04.GO TO SCHOOL
キングズクロス駅は毎年9月1日になると、可笑しなカートでごった返す。

「…とかいう噂にはならないの?」
「毎年毎年そうであれば、気にならなくもなる…というのにも無理があるから、有志によって少しだけ魔法が掛けられている」
「あ、そうなんだ」


隣を通り過ぎていったカートには、フクロウの入ったゲージが載っていた。
というか、そういうカートばかりだ。
私はそこまで荷物が多くないし(魔法で小さくしている)ゲージの中は外から見えないようになっているし(中に蛇がいるとばれると面倒)で、まあちょっとした旅行と言った様子だ。
さすがに問題になるのはまずいらしく、送迎をする親の一部が魔法をかけているらしい。
パパはかけていないようだけど。

特に9と3/4の柱には常に魔法が掛かっているらしい。
そりゃあ、マグルが紛れ込んだら大変だ。

「先に席を取ってこい、ななしさん」
「はーい」

私は赤い列車に乗り込んで、適当なコンパートメントを取った。
別に誰とも約束をしていないし、気楽なものだ。
誰か知り合いが来たら、相席すればいい。
コンパートメントに大きな荷物だけを置いて、貴重品を持ってパパのもとに戻った。

パパは人目を避けるように、柱の陰に立っている。
普段から黒い服を着ていることが多いから、影に溶け込んでいるかのようだった。

「取れたか」
「うん」
「…どうせ今年も何かしらの事件が起こるだろうが、まあ楽しんで来い」
「もちろん!パパも私がいない間、無理をしないように!」
「それはこっちのセリフだ」

パパは言わないが、きっと去年のハロウィンのことを言っているのだろうとわかった。
今年は絶対にけがなんてしない、パパに心配させたくないし。

それにしても、パパは何で今年も何かしらの事件が起こると断定したのか。
たぶん、パパが言うのだからあたると思う。
今年も、というなら来年も、の可能性も高い。
何かあるのだろうか、私が入学したホグワーツは。

「事件がないほうが珍しい学校だ。大なり小なり何かしらの事件は起こる」
「…なんでわかったの」
「企業秘密だ。…それから、ななしさん。ヤタをもう少し連れ回してやれ。運動不足気味だからな」

本当にパパは何人なんだろう。
スーパーサイヤ人かサトリか…同じ人間だとは思えない。
まあいつものことだし慣れているけど、イギリスに来てからパパの予言は顕著だ。
とりあえず、今年も気を付けよう。

パパは話を分かりやすく変えた。
ツッコまれたくないんだろうな、予言については。

ヤタのことは私もちょっと気になっている。
というもの、少々ふとましくなったような気がするのだ。
成長といってしまえば聞こえはいいが、そうとも言い切れないらしい。
確かにほとんどゲージから出してやらなかったし(本人も出たいと思っていないみたいだし)運動不足は否めない。
もう少し外に出してやるかと思う、が。

「連れ回すの?」
「ああ。ななしさんのところに飽きたら勝手にどこかに行くだろうがヤタは賢いからお前を見つけるくらいわけない」
「うーん、まあわかった」

別にヤタの心配はしていない。
ヤタは賢いし、きちんと蛇の身分を弁えている。
人目につかないようにしているし、人を威嚇するなんてもってのほか。
学校内を散歩させても問題はないだろう。

ただ、人間のほうは別である。
蛇を見たら驚くし、酷い人はヤタに危害を加えるかもしれない。
グータラでどうしようもない蛇だけど、私にとっては家族も同然のペットだし。
そういう事態は避けたい。
できる限り、私の傍から離れないように言い聞かせて外に出せば大丈夫だろうか。

「そろそろ時間だな」
「うん、またクリスマスに帰るからね、パパ!」
「ああ。いってこい」

パパは胸元のポケットから懐中時計を取り出して、ちらと列車を見た。
間もなく出発するぞ、と急かすように水蒸気がモクモクと上がっていた。
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