06.TOO SWEET
ポッターとウィーズリーは大広間にいなかった そりゃそうだろう、あんな登校の仕方をしたのだから。

「あの2人、どこに車を止めたのかな?」
「森の中に隠したんじゃない?」
「凄かったよねえ…」

車での登校は、多くの生徒たちに目撃されたらしい。
まだ生徒が集まり切っていないというのに、大広間はその話で持ちきりだった。
ハッフルパフの生徒たちは、しきりにポッターたちがこれからどうなるのか想像して楽しんでいた。
特にルイス先輩などは退学になるかならないかで賭けをはじめ、セドリック先輩にこっぴどく怒られていた。

毎年のことながら、グリフィンドールの彼らはいつだってハチャメチャで、それでいて憎めない。
面白い2人であると同時に、面倒ごとを毎年持ってくる2人でもある。

「あ、ななしさん!もうセドリック先輩と一緒だったのね」
「ハンナ、スーザン、ミーニャ。久しぶりー。先輩たちが私のこと見つけてくれたからね」
「もー、今度は私たちと同じコンパートメントにしましょ!」
「そうするー」

遅れてやってきたハンナたちはどうやら同じコンパートメントにいたみたいだ。
3人もハリーポッターたちの車を先頭車両の方で見たらしい。
彼らの車はうっかり汽車の前に出てきてしまい、あわや轢かれるところだったそうだ。
それは汽車を運転している人が一番慌てただろうなとぼんリや考えた。

後部車両で見た、ロン・ウィーズリーが車から落ちかけていた話をすると、3人はその風景を思い浮かべてか興奮してきゃあきゃあと騒ぎだした。
女の子らしい光景も久しぶりだ。

「でも、どうなるのかしら?」
「どこから車で来たのかわからないけれど、マグルに見られてたら大変よ」
「マグルに見られてたら退学かも…しれないよね?」

ハンナたちはポッターたちの行く末が気になっているようだ。
先ほどからルイス先輩も同じように話していたが、彼は別にポッターの心配をしているというわけではなく、ただ面白おかしい話として扱っていた。
こういうところが違うよなあと思いながらも、どうせポッターたちのことだから退学にはならなそうだなと思った。
ルイス先輩も私と同じ考えだからこそ、あの軽さだったんだと思う。

ちらっとグリフィンドール寮を見たが、まだポッターたちは戻っていない。
死にそうなくらい青い顔をしたハーマイオニーと赤毛の女の子がいるだけだ。

「ま、噂のポッター様のことだから、退学にはなんねーだろ」
「ルイス、またそんな風に言うのはやめろって」
「はいはい…でも事実になるぜ、たぶんな」
「何か事情があったんだよ」

ルイス先輩は事情があったとしても、特別扱いされているのは気に食わないらしい。
まあ気持ちは分かるが、気にしているだけ無駄だとすら思う。
結局、ポッターたちは新入生歓迎会には来なかった。
そりゃそうだ、来たらきっと大きな騒ぎになって、新入生どころの話ではなくなる。
組み分けが始まり、新入生が着席すると徐々にその声もなくなって行った。

セドリック先輩が新入生たちにローストチキンやマッシュルームポタージュを取り分けるのを片目に、オレンジジュースを飲んだ。
去年はあの新入生が私だったと思うと感慨深いような、むず痒い気持ちになる。

「あ、ななしさんにも何か取り分けようか?」
「大丈夫です。ところでセドリック先輩、そればっかりやってると食べそびれちゃいますよ」

セドリック先輩はさっきから新入生たちへの取り分けばかりやっている。
どうやら新入生たちはセドリック先輩に取り分けてもらいたいみたいで、色々な子がかわるがわる彼にお皿を渡す。
お陰様でセドリック先輩の目の前にあるプレートは手つかずのままだ。

ルイス先輩はある程度のところで新入生をかわし始めたため、今は普通にローストチキンに齧り付いていた。
1人だけさっさと逃げて薄情なものだとルイス先輩を睨むと、ニヤッと笑われた。

「何だよななしさん、妬いてんの?」
「…なんでそうなるんですか。食べ盛りが食べ損ねると大変だと思っただけで」
「なーんだ、だってさ、セド」
「ななしさんを困らせると痛い目見るぞ、ジャック」

ルイス先輩が唐突に面倒なことを言うのは去年から変わらない。
下らないことをいうな、と思いながら適当な答えを返しておいた。
セドリック先輩も怪訝そうに睨まれたルイス先輩は肩をすくめて、そりゃ悪かったよ、と謝っていた。
ただ、悪びれていないことは目に見えて確かだ。
相変わらず性悪だな、と思いながら糖蜜パイに齧り付いた。
ギトギトに甘い糖蜜パイは好き嫌いが分かれる…パパは大嫌いだから、我が家では決して出てくることのないお菓子だ、ホグワーツでしか食べられない。
だから、糖蜜パイを食べるのは3か月ぶりくらいだ。

「…ななしさん、甘いものばっかり食べちゃだめよ」
「うん」
「うんって言いながらも食べるんだもんね…」

スーザンとハンナが呆れた目で見てくるのも無視。
大好きな糖蜜パイにやっとありつけたんだから、今日くらいは好きなだけ食べさせてほしい。
2つ目の糖蜜パイを食べ始めたあたりで、ようやくセドリック先輩が落ち着いたのか、最後に私に紅茶を差し出してくれた。

「まあ、今日くらいはいいんじゃないかな?」
「セドリック先輩はななしさんを甘やかしすぎですよ!」
「確かにな。甘やかしすぎると太るしニキビも気になるお年頃だろ」
「…ちょっとくらいは大丈夫ですって」
「いや、その慢心が女子力の低下につながるんだ、違いないぞ」

脅しをかけてくるルイス先輩を尻目に、私は糖蜜パイを頬張った。
確かに太るかもしれないし、ニキビも気になる…2つだけにしておこうか。
あんまり自分を甘やかしているとよくない。
セドリック先輩は優しいから、私が自分に厳しくしないといけない。

「ななしさんはもう少し太っても可愛いだろうし、肌も綺麗だし大丈夫だよ」
「それ、現状の話ですもん。これからどうなるかわからないので、2つにしておきます」
「…ななしさん、アンタって本当に…」
「え、2つでも多い?でも食べ始めちゃったし…」
「あー食べ始めたんなら食っちまえ」

セドリック先輩は本当に優しい。
褒め上手だし、新入生にももう好かれてるし。
女の先輩たちがほっとかないだろうなと思う。
セドリック先輩は苦笑いしながら、こちらを見ていた。
2つは現地の人にとっても多いのだろうか…次からは気を付けよう。

相変わらず呆れ顔のスーザンを尻目に半分ほど手を付けられている状態のパイにフォークを突き刺した。
流石に食べ始めてしまった分は食べなくては。
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