と体力が必要になるのだろう。

魔法も万能というわけではない、何かしらの代償を得て行うものだ。
では人の手を借りずに動く呪いは?

「ルイス先輩。魔法って何かしらの代償、例えば魔力とか体力とか薬草とか…そう言うものを使って動くじゃないですか」
「まあそうだな」
「呪いをかけられたネックレスだとか、ああ言うものって何で動いているんですかね?」
「…お前、それを聞いてどうするんだよ。まさか作るとかないだろうな?」
「それはないです。ってか作る能力もないですし!ただの好奇心ですよ」

それを俺に聞いてくる時点で怪しいんだよ、と怪訝そうな顔をしたルイス先輩に睨まれたが、ただの好奇心だ。
…あの日記帳が何を得て動いているのかという、疑問を満たすための好奇心だ。

ルイス先輩はセドリック先輩をちらと見て、彼がこちらを見ていないことを確認してからはあ、とため息を一つついた。

「呪いってのは、基本的にかけっぱなしだ。かけるときに術者が掛けた魔力の強さに応じて効力を示す。だから時間が経てば経つほど、基本的には弱まる」
「へえ、弱まらないときもあるんですか」
「…中にはな。もうそこまで行くと、呪いの中に恨みやら妬みやら…そういう嫌な感情が入ってたりすんだよ。そういうもんは呪いの中で生き続けて、それもまた、魔力の代わりになったり、魔力を得ようと必死に動いたりするんだと。感情だけで生きてる呪いなんかもあるってわけだ」
「うわあ…気持ち悪いですね…」
「呪いは、かけっぱなし…解く方法がなかったりするからマジで厄介なんだよ。だから、よく分からんものには触るなってのが一般教養だ」

ルイス先輩は驚くほど詳しく教えてくれた。
嫌々、軽く教えてもらえるかなと思っていたからびっくりした。
その理由を、ルイス先輩は最後に明確にした。

「いいか、ななしさん。お前がもしそういうよくわからんものに触る機会があったら、それくらい考えとけ。マグル生まれはそういうところ、緩かったりするからな…何でもかんでも素敵な魔法、だなんて思うなよ」

ルイス先輩の真摯な言葉は、胸に刺さるようだった。
はい、と真面目に答えておいて、やはりこれは私が持っていた方がいい、と思った。
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