05.SKY FLYING CAR .
コンパートメントは昨年と同じように1人だった。
いつも混みあうのは、列車の中央付近だ。
そのあたりはちょうどキングズクロス駅に繋がる柱があるので、人が集中する。
必然的に前方車両と後方車両に空席ができる。

私がいつも座るのは後方車両だ。
理由は、監督生のコンパートメントが近いから。
煩くするような人たちは注意されるのが嫌で、監督生のコンパートメントの近くには来ない。
つまり真反対側、前方車両に煩い人や悪戯好きの人が集中する。
昨年、ネビルのヒキガエルを探しながら気づいたことだった。
嬉しいことに、今年もこの車両は静からしい。

「おいで、ヤタ」

特に約束もしていなかったから(忘れてたってのはあるけど)一人だし。
とりあえずヤタをゲージから出した。
パパが傍に置いておけって言ってたし。

ヤタはゲージから出るとスルスルと這って私の膝の上に収まった。
私はその上に本の角を置いて読書を始めた。

「こんなところにいた、ななしさん!」
「あ、セドリック先輩」
「お前またぼっちかよ…」

列車が出発して30分ほどして、セドリック先輩とルイス先輩がやってきた。
2人は私の姿が見えないのでわざわざ探していたらしい。
ルイス先輩は心底呆れたように、コンパートメントを1人で占領している私を見た。
セドリック先輩は相変わらずの笑顔だった、眩しい。

2人は何のためらいもなく私の前の席に座った。
そして、ルイス先輩が私の膝の上を見てうわっと声を上げた。

「蛇!」
「そうですよ、蛇です。苦手ですか?」
「…得意不得意に関わらず、いきなり蛇がいたら驚くだろ」
「まあ…そうですね」

まったくもって正論である。
家にいるとこれが当たり前で感覚が鈍ってしまうが、普通なら蛇を見たら驚くし怖がる。
何も言わないが、隣のセドリック先輩は固まっていた、何も言えないのかもしれない。

ヤタにゲージに戻るようにいうと、彼は面倒くさそうに少しだけ目を開けて、恨めしそうにこちらを見た。
その視線を無視して手元の本を見ていると、ヤタは静かにゲージに戻った。

「ほー、賢いじゃん」
「まあ、同い年ですし」
「え、年齢関係あんの?」
「生まれてからずっと一緒に育っているんで自分のこと人間みたいに思っているんですよ」
「だからってこうなるもんかね」

実際こうなったのだから、何とも言えない。
魔法界の生物は総じて頭のいいイメージなので、私はあまり疑問に思ったことはなかった。
思い返してみれば、ネビルのヒキガエルはそこまで賢くはないようだった。
同じ爬虫類である蛇だが…比べ物になるのだろうか。

うーん、とヤタの入っているゲージを見つめていたが、答えが出なさそうなのでやめた。
こういうことは、魔法生物学の先生かパパに聞くのがいいと思う。

「分からないですけど、人は襲わないですよ。それだけは確かなんで」
「ふうん、珍しいやつもいるんだな…」
「触ります?」
「いや、それはいい」

ルイス先輩はふいとゲージから眼をそらした。
隣のセドリック先輩は笑いをこらえるような、でも堪え切れていない、少し歪な笑みを浮かべていた。
ルイス先輩はその様子をむすっとした顔で睨んでいる。

「あのね、ななしさん。ジャックは大の蛇嫌いなんだ」
「言うなよ…」
「あ、そうなんですか。気を付けます」

なるほど、ルイス先輩がちょっと不機嫌だったのはそのせいか。
ルイス先輩は言うなよ!と顔を赤くしてセドリック先輩に文句を言っていた。
可愛いところがある人だ。

とりあえずヤタのゲージは閉めて、私の膝の上に置いた。
棚の上とか足元も考えたが、ルイス先輩はヤタのことが気になって落ち着かないようなので、目に見えるところに置いてあった方がいいだろうという、勝手な気遣いである。

「そういや…は?」
「え、どうかした?」
「いや、あれ」

ルイス先輩が窓際に置いてあったかぼちゃジュースのカップを手に取ろうとして、そのままの格好で固まった。
どうしたのだろうと私もヤタから目を離して窓の外を見た。
そこには青い空に負けないくらい青い車が飛んでいた。

その車の運転席にはロン、そしてロンの手を必死に握るハリーの姿があった。

「え、すごい。あの2人車を飛ばす魔法なんて知ってるんだ」
「いや、そりゃないな。多分、もともと誰かが魔法かけてたんだろ。ってかやべーな、あれ」
「大丈夫なのかな…」

セドリック先輩は純粋に2人の心配をしてるようで、ハラハラと外の様子を見ていた。
最初こそ驚いていたルイス先輩はどうでもよくなったのか、かぼちゃジュースを飲みながらゆっくり鑑賞モードだ。

それにしても、あの車はどういう魔法で空を飛んでいるのだろう。
学校に着いたらパパに聞いてみよう。
もしかしたら、空飛ぶ自転車で某宇宙人映画ごっこが出来るかもしれない。
誰も得をしないだろうけれど。

長らく空飛ぶ車を鑑賞していたが、やがて車は列車の後方へと移動してしまった。
今年も彼らは何かやらかすんだろうとは思っていたけれど、まさか学校に着く前にやらかすとは予想を裏切る人たちだなあとななしさんはヘラリと笑った。
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