17.DANGEROUS DIARY
シャルロッテから日記帳を受け取ったその日の夜。
私はその日記帳に初めて話しかけてみることにした。
自動書記で適当な返事が返ってきているのか、それとも中に誰かがいて(どうやっているかは全く分からないけど)一人の人間が返答しているのかを自分で確かめてみたかったからだ。

ジニーが操られた可能性もあるため、こっそりヤタを放しておいた。
ヤタなら私の様子がおかしいのを分かってくれる…かもしれない。
念のため、ヤタにも日記帳を見せてみたが、興味なさそうだった。

「さてと、“初めまして、今晩は”でいいか」

ヤタをベッドの上に置いて、サイドテーブルの上で日記帳に文字を書いてみた。
文字はすうっと紙の中に吸い込まれるように消えて、その代わりに綺麗な筆記体の英語が浮かびあ上がる。

“こんばんは、君に会うのははじめましてかな?ジニーでもシャルロッテでもない字だ。僕はリドルです”

なるほど、筆跡で誰だか認識しているようだ。
それくらいなら一般的な魔法でも…難しいだろうな、別の人間であることくらいまでなら認識できそうだけど、新しく書き加えられた筆跡と書いた人間を結び付けて記憶するという作業になっているし。
最初から筆跡登録なんていうのがあったら簡単かもしれないけど。

「“こんばんは、リドル。私はななしさんといいます。2人よりも少しだけ年上の先輩です”…さあ、どう来る?」

次に試したのは、私の年齢を少しだけ明かすということだ。
そもそも、リドルはもともとジニーとシャルロッテという11歳の少女たちしか知らなかった。
学校に通い始めたばかりの子供たちだったら扱いやすいと考えていたかもしれない。
もし私が上級生であると思い込んだのなら、少し警戒してくるかもしれない。
リドルの警戒度合いによって、自分の警戒度合いも変わる。
警戒してくるようなら、それだけ自分が後ろめたく危ないことをしているということだとも取ることができる。

それから、リドルの日記を書く傍ら、メモも取り続けている。
彼とのやりとりを、自分よりも年上の頼れる大人…まあパパなんだけど…に送ろうと思う。
きっとパパも私が知りたいと思うことくらい、知っておきたいだろうし。

“そうなんだ。僕も彼女たちよりも少し年上だから、君の方が、話が合うのかもしれないな”

「無難な返事」

向こうの頭がいいのか、それとも定型文なのか。
見極めなんてそもそも私に付くわけがないというえば、本末転倒だ。
とりあえずもう少し話してみて、日記帳の中に閉じ込められているリドルという人間がどういう人なのかを調べてみることにした。

「“私は本当に少しだけ…1つ年上なだけですけれどね”」
“そうなの?随分落ち着いた受け応えだからもっと年上かと思ったよ”
「“そういうリドルはいくつなんですか?”」
“僕は16歳になったばかりだ。君よりは幾分か年上だったね”

うわこいつ、結構年上だ。
知識があって当然だし、人によっては少女をたぶらかすのだって慣れてるかもしれない。
ただ、落ち着いた受け応えと言われてしまったのはあまり良くない。
警戒されているということとも取れる。
どうしたものかなあ、と思うがあまり返答に時間をかけるのも怪しまれるだろう。

ここは、適当にジニーの話を振ってみることにした。
これについては、別に他意はない、時間稼ぎと相手の警戒を少し解くためのものだ。
最近ジニーの体調が悪いように見えるが、何か聞いていないか、と心配するような内容の話を振ってみた。
リドルは、ジニーが自分に話しかけてばかりで寝不足だからではないかと答えた。
これもまた無難な答えだ。

ただ、話の端々でまるでジニーを馬鹿にするような発言が出てきた。
遠回しに、自己管理もできないで先輩に心配かけるなんてみたいな言い方をしている。
うーん、この人、多分。

「“リドルはスリザリン寮の人?”」
“どうしてそう思うの?”
「“なんとなく意地悪な感じがする”」
“そう…?まあ、アタリなんだけれどね”

