13.PUMPKIN PIE
ハッフルパフ寮に初めて入ったとき、私は黄色いクマのキャラクターの住処を思い出した。
寮の木の洞が積み重なったような入り組んだ造りが、よく似ていた。
甘い匂いが漂っていると、余計にそのクマを思い出す。

「あ、ななしさん。糖蜜パイ食べるでしょ?」
「うん!一回部屋に戻ってからね」
「珍しいな、甘いもに目がないななしさんが一回部屋に戻るなんて。もう甘いもの食べてきたのか?」
「へえ、ルイス先輩、ヤタと一緒に糖蜜パイ食べます?」
「…さっさと部屋戻れ」

ハッフルパフ寮の談話室ではすでにハロウィン用のお菓子が沢山取り揃えられていた。
その上、ハロウィンの飾りつけがされていて、誰の魔法かわからないが薄暗くされた談話室にジャックオランタンがいくつも浮いている。
ちなみに蝙蝠はいない。

普通は大広間で食べるのだが、今年は去年のことを鑑みて、談話室で食べる方向性になったらしい。
去年、新入生がうっかりトロールに捕まったりなんてして怪我をさせてしまったことを上級生は気にしているみたいだった。
私は気にしてないし、毎年毎年あんなトラブルが起こるとは思っていないけれど、念には念をということだった。
そんなことは誰も言わないけれど、今年は談話室にたくさんお菓子を置いて、ここでもハロウィンを楽しめるようにしようというセドリック先輩の話を聞いて、私は漠然とそう思った。

意地悪を言うルイス先輩にゲージをゆすって見せたら、すぐに目を逸らした。
本当に蛇がダメなようだった。
隣にいたスーザンも引き攣った笑みを浮かべたので、私は慌ててゲージを持って階段を登った。

「お前その蛇つれて何してたんだ?」
「スリザリンのアルとセオドールに見せに行ってたんですよ。2人とも最初は鱗が欲しいって言ってたんですけど」

ヤタのゲージをいつもの机の一番の下の棚に仕舞って、私は急ぎ足で談話室に戻った。
早く糖蜜パイにありつきたかった、今日は朝食にデザートがなかったから。

ハンナの隣に座ると、目の前にいたルイス先輩が怪訝そうに聞いてきたので簡単に答えてから糖蜜パイを頬張った。
甘ったるいからあまり人気のないパイだけど、私はかなり好きだ。

左右から、え?という声が上がったが糖蜜パイを頬張ったままだったので無視した。
ハッフルパフのスリザリンイメージは近寄りがたい、と言うものだ。
近寄った人がいるだけで大いに驚かれる。

「アルって…ブラック君のこと?」
「そうだよ」
「あーあの2人なあ…確かに鱗とか欲しがりそうだな。特にノットの方は薬学の家だし」
「最初は薬品の材料としてって話だったんですけど、思ったよりアルの方がヤタを気に入っちゃったみたいで、剥ぐのは可哀想って話に」
「意外だな、あのお坊ちゃん、そんなこと言うのか」

その例外が私とルイス先輩である。
実家の兼ね合いもあり、ルイス先輩はスリザリン系の家柄にも詳しい。
ただ、表面上のことしか知らないらしく、アルのことについては驚きを隠せないようだった。
マイペースなお坊ちゃんというところは違いないが。

「ななしさん、スリザリンの人と一緒にいて、何もなかった?」
「ないけど…。あ、でもその後、クディッチのスリザリンチームとグリフィンドールチームが鉢合って、喧嘩してた」
「ああ…うん、いつも通りみたいだね」

クディッチをするグラウンドではよくある光景らしい。
空を飛んでいても地上にいても試合をしているようなものだ、とルイス先輩はカラカラ笑いながら話していた。
まあ間違いではないんだろうな、とは思う。

ただ、今回は多少なりともドラコが悪い面があったと思う。
穢れた血という言葉が、魔法界でどんな意味合いを持った言葉なのか、細かいことは分からない。
ただそれがいい言葉でないことははっきりわかった。

「でも、スリザリンの一人がハーマイオニーのことを“穢れた血”って言ったんです。それでグリフィンドール側が呪いを吹っかけてって感じでした」
「おー、流石スリザリン様、腐ってんな」
「ルイス、言い過ぎだ。でも、確かにひどいな…」
「…“穢れた血”ってマグルを蔑む言い方なんですか?」
「うん。純血主義の人たちの中には、マグルの血を穢れていると思ってる人たちもいるんだ。もちろん、すべてがそういう人なわけではないけど」

セドリック先輩は丁寧にそう教えてくれた。
つまり、マルフォイ家とブラック家では考え方が多少なりとも違うということになる。
アルはかなりおっとりしているし、マイペースだから自分なりの考えを持っているのかもしれない。
セオドールはその言葉そのものに興味がなさそうだったくらいだ、今は個人差があるみたいだ。

一概に純血といっても、色々な考えの人がいるわけでひとくくりにするのは失礼だ。

「もうこの話やめましょ。ななしさん、パンプキンパイもあるのよ?」
「パンプキンパイ!」
「…能天気なお嬢様だなあ、おい」

呆れ顔のルイス先輩を私の代わりにセドリック先輩が小突いているのを見ながら、ハンナの差し出すパンプキンパイに手を伸ばした。
午前中は少しいざこざがあったが、今年は平和なハロウィンになりそうだった。

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