07.RAMPAGE
結局、ポッターたちは退学にはならなかったらしい。
大声で怒鳴り散らすおばさんの声が大広間中に響いている。
私は耳をふさぎながら、グリフィンドール寮のテーブルを見た。
ロナウド・ウィーズリー!という大声が聞こえたので、間違いなくこのおばさんの声はウィーズリー家のお母さんなのだろう。
声の中心部には赤毛が見える、周りの人たちも耳をふさいでいるようだが、彼だけは微動だにせず呆然としているようだった。

隣に座っていたスーザンが苦笑いしながら、そろそろ終わるから、と口を動かした。
どうやらスーザンはあれの正体を知っているらしい。

「ふう…散々ね」
「あれ何?」
「吼えメールよ。開けるとああなるし、開けないと爆発するの」

どうやら魔法界では遠距離でも教育がしっかりとできるみたいだ。
私のところにはあれが来たことがない…パパは知ってるんだろうけど、使わないでいてくれているのか。
いやただ単にあんな恥ずかしいことしたくないということだろう。

私はアップルジュースの注がれたゴブレットを片手に、授業表を見た。
今日の一限はグリフィンドールと一緒に薬草学だ。
授業表を鞄に仕舞って、ついでに教科書があるか確認した。

「あ」
「どうしたの?」
「…薬草学の教科書忘れた」
「もー、うっかりしてるわね。今から行けば間に合うんじゃない?」
「そうだね、行ってくる」

確認してよかったのか悪かったのか、教科書がないことに気づいてしまった。
気付いてしまったからには仕方がないから、一度寮に戻ろう。
ゴブレットを置いてテーブルを立つと、気を付けてね、とセドリック先輩が声を掛けてくれた。
気を付けるも何も寮に戻るだけだ。
曖昧に笑い返して、大広間から出た。

セドリックが言っていた、気を付けての意味が今更分かった。
今日は気づくのが遅くなる日みたいだ。

「ななしがいてくれて助かりましたよ」
「いえいえ…教科書の件は帳消しでいいですか?」
「ええ。今回だけよ」

大広間を出て庭を突っ切って寮に戻ろうとしたところを、スプラウト先生に捕まった。
包帯を両手いっぱいに持っているスプラウト先生を視界に納めたとほぼ同時に、スプラウト先生が声を掛けてきたのだ。
曰く、グリフィンドール寮のお馬鹿たちが貴重な暴れ柳を傷つけた。
今からそれを治しに行くから手伝ってくれとのことだ。

暴れ柳という名前を聞けば、その木が普通の木でないことはすぐにわかる。
なんだか嫌な予感がするから断りたかったのだが、どうして大広間から出てきたのか、と聞かれて教科書を忘れたと言ったら、それを帳消しにするから、と言われたので断ることはできなかった。

「ええと、先生?これどうするんです?」
「コツがあるのよ。さ、これを持っていて頂戴」

スプラウト先生に連れられてやってきたのは、温室の近くの丘の上だった。
そこには柳というには大きすぎる木が植わっていた。
さやさやと葉を揺らす程度の風が吹いたと思ったら、突然くしゃみをするかのように、幹の半分から上をブンッと振った。

枝の一本一本が蛇のようにしなやかに動いている。
蛇、というよりも鞭に近いのかもしれない。
スプラウト先生はすたすたとその木に近づいて行った。
私は両手いっぱいの包帯を零さないように抱えながら、その様子を見ていた。

スプラウト先生は一度杖を振って、襲い掛かってくる枝を止めながら幹の方へと進んでいった。
そして幹にある大きな瘤を杖で突いた。
そうすると、一瞬で木は大人しくなった。

「ここを突くと大人しくなるのよ。さ、ななし、それを頂戴」
「はい」
「酷いものだわね…ななし、枝の折れているところがあったら教えて。くれぐれも触らないように」

私は枝に触れないように、大きな木を見上げた。
木の枝はところどころに傷があるが、古傷、というような感じだ。
その古傷をみると、この木がどれだけ長い間ここに植わっているのかが分かる。
幹の瘤は目立つものではないが、よく見てみるとそれだけ、少し色が違う。
この木にとってのアキレス腱なのかもしれない。

「ななし、こっちを手伝って!」
「はい、すみません!」

慌てて私は枝を確認して、折れているところにきらきら光る綿を付けてみた。
これはこの間のクリスマスの時に、ツリーにのっていた綿だ。
ハロウィンの飾りつけにも使えそうだから教えてもらったのだ。
私が適当に素手で触ると大変なことになりそうだ。

黙々と包帯を巻いていたスプラウト先生はこげ茶の枝についている白い綿を見て、あら、と声を出した。

「分かりやすくていいわね」
「ありがとうございます。パ…父に教わったんです」
「いいことだわ」

綿は木の枝の至る所にある。
ただ、一部に集中しているから、そこだけに何かが当たったのだと思う。
まさかと思うけど、ハリーたちの車が当たったのか。
木の方の被害も甚大だけど、彼らの車の方もただでは済まなかっただろう。

スプラウト先生はてきぱきと包帯を巻く作業を行い、間もなくすべての綿のついた枝に包帯を巻き終えるだろう。
散らばっている包帯を籠に突っ込んで回って片付けをしておこう。
そろそろ授業も始まる時間のようだし。
まばらにやってきた生徒のネクタイの色を見て、駆け足でスプラウト先生の傍に寄った。

「先生、終わりました?」
「ええ、終わりましたとも。そろそろ時間ね」
「はい」

先生もそれに気づいていたらしい。
私の手に抱えられていた包帯の入っている籠を取って、先生は杖を一振りした。
私の手には籠の代わりに教科書が抱かれた。

「それを使いなさい、次はありませんからね」
「ありがとうございます!」

古ぼけた教科書だが、問題なく使えそうだ。
私はそれを手に、暴れ柳から離れて温室の近くでスーザンたちを待つことにした。
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