やっぱり。
多分話している感じがスリザリンの人によく似てる。
ルイス先輩をもっと腹黒くしたような感じだ。
表向きは明るくて面白い人だが、絶対腹が黒い、外面と内心が全く一致していない気がする。

きっと私と話していてもつまらないと思っているのだろう。
でも、私と話をしている。
何か理由があるのか。

“君は随分と賢いみたいだ。他の2人よりもずっと”
「“伊達に1年ホグワーツに通ってないよ”」
“そのようだね。…君の寮を当ててみようか”

文章だけ読めば、褒められているように見える。
だけど絶対これは褒めてないし、馬鹿にしてる。
私はリドルが書く、達筆な筆記体を見ていた。

“君はハッフルパフ生だろう。好奇心旺盛だが、愚かで、間抜けだ”

その文字が浮かんだ瞬間、一瞬身体が動かなった。
その上で、目の前がぼんやりして、耳鳴りがして…意識が遠のくような感覚がした。
まずいと思った時には身体の自由が利かず、意識もほとんどない状態まで持って行かれた。

その瞬間、ヤタがシャアアと威嚇をしながら私の腕にかみついた。
かみつかれるのはいつぶりだろうか、でも、あまり痛みは感じない。
ただ、リドルは驚いたようだ。
そりゃ、女の子のベッドに蛇がいたら驚くだろう。

「ん!?いったああ!!」
「…ちょっと、ななしさん、煩いわよ…」
「ご、ごめん!…待ってスーザン寝ないで!ちょっと今怖いことがあったの!」
「はあ…?何よ、ななしさん」

いきなり意識と体の自由が戻ってきた。
ヤタに噛まれた腕が痛いし、完全に出血してる。
突然だったので、あまりの痛さにびっくりして大声を出してしまった。

その声で目を覚ましたのはスーザンだ。
起きなかったハンナとミーニャは逆にすごいとすら思う。
急いで腕の出血を止めるためにガーゼを当てて、適当にタオルを巻いておいた、包帯は流石に部屋にはない。
それからまだ威嚇しているヤタを慌ててゲージに移して、スーザンに寝ないでとお願いした。

不機嫌そうな声を上げているスーザンだが、その声だけでもほっとするくらいだ。

「ごめんって…ほんと、ちょっと怖い夢を見たの。ちょっと一緒に起きててくれない?」
「ええ…?いやよ、眠いんだから…」
「お願い、一緒に寝るでもいいから…!」
「何それ…まあ、一緒に寝るくらいならいいわよ…」

ヤタの入ったゲージをサイドテーブルの一番下の棚に入れる時に、一緒に日記帳も入れておいた。
ヤタは文字を掛けないし、言葉も喋れないからリドルとコミュニケーションは取れない。
それでいて、誰かが誤って日記帳を触るのを防いでくれる。
一番いい管理方法だ、即席だけど。

しまうものをしまって、私はスーザンのベッドの近くまで寄って行った。
カーテンがかかっているが、スーザンは薄明りの中にできた人影を見てすぐにカーテンを開けてくれた。

「もう、ななしさんアンタいくつよ」
「ごめんってば…」
「…まあいいけどね。ななしさんっていつも大人っぽいけど、変なとこお子様なんだから」
「ありがとー」

スーザンは私のためにベッドを半分空けてくれた。
私はスーザンのすぐ隣に身体を横たえて、すぐにお休みなさいだけ伝えた。
正直、眠れる気はしない。

あの時、私は警戒していたから意識が遠のくのを感じたが、そうでなかったらおしゃべりに夢中になっている間に身体の自由を奪われていたということだ。
これは明らかに一般的なおもちゃではないし、悪戯グッズとも違う。
何かしらの悪い魔法が込められた品だ。

ジニーには悪いが、パパに報告した方がいい、絶対に。
明日すぐに手紙を送ろうと決めて、私は少しだけ目を閉じた。
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