08.LILAC
金髪にライラック色のローブ。
イケメンだ、確かにイケメンだが、好みではない。
というか、ライラック色のローブってどうなんだろう、ちょっとオシャレ気取りな感じで癇に障る。
顔だけで言うなら、少しセドリック先輩に似ているかもしれないけれど、纏っている雰囲気が全く違った。
セドリック先輩を引き合いに出したことを心の中で謝るくらいには。

「やあやあ、どうも、スプラウト先生!」
「…ええ、どうも、ギルデロイ」

包帯の入った籠を持った先生と共に授業に向かうため、温室の方へと歩いていた。
先生と今日の授業は何をするんですか、なんて和やかに話していたのに、空気を読まずやってきたのが金髪のイケメン、ギルデロイ・ロックハートだった。

なるほど、この人が金と時間を溝に捨てさせる本を書いている作家か。
私の教科書に一頻り目を通したパパがそんなことを言ってた。
どう考えても新たに得る知識はなく、自伝書としての価値もなく、ただ読んだ時間だけが無駄になるという評価をしていた。
なので私は読んでいない。

「おや、こちらは?」
「私の寮の生徒です、ギルデロイ。暴れ柳の治療の手伝いをしてもらっていました」
「それはそれは!彼女よりも私の方がよっぽど手早く治療できたと思いますがねえ。私、一度暴れ柳と戦ったことがありまして」
「…コチョウ、貴方先に行きなさい。アボットたちが待っているでしょう」
「はい、先生」

ギルデロイ・ロックハートの著書は、どれもこれも恐らくはフィクションだろうとパパは言っていた。
ただ、現実にあってもおかしくないように書いているのと、自身がノンフィクションといっていることからそれが信じられているのだという。
つまり、ある程度の知識がある人間が読めば矛盾が分かるが、著者の顔ばかりを見ていると分からないかもしれないということだ。

暴れ柳についてよくわからない持論を述べ始めたロックハートに不機嫌になったスプラウト先生だったが、巻き込むのは良くないと感じたのか、私だけ開放してくれた。
ロックハートは私が離れたことなど気に留めてはいないようで、しきりにスプラウト先生に話しかけていた。

私は2人から離れて、ハンナたちが歩いているのを見つけて駆け寄った。

「ハンナ、スーザン、ミーニャ!」
「あら、ななしさん!教科書はどうしたの?」
「スプラウト先生のお手伝いをしたら貸してもらえたよ」
「お手伝い?」
「うん、暴れ柳の治療の手伝い」

ハンナたちは城からではなく外からやってきた私に不思議そうな顔を向けた。
訳を話すと、なるほどと納得してもらえた。
暴れ柳の、といってそちらの方をちらっと見ると、ロックハートが爽やかに手を振っていた。

うげっという顔をしたのは私だけで、ハンナとスーザンはかっこいい、ときゃあきゃあ騒いでいる。
ミーニャはロックハートにあまり興味がないらしく、淡泊な反応だ。

「ななしさん、ミーニャ、ロックハート先生に興味ないの?」
「あんまり」
「…うーん。かっこいいとは思うけど、私は趣味じゃないかも…」
「まあ、ミーニャは苦手そうよね、ああいうきらきらした感じの人」

ハンナとスーザンは立派なロックハート信者で、本も何度も読み返したらしい。
そういうところは気が知れないけれど、一般的な子はそうなるのかもしれない。
彼の夢物語みたいな物語が、読む人によってはきっと、ドキドキワクワクの冒険書みたいに見えるのかもしれない。
ただ、あくまでそれはフィクション作品としてだと思うのだけど、どうやら誰もその観点には気付かないらしい。

…ただ、魔法界では確かにこれはフィクションでしょ、と思うようなことが現実に怒ったりするからフィクションとノンフィクションの境界が曖昧なのかもしれない。
別に害があるわけでもないから、否定はしないけれど、肯定もできない。

ミーニャはただ単にロックハートの雰囲気が苦手なようだった。
確かにああいう、顔のいいことを鼻にかけて話すような人間は得意不得意があって当然だ。

「ななしさんは…イケメンには慣れてそう」
「ちょっと、何それ」
「だって、スリザリンの人ってみんな美人じゃない」
「…まあそれはそうだけど」
「目が肥えてるのよ」

別にイケメンだから好き、嫌いと思うわけではないのだけど。
確かにスリザリンの知り合い…パパやスピカやアル、レギュラスさんやルシウスさん、みんな美形といえばそれに尽きる。
だからか、ロックハートのことをイケメンという程度にしかとらえられない。

例えるなら、模造品の可愛い指輪と、真作の美しい指輪みたいな違いだ。
2つのものの大きな違いは、纏う雰囲気にあると思う。
私もいつかああいう大人になりたいなあと漠然と思うけど、多分無理。

「でも、彼はとても素晴らしい人ですよ!」
「ジャスティン、貴方もそう思う?」
「ええ。もちろん!僕は彼の作品を読んで感動しましたよ!あんなに勇気のある行動なんて僕にはできないから…」

近くにいたジャスティンがロックハートの話にのってきた。
思うに、ハッフルパフの生徒は人が良すぎるがゆえに、何でもかんでも信じてしまうみたいだ。
私的に、素晴らしいとか感動とかを気軽に使う人の気が知れない。
ただ、ジャスティンは褒め上手で誰からも好かれる性格をしている。
そこのところは羨ましい。

確かに、ロックハートの話が嘘であろうが本当であろうが、素晴らしいと信じている人に対して非難する必要はない。
その人がそう思っているなら、それでいいのだから。

「みんな、今日は三号温室へ!」

スプラウト先生の苛立ちの籠った声が響いたので、私たちはぞろぞろと三号温室へと向かった。
その途中でハリーだけがロックハートに捕まってしまっていて、スプラウト先生は彼を見捨てて温室に向かってしまった。
ジャスティンやハンナがいいなあ、と呟いていたが、少なくとも私の目には、引き攣った顔でロックハートに向き合うハリーの姿しか見えていなかった。
prev next bkm
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -