14.HALLOWEEN SOMETHING HAPPENS
「大変です!」

バタバタと寮に入ってきたのは、ジャスティンだった。
その後に続いて何人ものハッフルパフ生が戻ってきた。
大広間での夕食が終わったためだろう、と私たちはあまり気にしていなかった。

だが、ジャスティンの言葉で談話室の空気が凍った。
どうしたどうした、と周囲にいた同級生が彼に近寄り話を聞くと、どうやら大広間近くの廊下に、血文字で「秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、用心せよ」と書いてあったらしい。
ジャスティンから話を聞きだしたハンナが慌てて駆け寄ってきて、教えてくれた。

「…なんでハロウィンはこんなに事件が起こるんだか…」
「悪質ないたずらじゃないかい…?ハロウィンだし」
「悪質すぎるけどな」

怯えるジャスティンをなだめるように、セドリック先輩が少し大きな声でそういった。
ジャスティンはそれでもまだ怖いらしく、暖炉の近くの席で他の生徒に囲まれながら座っている。
部屋に戻るのも嫌みたいだ。

「秘密の部屋って何?」
「…この学校には伝説がある。学校を追放されたサラザール・スリザリンが作ったとされる部屋がどこかに隠されてるってやつな」
「その部屋が開かれたって…誰かが見つけたってだけじゃないですか?」
「問題はそこじゃねーよ。継承者の敵ってのが問題なんだ」

継承者の敵、継承者とはサラザール・スリザリンのことだろう。
その敵、ジャスティンが怯えている理由、スリザリンはマグル嫌いで有名だった。
なるほど、今日はなんだかマグル生まれの厄日のようだ。

セドリック先輩は難しい顔をしながら、パンプキンポタージュを睨んでいた。
ハッフルパフにはマグル生まれの子も多い。

「なるほど」
「ななしさんはマグル生まれ…ではないのよね?」
「うん。パパもママも魔法使いだから。純血ではないと思うけど」

ハンナとスーザン、それから私、ルイス先輩、セドリック先輩はマグル生まれではない。
ただ、こちらに駆け寄ってきたミーニャはマグル生まれだ。
顔色の悪いミーニャをいたわりながら、ハンナがスーザンとの間に彼女を座らせた。
ミーニャは大広間に行くと言っていたジャスティンについて行っていたのだ。
その光景を見てしまったらしい。

「どうしよう…」
「大丈夫よ、ミーニャ。これからは私たちと一緒に行動しましょ」
「1人でいなければ平気よ」
「うん、個人行動は避けた方が無難かもね」
「移動の時にはできる限り上級生が一人付くようにするか…」

こういう時にハッフルパフの行動は早い。
上下関係にあまり口うるさくないから、一緒に行動するのもお互いに苦でない。
怯える下級生のグループには上級生が近寄って落ち着かせる姿がそこかしこにあった。
私たちのグループは基本的にセドリック先輩かルイス先輩が一緒についていてくれるみたいだ。

セドリック先輩たちも他の下級生に話を付けに行っているらしく、席を離れた。
談話室の話題は、秘密の部屋で持ち切りだ。
スリザリンに所縁のある話だから、アルやセオドール、ドラコ辺りが詳しいだろうか。
子供たちも知らない何かを大人なら知っているだろうか。
気になったので、パパに出す予定だった手紙をすべて書き換えた。

話題はもちろん、秘密の部屋だ。



ななしさんからの手紙を見て、すぐにブラック家とマルフォイ家に手紙を送った。
あの部屋を開けられる人間が、現在ホグワーツにいるわけがないのだ。
去年のダンブルドアの行動を鑑みるに、あいつはまた動かないだろう。
秘密の部屋のバジリスクが動いているとすると、死者が出てもおかしくはないというのに。

いや、開かれたのなら間違いなくバジリスクは城の中をうろついている。
50年も閉じ込められて、腹が空いているはずだ。

「…マルフォイめ」

俺が作った分霊箱の一つに、俺の記憶が封じ込められているものがある。
それは昔に、アブラクサスに渡していたはずだ。
あのおっとり馬鹿、息子にその話をしていなかったな。
ルシウスは恐らく呪いのかかった面白いもの程度に扱ったのだろう。

回収しなければならない、最悪の場合、俺の寿命にも関わる。
そして、問題はななしさんだ。
あれの手に日記帳が渡ったとして、16歳の俺が娘であることなど気付くわけがない。
大体、16の時など結婚なんて絶対するわけがないと思っていた。
ただあいつは、その日記調の中身が俺の過去であることには気付くだろう。
顔はあの時とそう変わっていない。

「いったい誰が持っているんだ…?」

問題は誰が持っているかだ。
ルシウスの手元にはもうない、ホグワーツにあるということは誰かしらの子供が持っているはずだ。
親バカのあいつが流石に呪いのかかったものを息子に渡すわけがない。
また、スリザリンの生徒に渡すこともしないだろう。
そうなると、息子経由か、もしくはその他の経由でスリザリンの生徒ではない誰かの手に渡っている可能性が高い。

ハッフルパフとの付き合いはないだろうから、直接ななしさんの手元に渡っている可能性は低い。
あり得るとすると、私怨でグリフィンドールの家の者に送りつけているというもの。
正直、この線が一番濃い。
しかし、ルシウスからの返事を待たないとどの家にやったのかが分からない。

まずい、色々と。
冗談くらいで済ませてくれるならいいが、もし、過去に自分がやっていたことをバラされたら大変なことになる。
ホグワーツのためにも、俺の平穏な生活のためにも、早急に回収しなければ。
マルフォイ家に素直に教えろという催促の手紙を送ってから、ななしさんへの手紙を考えた。
なんて書けばいいのか、非常に迷うところだが、無難な返事を返しておいた。
頼むから興味を示さないでほしい、無理だとは思うが。

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