19.ODDBALL
こんな時でもクディッチはすると聞いた時の私の顔が酷かったのだろう、ハンナは苦笑いをしながら見に行かない?と小首を傾げた。
正直、見に行く気はあまりないのだが、ハンナの後ろで目を輝かせているセドリック先輩の威圧で首を縦に振るほかなかった。

「こんな時でもクディッチはやるんだ…」
「こんな時だからだと思うけどな」
「まあ…そうかもしれませんけど」

未だ、スリザリンの秘密の部屋について分かったことは特に何もない。
怯えている人は多いし、グリフィンドール生なんて授業中に先生に秘密の部屋について聞いたりなんてしてる。
そんなときでも、クディッチはいつも通り執り行われるということだった。

談話室の中ではすでに暖炉に火が入れられている。
ちょっと早いのだが、ハッフルパフには寒がりが多いらしい。
暖炉の傍で、ジャスティンがクディッチの試合の予想をスーザンに話していた。
ずっと怯えていたジャスティンだが、どうやらクディッチの時はそのことを忘れられるらしい。
楽しそうにスーザンと話をしていたから、あまり暗い顔をしているのは良くない。
だがそれでも、なんだか引っかかってしまう。

「ななしさんは気にしすぎじゃね?ジャスティンと同じくらい神経質になってるぞ」
「なんか嫌な感じがするっていうか…落ち着かないっていうか…」
「去年トロールにふっ飛ばされてケロッとしてたやつがこれだけ言うんだ、なんかあるのかねえ」
「でも、ななしさん。こういう時だからこそ、みんながグラウンドにいるっていうのは安心だと思うんだ」
「それは、まあ…そうですけど…」

そう、普通はそうだ。
マグル生まれではない私がここまで警戒しているのはちょっとおかしい。
自分でもそう思うが、なぜか気になって仕方ない。
この間の日記帳を触ってからか、とても神経質になっているみたいだ。

あの日記帳のことをパパに話したら、クリスマスの時になんとか2人を言いくるめて持って帰っておいでという答えが返ってきた。
それまではできる限り私が持っているように、もしくは、使うのなら3人で使うように。
パパの答えはそれだけだった。
見てみないと分からないということだろう。

また、秘密の部屋についてスリザリン生と話し合ったが、どの家の子も詳しい話は伏せられていた。
どの家も足並みをそろえて、黙秘をしているということだ。
それだけ、知られるとまずい秘密がそこにあるということではないか。

「ななしさん、本当に大丈夫かい…?」
「あ…ごめんなさい。大丈夫。クディッチは見に行きますよ」
「体調が悪いなら無理はしないでね。でも、見に来てくれたら嬉しいな」
「セドの試合じゃねーけどな、明日」
「観戦も好きだしね、僕は」

考えすぎかもしれない。
セドリック先輩が本当に心配そうな顔でこちらを見ていた。
ジャスティンと話をしているスーザンも不安そうにちらちらこちらの様子を見ている。

次のクディッチの試合は、スリザリンとグリフィンドールだ。
基本的に、この2者の局面は人気が高い。
もともと仲が悪いだけあって、試合も派手だからだ。

「ハンナ、なんか甘いものある?」
「え?うーん、マシュマロとビスコッティがあるわ」
「それ頂戴、多分甘いものが足りないからマイナス思考になるんだ」
「おーい、スーザンママ。娘さんが夕飯前に甘いお菓子をたらふく食べようとしてるぜ」
「ママじゃないです!でもななしさん、あなた甘いものばっかりね、ハロウィンからずっとじゃない」
「スーザン、ななしさんが甘いものばっかり食べるの、今に始まったことじゃないわ」

甘いものを食べて落ち着こう。
そう思ってハンナに声を掛けたら、ルイス先輩が茶化し、スーザンが突っ込み、ハンナが突っ込み。
一連の流れに、談話室はくすくす笑いの波に呑まれた。

結局、明日はセドリック先輩に連れられてクディッチの試合を見に行くことになった。
ハンナとスーザンがミーニャも誘おうと言い出したが、ミーニャは高いところが苦手だ。
あまりいい顔はしないだろうなと思いながら、大広間に向かった。

「あ、ミーニャ…それにエイブ先輩」
「ああ、セド。この子、君のところの友達だろう?1人で歩いていたんだ、危ないからちゃんと見てあげないと」
「すみません…ミーニャ、大丈夫だった?」
「え、あ…はい。大丈夫です。飼い猫が逃げちゃって…」
「え、嘘!見つかった?」
「うん、見つかったよ、ありがとう」

大広間に向かう途中の踊り場で、先頭を歩いていたセドリック先輩が足を止めた。
どうやらセドリック先輩のさらに上級生である先輩がいるらしい。
エイブ先輩と呼ばれていたその人は、アジア系の顔立ちをしていた。
名前はまんま英国人なのだが、どこかアジアの血が入っているのかもしれない。

セドリック先輩の後ろから顔を出してミーニャを見た。
ミーニャは肩から下げていたトートバックから、小さな子猫を取り出した。
どうやらもう逃げださないようにトートバックの中に閉じ込めたらしい。
子猫は不服そうな顔でミイミイ鳴いている、元気そうだ。

「君、ななしさんだね!」
「え…はい」
「うわさは聞いてるよ、日本から来たんだって?あそこはすごいね、マグル製品がものすごく発達している!ケイタイ、パソコン、車…ハイテク産業のトップだ!」
「はあ…」
「それに、あのクールなお菓子や伝説!羨ましいよ、ぜひ話を聞かせてくれ!」

エイブ先輩ってどこかで聞いたなとは思っていたが、そうだ、この間のハロウィンを企画した先輩だ。
セドリック先輩が、マグル学が好きな変わった先輩と遠回しに話していた。

それにしても、本当にグル学が好きな先輩らしい。
魔法界に来てから携帯なんて単語、初めて聞いたかもしれない。
綺麗なアッシュブラウンの瞳がきらきら輝いている。
話すのは構わないが、こんな廊下の踊り場でするような会話ではない。
困り顔でセドリック先輩を見上げると、彼はエイブ先輩をうまくいなして大広間に向かうように誘導してくれた。

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