12.SNAKES AND SLUGS
土曜日の朝、日が昇って少しで目を覚ました。
目を覚ましたというよりも、起こされたという方が正しい。
パパから貰った目覚まし時計は私にしかアラーム音が聞こえないようになっている。
入学するときに持たされたこの時計を、私はとても気に入っていて、その一方で憎たらしく思うこともある。
まだ眠たいと降りてくる瞼を何とかして持ち上げて、ベッドから降り立った。

そして、ベッドサイドの引き出しの一番下に納まっているゲージを取り出す。
中で寝ているヤタを起こさないように抱えて、シャワー室に向かった。
秋口ということもあり、朝晩は冷え込むようになった。
なのでヤタは、朝はほとんど動かず、まるで固いしめ縄の様にぎゅっと縮こまっている。

「ほらヤタ、起きてー。あったかいぞー」
「…シャア」
「ご飯もあげるからさ。今日は私の友達がヤタに会いたいって。いいでしょ?」

熱めのお湯をかけてヤタをほぐしてやると、彼はこちらに赤い目を向けた。
面倒くさいんだけど、と言わん限りの視線に、私はため息ものだ。
たまにはいいじゃない。
ヤタはシューと諦めたように目を逸らしたので、まあいいということだろう。
熱いお湯を張った洗面器にヤタを映して、自分もシャワーを浴びた。

身体中の水気を切ってから、洗面器の中に浸かっているヤタを取り出してタオルで拭いた。
温まったからか、ヤタは身体を伸ばして大きく口を開いた。

「眠いのは私も同じ」
「シュー」

鼻先をちょいちょいとつついて、私はヤタをゲージに戻した。
今日の朝食は外で食べる予定だ。
ついでだし、もしかしたらやりたがるかもしれないから、ヤタのエサも持って行くことにした。

朝早い時間を指定したのは、間違いなく、ヤタを誰かに見られるのが嫌だったからだ。
1年の時もそうだったように、蛇のペットは流石の魔法使いたちも引く。
談話室には誰もいなかった、だから静かに寮を出て、中庭へ向かった。
中庭は朝露が付いているくらいで、誰かがいる気配はない。

しかし、その隅のベンチに見慣れた黒髪の少年が2人居る。

「おはよう、ななしさん」
「おはよう、セオドール、アル」
「連れてきてくれた?機嫌は悪くない?」

2人は朝早いというのにぴんぴんしている。
どこから持ってきたのか、ベンチの前にテーブルまで用意して、お茶と軽食が置かれていた。
どうやら私が来るよりもずっと先に来ていたのだろう、本が開かれ、羊皮紙には何か色々と書き連ねてある。

私はその隣に座って、ゲージを足元に置いた。
テーブルの上の食べ物と一緒に置くのは憚られる。
そう思ったのだが、目をキラキラさせているアルに止められ、彼の膝の上にゲージは乗せられた。

「ええっと…本当に平気?結構大きいけど」
「大丈夫。開けても?」
「うん、平気」
「あー、私が出すね。一応」

アルは本当に楽しみにしていたらしく、いつもより早口だ。
私はとりあえずヤタに声を掛けてから、ゲージを開けた。
ヤタの目を見て、鳴き声を聞いて、特に機嫌が悪いような雰囲気ではないことを確認してから取り出した。
ヤタは特に音もたてず、大人しく腕に納まってくれている。

赤い瞳がアルとセオドールを捉えた。
チロチロと舌を出して、2人を見ていたが、やがて飽きたのか目を瞑ってとぐろを巻いてしまった。

「…ごめんね、あんまり人懐っこい奴じゃないから…」
「いやいいんだ…うわあ、アルビノ?」
「そ」
「大きいな…どれくらいのサイズ?」
「今は1mくらいだよ。本当は2mくらいある」

2人は本当にヤタを怖がることなく、触ってもいい?なんて言いながらばっちり触りまくっている。
流石にここまで平気な顔をして、猫でも触るかのように対応する人は初めて見た。
ヤタも驚いているのか、うっすらと目を開けて、自分を触っている2人をちらちら確認している。

「餌、あげてみても?」
「いいけど…ヤタ、ご飯だよ。起きてー」
「ななしさんが話しかけると起きるのか…賢い」

アルがゲージの近くに置いてあった袋の中身を見て、そういった。
それを見て餌をやりたいと思う辺り、本当に蛇を飼っても問題なさそうではある。
まあ魔法薬学で扱う物を考えると、ピンクマウスくらい大したことないと言えば、ないけど。

