15.TROUBLESOMETHING
次の日、やはりどの寮も秘密の部屋について各々持論を述べる生徒であふれていた。
大広間の話題は本当にすべてがその話題なんじゃないかと思うほどだ。
先生たちはいつも通り、という顔をしているが、ちっともいつも通りではない。

「秘密の部屋っていうのは、スリザリンの隠し部屋で、そこには恐ろしい怪物がいるらしい」
「そんなもん、私たちの部屋にもいるけど」
「あー確かにいるわね…」
「主に、ななしさんのサイドテーブルの一番下の引き出しに」

マクミランが昨夜から何度目かわからない、スリザリンの怪物についての話を始めたので、ハンナとスーザンと私で撃退しておいた。
噂好きのマクミランはあることないこと吹聴する傾向にある。
それを知っている同級生はいいが、中には知らない下級生もいるのだ。
むやみやたらに恐怖を誘うような発言は許されるわけがない。

先輩たちにきつく言われる前に、私たちで止められそうならやろうとのことで、反論し始めたのが今朝の談話室でのことだ。
スリザリンと言われて思い出すのは蛇ということで、うちのヤタのことを引き合いに出して話を逸らそうということになったのだ。
逸らせるかどうかはさておきとして、マクミランが蛇嫌いなら何かしらの効果があるかもしれない。

「はあ?」
「ななしさんのペットよ、蛇」
「蛇!?お前まさか、スリザリンの後継者なんじゃ…」
「スリザリンの後継者みたいな優秀な人がハッフルパフなんて光栄なことね」
「あー…」

マクミランが胡散臭そうに私を見た。
どうやらスーザンの言葉に、私がスリザリンの後継者という線は消えたみたいだ。
冗談なんだから本気にされても困るからこれでいい。
ただ、スーザンの言い方だとハッフルパフに優秀な人がいないみたいな感じがするのが悲しい。

マクミランは少し静かになったらしい。
クロワッサンを取り分けて、黙々と食べ始めた。
さすがに朝食を食いっぱぐれるのは嫌だったようで、そのあとは何も言わずに静かだった。
マクミランが静かになると、ようやくハッフルパフのテーブルはいつもの穏やかな様子を取り戻したみたいだった。

「ななしさんさん、おはようございます」
「あ、おはよ、シャルロッテ。どうかした?」
「はい。この間のお借りした本のことなのですけど…この後、いいですか?」

マクミランが静かにスクランブルエッグを食べているのを見て、私ももう少し何か食べようかとフルーツに手を伸ばした時だった。
背後から声を掛けてきたのは、レイブンクローのシャルロッテだった。

シャルロッテがきた瞬間に、ルイス先輩は席を外したらしい。
私もその姿を見ていたが、すぐにセドリック先輩がルイス先輩を追いかけていったし、ちらっとこちらを見て、気にしないで、と口パクで言っていたから、その通りにした。
彼女はその姿を少しだけ目で追ったようだが、そのことについては言及しなかった。

「ハンナ、この後の授業ってないよね?」
「うん、平気だよ」

今日の午前中は授業がなかったはずだ。
ハンナに確認してみたが問題なさそうだ。
シャルロッテが来たということは、この間の日記帳のことで何かあったのだろうか。

「今から大丈夫ですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます。外で待ってます」

シャルロッテは柔らかそうな金髪を揺らしながら大広間の外に出て行った。
背は低いが、私と同い年と言われてもおかしくはない。
ハンナはシャルロッテの去っていく後姿を穴が開くほど見ていた。

外で待っているということは早めに行ってあげないといけない。
慌てて食べていた林檎を頬張って、席を立った。

「あの子、本当に一つ年下?」
「大人っぽいわね…というか、ルイス先輩大丈夫かしら」
「さっき、突然席を立ったからびっくりしたけど…何かあったの?」
「今の子、ルイス先輩の家の本家筋の子よ…クラウチ家の子。たぶん、ルイス先輩は毛嫌いしてるんだと思うわ」
「ありゃ、そうだったんだ」

林檎を食べている間に、ハンナとスーザンの話に耳を傾けた。
確かにシャルロッテは大人っぽい。
ただ父親しかいないと確かに冷静になるというか、理的な話ばかりだから自分もそうなるというか、まあそんな感じだと思う。

そして知らなかった事実、クラウチ家ってルイス先輩と親戚なのか。
ルイス先輩が家と本家を好んでいないことは、去年1年で理解したけど。
あまり気にしない方がいいのかもしれない。
ルイス先輩の性格を考えると、あまり自分のことには触れてほしくない感じだし。
だから無理にシャルロッテとの関係を改める必要もないだろう。
というわけで、シャルロッテの待つ大広間の出口へ向かった。

「あれ、スピカ先輩」
「おはよう、ななしさん。シャルロッテが待ってたのはあなただったのね」
「ななしさんさん、行きましょう」
「え、うん…すみません、スピカ先輩、また」
「ええ、ななしさん。またね」

大広間の出口には、シャルロッテのほかにスピカ先輩がいた。
スピカ先輩はいつも通りの笑顔だったが、シャルロッテは不機嫌そうな仏頂面だった。
彼女は挨拶もせずに、私の手を引いて廊下を歩いていく。

まるで拗ねた子供みたいな行動が、なんだか可愛い。

「シャルロッテって、スピカ先輩が苦手?」
「スピカさんに関わらず、ブラック家の人が嫌いなんです」
「え、なんで」
「…パパがしょっちゅう、ブラック家に行くんです。あそこのレギュラスさんと仲がいいとかで、私が行きたくないって言ってもブラック家に連れていかれたりするから…」

シャルロッテ曰く、クラウチさんはレギュラスさんと仲が良すぎて、むしろレギュラスさんくらいしか友達がいないらしい。
だからしょっちゅう底に連れて行かれるようだが、シャルロッテはそれが不服なんだとか。
本当はセオドールやほかの親戚の家がいいらしいが、なかなか連れて行ってくれない。

だから別に、スピカ先輩が大嫌い!というわけではないらしい。
ただ滅茶苦茶に構われるのは嫌みたいだが。
なんとなく、シャルロッテを滅茶苦茶に可愛がるスピカ先輩は想像がつく。
そしてそれをどことなく嫌がるシャルロッテの姿も。

「そんなことより、こっちです」
「ん…?図書館じゃないの?」
「図書館は昨日の一件で、スリザリンについて調べる人でいっぱいです。あまり人に聞かれたくないので…」

シャルロッテは図書館に向かう階段を下り始めた。
図書館は上にあるので、不思議に思ったが、理由を聞いて納得した。
そういえば、ジャスティンも気になるから調べに行くと言っていた。

シャルロッテは地下の人気のない空き教室に入り込んだ。
私もその後を追って室内に入る…随分埃っぽい。

「清め魔法掛けようか」
「お願いします」

シャルロッテは入ってきたドアの鍵を閉め始めた。
どうやら相当人に聞かれたくない話らしい。
清め魔法をかけながら、なんか面倒ごとに巻き込まれてるんだな、と思い始めた。

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