11.SECRET
ジニーの手元、テーブルの上には黒い手帳が置かれていた。
金枠の嵌められたシンプルな手帳だ…特に変なところはない。
じっと見ていると、シャルロッテにどうぞ、と声を掛けられたので手帳をめくってみた。
手帳の中には何も書かれていない。
少し黄ばんだ古そうな紙に茶色の罫線が引かれている、何の変哲もない手帳。
裏表紙に、名前が彫られていたT・M・リドルと書かれていた。

「え、誰の?」
「わからないんです。問題は、そこではなくて、これ、なんか危ない感じがするので」
「ん?」
「見ていてくださいね」

シャルロッテは自分の筆入れから羽ペンを取り出して、手帳に文字を書き始めた。
綺麗な筆記体で、“久し振りです、シャルロッテです。こんにちは、リドルさん。”と書いて見せた。
すると、すっと吸い込まれるように文字が消えていく。
びっくりしていると、新しい文字が浮かび上がってきた。

これまた綺麗な筆記体で“こんにちは、久し振りだね、シャルロッテ。今日はどうしたのかな?”と書かれている。
シャルロッテの書いた文字とは筆跡が違う。

「この通り、文字を書くと返事が返ってくるんです」
「…わお」
「面白いんですけど、この相手…リドルですか、ものすごく知識があるんです」

危ないですよね?と言いながらもシャルロッテはこの相手と会話を続けている。
どうやら答えが返ってくるのが面白いらしい。
確かに描かれている会話を見ていると、非常に返しもうまく、話が上手なことが伺えた。

詳しく聞いてみると、この手帳は現在ジニーが所有しているものらしい。
教科書を買いに行ったときに大鍋の中に入っていた手帳だという。
誰がいれたのかわからないが、悩みは聞いてくれるし、相談に乗ってくれるし、おしゃべり相手としては最高というわけだ。
しかし、ちょっと怖かったので仲が良くて何より頭のいいレイブンクローのシャルロッテに相談したらしい。

「私たち、コンパートメントで一緒になったの」
「なるほどね。まあ…返事があるくらいなら平気そうだけど…頭良過ぎない?」
「そうなんです。だから何か罠が仕掛けられてそうだったので調べているんです」

シャルロッテとジニーの接点が全く分からなかったが、視線に気づいたのかジニーがそういった。
2人は以外にも気が合うようで、タッグを組んでこの手帳についていろいろと調べているそうだ。

「…危なそうだったら早めに大人に言った方がいいと思うけど」
「危ないものが校内にあるなんてパパに言おうものなら私、退校させられちゃいそうです」
「あー…そういえば、シャルロッテもパパと2人家族なんだっけ」
「ええ。ななしさん先輩もですか」
「そうなの。なるほどね、なんかわかる気がする」

セオドールがそんなこと言っていたような気がする。
去年の一件もあるし、私も他人ごとではない。
退校はないにしろ、何かしら無言のプレッシャーをかけられそうだ。

手帳はシャルロッテの質問になんでも答えてくれる。
面白そうな本の話題、校内の抜け道…魅力的で素敵な話ばかりだ。
ただ、リドル本人のことについては教えてくれないらしい。
そういうところはしっかりしている。

「なんかあったら相談して。私のパパならまだ融通が利くかも」
「うん、ありがとうございます」
「あ、このことは兄たちには秘密にしてもらえますか?」
「もちろん。3人の秘密にしておこう。でも、危ないことが起こるようなら、秘密は反故にする。いい?」
「はい」

今のところは危険そうではないが、なんだかこういう得体のしれないものは怖いと思う。
そう、そうだ、日本で言う、コックリさんに少し似ている。
コックリさんも簡単なおまじないだけど、時々恐ろしいことが起こるなんて伝承がある。

私は借りるべき本を借りて、図書室を出た。
フローリッシュ・アンド・ブロッツで見たシャルロッテは大人びた子だと思ったが、意外と行動的な性格をしているらしい。
変なことが起こらないといいけどな、と思いながら、秘密は一応守っておこうと心に留めておく程度で済ませた。
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