16.SUSPICIOUS DIARY
シャルロッテは魔法で綺麗にされた椅子に腰かけて、ショルダーバックから日記帳を取り出した。
日記帳は特に変わった様子もない。

「…昨日までこれは、ジニーが持っていたんです」
「え、ああ…うん」
「そのジニーが今朝、昨日の夜の記憶がない、といってきたんです」
「え?」

ぱら、とめくられた日記帳には、相変わらず何書かれた後はない。
日記帳はインクを吸い込むように、書かれた文字を消してしまうから当たり前といえばそうなのだが、不思議な感じがする。

シャルロッテは淡々と、昨日ジニーに起こったことを話し始めた。
昨日、ジニーは体調が悪く、パジャマのまま部屋で休んでいたという。
寝ていただけのはずで、目が覚めたら夜中だったというのが、ジニーの記憶だった。
ただ、おかしいのは寝ていたはずなのに、制服に着替えていた。
その上、手には赤いペンキが付いていて、制服のローブの裾は水に濡れていた。
そしてローブのポケットには日記帳が入っていたのだという。

明らかに、外に出てきて何かをしてきた後のような姿であったこと。
そしてその記憶はないこと。
そして今朝、ミセスノリスの話を聞いた。

「ジニーは自分がやったんじゃないかと疑っています。私もその線が濃いと思いますが…」
「ジニーの意思ではないってことね」
「そうです。夢遊病にしては、あまりに突然だし、何をやっていたのかを考えると、ありえない」
「それで、この日記帳が怪しいんじゃないかってことね」

確かに、その話を聞く限りでは日記帳が怪しいかもしれない。
この日記帳は書いたことに返事をしてくれるだけのものじゃないのだろう。
自動的に返事をするような魔法が込められているだけの可能性もあるが、それにしては知識がありすぎる。
その点について、私もシャルロッテも疑問を抱いていた。

その疑問に、今回の事件。
何もない方がおかしいくらいだ。

「でも、ジニーが手放したがらないんです」
「ん?」
「リドルはいろいろ話を聞いてくれて、悪い人じゃないと思うって。確かに親身に話を聞いてくれるのは確かなんですけど」
「ええー…?」

まるで依存だ。
どうやらジニーは昨晩のこともリドルに相談したらしい。
そうしたら、夢遊病じゃないかと心配してくれたのだという。

そもそもこの話はジニーが積極的に話してくれてくれたわけではなくて、シャルロッテがかなりきつく問いかけて聞きだしたことだったのだそうだ。
そして喧嘩しそうになりながらも、日記帳を預かってきた。

「私もななしさんさんと同じ意見です。でもジニーがものすごく抵抗するから…とりあえず私が何とか預かってきましたが、実はジニーと約束をしてしまって」
「約束?」
「ジニーの代わりに、ななしさんさんに持っていてもらうと…」
「わお」
「すみません、勝手に決めてしまって…」

私を呼び出した理由は、ジニーからの交換条件だったようだ。
曰く、ジニーはこの日記帳をシャルロッテが独占してしまうのではないかと恐れたらしい。
シャルロッテはかつて、ジニーと共にこの日記帳とのおしゃべりを楽しんだ経験がある。
そのため、シャルロッテもリドルの魅力を知っているという見解に至ったらしい。
そこで、あまりリドルのことを知らない、ただ事情は知っている私に管理を任せようという話になったそうだ。

ジニーは昨日と同じように体調が悪く、兄弟たちの目が厳しいそうでいやいやシャルロッテに日記帳を預け、私に渡すようにと言ったらしい。

「お願いします。持っていてくれませんか」
「いいけど…シャルロッテ、親に言わないの?」
「…もちろん、そうした方がいいのかもしれないのは分かってます。でも、私、ホグワーツにいたいんです。もしこんなことが学校で起こっているとわかったら、パパは私を家に連れ帰るかもしれないですし…親バカだから…」
「あー…納得。うちもそれはあり得るから、気持ちは分かるよ。OK、私が預かる」

彼女の家もパパしかいない家で、シャルロッテが一人娘。
うちと同じような感じはするし、危ないと分かった瞬間に連れ帰ろうとする姿は想像にたやすい。
そして、そういうパパから少し離れたいなと思う気持ちもよくわかる。

シャルロッテのパパがどんな人かあったことがないから、想像だけになるけれど、彼女のパパよりもうちのパパの方が緩いような気がする。
少なくともこの日記帳には何かしらの難しい魔法が掛けられているし、何か秘密が隠されていることも確かだ。
一応、パパには一報入れておこう。
大事なのはホウレンソウだ、どうにもならないことになったときに、何か証拠を残せるように。

「よろしくお願いします。何かあったら教えてください」
「うん、了解。そっちもジニーが何かおかしかったら教えてね」

幸いにも、シャルロッテは冷静な判断を下すことができる。
ジニーのことは彼女に任せておいて問題はなさそうだ。
私はシャルロッテから預かった日記帳をローブのポケットに入れて、寮に戻った。


寮には人気があまりなかった。
ハッフルパフの談話室にこれだけ人がいないというのは珍しい。
もしかすると、みんな図書館に行っているのかもしれない。

ただその談話室の中で、ミーニャとジャスティンが薬草学の教科書を開いて予習をしていた。
ハンナとスーザンは席をはずしているらしい。
ミーニャが手招きをするので、そちらに行くと、教科書の一点を指差して困ったような顔をしていた。

「ななしさんちゃん、ここ分かる?」
「んー…うわ、何だっけこれ。確か、“天候と薬草の関係”に載ってたよね」
「うん、私もななしさんちゃんとそれを読んだのは覚えてたんだけど…」
「私も中身までは覚えてないや」

私のミーニャもそれを読んだことは覚えているものの、肝心の答えが思い出せない。
本は借りてきていないし、でも借りに行くのは面倒だし。

「僕が行ってきますよ」
「え、なら私も行く。ミーニャはここにいて、スーザンたちに聞かれたらジャスティンと図書館って伝えてもらえる?」
「うん。分かった、ごめんね、お願い」

どうしたものかと攻めあぐねていると、苦笑いしたジャスティンが図書館へ行ってくると言い出した。
ただジャスティン1人で行かせるのはあまり良くないから、結局私もついていくことにした。
マグル生まれの子は1人で行動させない、それが今のハッフルパフの約束だ。

寮を出ると、ジャスティンが申し訳なさそうに私の前を歩いた。

「僕はななしさんに守られるつもりはないんです。なのにすみません…」
「え、いや別にいいんだけど…。まあ、ほら、ジャスティンが襲われそうになったら私が逃げて助けを呼ぶくらいはできるしね」
「あ、守る気はないんですか」
「いやだって無理かなって…私一人が応戦するよりも足の速い方が助けを呼んだ方がよくない?」

イギリスではレディーファーストだとか紳士的にだとか、女性に対して丁寧に扱い節が強い。
ジャスティンもそういった教育がなされているのか、どうやら危ない可能性が少なからずあるにもかかわらず女の子を連れて行くということに罪悪感があるらしい。
ただ、守られると思っていたことにびっくりした。
別に守るつもりはないし、守れるとも思えない。

基本的には、誰かに助けを呼ぶための複数人だと思っていたのだが違うらしい。
意外とイギリスの少年少女は過激だ。

「確かにそうですね」
「でしょ?戦うなんて無理だって」
「ハッフルパフらしいような、スリザリンらしいような…不思議な考えですよね」
「そりゃ、私のママはハッフルパフ生でパパはスリザリン生だもん。考え方もミックスだ」

臆病なハッフルパフと狡猾なスリザリンの混合種だしね。
きっとグリフィンドールなら果敢に立ち向かうんだろうし、レイブンクローなら危険に遭遇しないように細心の注意を払うに違いない。

図書室に向かう階段を登りながら、前を歩くジャスティンの後姿を見た。
私よりも高い背は確かに頼りがいがありそうだ。

「でもそう考えると、ジャスティンはちょっとグリフィンドール寄りだね。勇気がある」
「そうですか?」
「そうだよ。私に守られるつもりはないって、私のこと守ってくれようとしてたってことでしょ?勇敢なことじゃん」

え、と素っ頓狂な声が返ってきたので、逆にえ、と返してしまった。
あれ守ってくれるみたいな話じゃなかったの、と思ってジャスティンの顔を見たら真っ赤だった。
どうやら、予想外のことを言われて照れたらしい。
結構動揺しない人かと思ってたけど、そうではなかったみたいだ。

「…ななしさんは天然たらしです」
「え、ちょっとやめてよ、そんなんじゃないって」

慌てて訂正を入れたが、どうやらジャスティンは拗ねてしまったらしい。
慌ててその背中を追っていたのだが、突然此方を向いてきた道と逆方向に進み始めた。
挙動不審すぎて戸惑うばかりだが、ジャスティンに手を引かれてしまっていたのでそのまま階段を下った。

「え、何?」
「ポッター君がいたので…ちょっと会いたくなくて」
「あー…なるほどね」

ハリーはこの間の血文字の第一発見者なのだという。
まあ大抵の事件にハリーが関わっていないわけがない。
本当にトラブルメーカーなんだなと思う、本当に不憫極まりない。

一応振り返って手だけ振っておいた。
別に私はハリーが犯人だなんて思っていないし、とんだとばっちりを食らったもんだと同情気味だ。
何もできないのは心苦しいが、ハリーにはロンとハーマイオニーもいる。
せめてもと、今年ハリーに何事も起こらずにすみますようにとだけ心の中で祈っておいた。

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