18.KEEPS OUT OF DANGER
俺が送った手紙に即座に返信をくれたのはレギュラスだった。
そのような日記帳は父から聞いていない、家も探してみたがそれらしきものはないとのことだった。
オリオンには日記帳の内容は伝えたが、渡してはいないのだから当たり前だ。
ブラック家には別のものが置かれているが、それは手元にあるとの答えだった。

ルシウスからの返答がないという旨を記載したところ、その数日後にマルフォイ家とクラッブ家、ゴイル家への監査結果が贈られてきた。
どうやらレギュラスが魔法省を動かしたらしい。
そこまでする必要はなかったのだが、どうやらオリオンの息子は思ったよりも思い切ったことをする子のようだ。
それで立ち入り検査の結果を知らせてくれたが、日記帳はない。

「信じられませんよ、まったく」
「アブラクサスは渡した時から、興味なさそうだったからな…」
「普通、人から渡されたものを無断で誰かに渡すなんてことしませんでしょう」
「マルフォイは常識をあまり持ち合わせていない。昔からな」

生真面目な性格のレギュラスはルシウスの行動が許せないらしい。
もともとブラック家は規範を忠実に守る保守派だ。
規律や法律、一般常識や教養に口うるさい。
そのブラック家で育ったレギュラスにとって、マルフォイ家の金銭を使って自分のしていることを正当化させたり、常識を無視して平然としたりしている姿に腹が立つらしい。
暖炉越しに話をしているが、それでもレギュラスが苛立っているのがよくわかる。

ただ、闇の魔術がかかったものは大して見つからなかったということは、やはりマルフォイ家の中には日記帳はない。
あの日記帳には禁忌の闇の魔術がかかっているから、監査員はそれに検査杖(闇の魔術を見破ることを専門に作られた杖だ、ここ50年の間に開発された)をかざせばすぐにわかる。
やはりもう、マルフォイの手を離れている。

「…一度離れる」
「ええ」

ななしさんからの手紙だろう、森フクロウが窓の桟に止まっている。
ホグワーツでの実態を知るに最も適している方法だ。
ななしさんは意外とホウレンソウがなっている、怒られることやその後に起こる影響よりも、今の状況をよくすることを優先する傾向にある。

手紙はいつもよりも分厚い。
普段は多くとも2枚程度だというのに、今回はマチ付きの封筒に入っている。
開いてみると、1枚目にはいつもの手紙の内容…今は秘密の部屋についてのことが書かれている、それから2枚目に後輩のおかしな行動、体験そして。

「あいつが持ってるのか…」

おかしくなった後輩が持っていた日記を預かった。
ついでだから少し使ってみようと思ったら、意識を持って行かれそうになった。
怖いので相談しました、今はとりあえずヤタのゲージと一緒にいれています。
PS.私のハロウィンってどうしてこんなに不幸に見舞われるの?

その後の数枚の手紙は、日記の中の相手とのやり取りを紙に起こしたものらしい。
あの日記は書いた後にその文字が消えるように細工されている。
ななしさんもそれに気づいていたから、同時に記録を残そうと考えたのだろう。
賢いが、流石に首を突っ込みすぎだ。

「どうしたものか」
『ヤタは…大丈夫ね、多分』
「日記には手も口もないからな」

ヤタと一緒に閉じ込めたという一文を見たナギニが若干心配そうにしていたが、日記の中の記憶は魔力がないと1人では何もできない。
だからヤタに手を出されることはないだろうし、ななしさんも書き込みをしなければ無害だ。
問題はななしさんの手から日記をどうやって取り上げるか。

取り上げるのは簡単だ、こちらで調べるとでもいえばいい。
問題は、ななしさんの友達の方だろう。
どうやら日記に依存している下級生が一人いるらしく、取り上げると面倒になりそうだとのこと。
手伝いをしているもう1人も、親が怖くて大事にしたくないというし、ななしさんも板挟みだ。

日記には触らないこと、極力下級生たちにも使わせないこと、何かあったらすぐに連絡するようにとだけ伝えておいた。



秘密の部屋についての質問は後を絶えなかった。
グリフィンドール生は先生たちに秘密の部屋について質問をしては困らせていたし、スリザリン寮内では誰がスリザリンの継承者なのかという話で盛り上がっているらしい。

「全く、下らないわよね」
「そうですね」

スピカ先輩に呼ばれたのは、例の事件があった数日後のことだった。
スリザリンの寮内に呼ばれたのでびっくりしたが、そこにいたのはスピカ先輩とアル、セオドール、ドラコだった。
他の生徒たちは遠巻きにこちらを見ているだけだ。
先ほどスピカ先輩がうっとおしそうに杖を振っていた…恐らく、防音魔法をかけたのだと思う。