アルは餌を手に、ヤタと遊んでいる。
私はそれを片目に、セオドールが差し出してくれたティーカップを手に取った。
軽食も好きに食べていいらしい。

「そういえば、姉さんも誘ったんだけど来なかったんだ」
「…そりゃ来ないだろうね」

喧嘩でもした?とアルは言うけど、一般的な女性は蛇に会いに行くのを楽しみにはしないだろう。
セオドールも苦笑いをしながら、スピカさんは来ないだろうね、と呟いていた。

軽食を食べながら遊んでいると、やがて辺りが騒がしくなってきた。
何だろうと周囲を見てみると、赤いローブを羽織ったグループと緑のローブを羽織ったグループがやってきた。
片一方は南から、片一方は東から。
その色味を見て、こりゃ騒ぎになるなと思った。
グリフィンドールとスリザリンが集まれば、9割がた喧嘩が起こる。

「ああ…ドラコだ」
「ハリーもいるね…こりゃ、なんか起こりそう…」

ヤタに夢中になっているアルは何も気にならないらしく、慣れ始めたヤタを首から下げている。
初めて出会った人間にヤタも興味を示したらしい。
機嫌よさそうに遊んでいるから、ヤタのことはアルに任せて大丈夫そうだ。

一応、様子を見ておこうとセオドールと二人で席を立った。
2つのグループは既に鉢合っていた。
どうやら両方ともクディッチの練習をしに来たらしい。
スリザリンチームが爆笑しているのを聞いて、セオドールは眉を顰めた。

「ドラコだ…」
「誰もお前の意見なんて求めていない、この穢れた血め」
「よくもそんなことを!」
「わーお…」

穢れた血、という言葉に真っ先に反応したのはグリフィンドール寮生徒たちだった。
もちろん、私も顔をひきつらせた。
間違いなく私にはその血が半分入っているからだ。
きょとんとしているのはハリーくらいで、ハーマイオニーは顔を赤くし、ロンは激高している。

セオドールは眉を顰めたままだ。
私も眉を顰めざるを得ない。

「この野郎!ナメクジ食らえ!」
「ロン!」
「うっわあ…」

だからといって呪いをかけるのもよろしくはないだろう。
ただ、ロンの杖はなぜか呪いを逆噴射した。
よく見たら杖が曲がっていて、そこをテープで補強していたらしい。
よくもまあ、そんな杖で呪いをかけようと思ったものだ。

ナメクジを吐き出し続けるロンに流石にちょっと顔を背けた。
蛇は好きだけど、ナメクジは苦手だ、なぜか魔法界のナメクジは大きいし。

「ああ、ななしさん。居たのか」
「居たよ…アルもいるけど…あ、」
「ドラコ、今のは何?」
「うわっ、アルタイル…何でそんなものを連れているんだ!」

ドラコはようやく私とセオドールに気づいたらしい。
先ほどの発言などなかったのようにケロッとしている。
私はナメクジのせいで少々グロッキーだ。

いつの間にかアルもこちらに来ていて…ヤタを首に巻いたままだ…ドラコを睨んでいる。
ドラコはアルの表情よりもヤタが気になったらしい。
ヤタを見て、叫ぶように大声で近寄るなと怒鳴った。
どうやらドラコは蛇があまり好きではないらしい。

「それはどうでもいいだろ。そんなことより、さっきの発言、品がなさすぎる」
「別にいいだろ」
「よくない。少なくとも僕は、そんなことを口にする純血だと思われたくない」
「…お前とは気が合わない」
「知ってる。だから僕のいないところでなら好きなだけ言えばいいさ」

ななしさん、行こうと声を掛けられて、私は引きずられるようにその場を立ち去った。
意外とこの2人は仲が良くないらしい。
随分とヤタと仲良くなったらしいアルは慣れた手つきで、ヤタをゲージにいれた。
シューシューと不満気に鳴くくらいだから、ヤタもアルを気に入ったらしい。

また遊ぼう、とヤタに声を掛けると大人しく収まったから、私よりもよっぽどアルの方が飼い主にふさわしいのかもしれない。

「今日はありがとう、ななしさん。楽しかった」
「喜んでもらえたみたいで何より。これだけ仲良くなれれば鱗ももらえるかもね」
「なんか鱗を剥ぐの、可哀想になってきたからいいや」
「あ、そう…」

本当にアルはヤタを気に入ってしまったらしい。
悪いことではないが、毎週のように呼び出しされるのは流石に勘弁してほしい。
早起きはあまり得意じゃないし。
アルとセオドールは片付けをしていくとのことで、手伝おうと手を出そうとしたら止められた。
別にいいとのことだったので、ゲージを手に、私は城に戻った。

「ヤタ、アルがいいならアルのところに住む?」
「シャアー!」
「…冗談だよ」

今までご機嫌だったヤタがいきなり威嚇してきたので、意外とヤタは私が好きみたいだ。
まあ、うん、いいことだ。
私はのんびりと寮へ戻った。
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