アルとセオドールはいつも通りだが、ドラコは少々緊張しているらしい。
居心地悪そうに紅茶を飲んでいた。

「はっきりさせておくけど、私たちの誰も、スリザリンの継承者は知らないわ」
「意外ですね」
「父が頑なに口を開かないから、知らない方がいいということでしょうね…で、ドラコ、貴方ちょっと事情が違うらしいと聞いているのだけど?」

ドラコが強張った顔をスピカ先輩に向けた。
スピカ先輩、ドラコに当たりが強いような気がする…いや、スピカ先輩だけではなく、アルもそうだ。
ブラック家の子たちはなぜかドラコ…マルフォイ家に厳しい。

別に私もドラコのことが好きというほどではないが、これはちょっとなあと思う。
思うだけで何も言わないから、同罪だけど。
セオドールだけは興味なさそうに紅茶を飲んで、本をめくっている。
ある意味、ものすごい豪胆だ。

「…父上が、以前に秘密の部屋が開いたのは50年前で、特に詳しくは知らないと」
「なるほど。ドラコの父上よりもずっと上ね…うちも知らなくて当然なのかも」
「セオドールは?」
「父と会話をしないので、何も聞かされていません」
「相変わらず不仲なのね…」

セオドールの父との不仲は有名なことらしい。
いつも笑っているかすまし顔のスピカ先輩が呆れ顔をするということは、相当なことだ。

秘密の部屋が50年前にも開かれた。
もちろん、うちのパパもその時のホグワーツにはいなかっただろう。
そのころからホグワーツにいた人で、今もいる人は校長先生と、マグコナガル先生なんかもそうかもしれない、やはり先生たちなら何か知っているのかもしれない。
ただ、それを探ることに何か意味があるのか。

先生たちが何か知っていたなら、何かしらの策を講じているに違いない。
それこそ、私たちが気にするところではないのだ。

「ななしさん、貴方お父様から何か言付けはないかしら?」
「あまり…君子危うきには近寄らずって感じです。触らぬ神に祟りなし、基本的にはノータッチでいるように、と」
「まあそれが一番無難よね」
「ただ、単独行動は控えなさいとのことでした。私はあまり単独行動しませんけど…スリザリンの生徒でも念には念を入れた方がいいのかもしれません」

パパは秘密の部屋について、詳しくは教えてくれなかった。
ただ、1人での行動は避けるようにと書いてあった。
秘密の部屋の秘密を探るよりも、秘密に近づかないこと。
確かに、それが一番安全だ。

マグル生まれしか襲わないなんて噂が流れているが、あくまで噂だ。
スリザリン生が襲われる可能性は低いかもしれないが、警戒に越したことはない。

「やっぱり、一番心配なのはあなたなんだけどね、ななしさん」
「ハッフルパフでは基本的に1人行動はしないようになってますよ」
「ななしさん、貴方ここまでの道中1人だったじゃない。帰りは送るわよ…アルとセオドールが」

スピカ先輩は私の胸元にあるカナリアイエローのネクタイを見ながら、頬に手を当てて溜息をついた。
ハッフルパフ生の私が、この中でもっとも襲われる可能性が高いと見ているのだ。
まあそれは間違いないので、警戒はしている。

実は途中まではセドリック先輩と一緒だったのだが、スリザリンの寮に行くのはあまり気乗りがしなかったのか、寮の扉が見えるところで別れたのだ。
そのことは秘密にしながらも、帰りは決めていなかったので2人についてきてもらうことにした。

「秘密の部屋ってどこにあるとお思いですか?」
「そもそも存在するかも怪しいのだから、秘密の部屋なんてスリザリンを犯人に仕立て上げるための嘘って可能性もあるわけだもの。振り回されるだけ無駄でしょう」
「なるほど…」
「でも、50年は意外と短い。僕らの祖父の時代だから知っている人もいるかも」
「君子危うきに近寄らずよ、アルタイル」

私はスピカ先輩の案に一票だ。
今まで見つかりもしなかったものが本当にあるのかは怪しい。
秘密の部屋といっておけば、スリザリンのせいにできると言えばそうだ。
…ただ、そこまで頭が回る人はスリザリンのような気がするけど。

アルはどうやら秘密の部屋に興味があるようで、調べようとしているらしい。
スピカ先輩がうっとおしそうに引き留める。
恐らくレギュラスさんに頼まれているのだろう、アルはマイペースで好奇心がそれなりにあるのを私は最近知ったが、家族ならもっと前々から知っているに違いない。

スピカ先輩に注意されたアルは渋々その話をやめたが、ついでにこの話題にも飽きてしまったらしい。
もう戻ろうと私の手を引いて寮を出ようとするので、慌ててセオドールが立ち上がった。
もう、と怒るスピカ先輩の声に、また来ますと返して手を振ると、彼女は満足そうに笑った。

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