03.FAMILY CLRCUMSTANCES

図鑑コーナーに行くと、少年と少女は結局一緒に動物の図鑑を見ていた。

「マルク、シャルロッテ!お待たせさせちゃったわね」
「ママ!」

女性に飛びついたのは、マルクと呼ばれた少年だった。
彼は図鑑を放り投げ、母親の元に駆け寄った。
シャルロッテと呼ばれた少女は女性をちらと見ると、放置された図鑑をきちんと元に戻してから、歩いてこちらにやってきた。

「ごめんなさいね、シャル」
「別に」
「おねーさん、ありがとう!」
「どういたしまして…」

なんだかどっと疲れた。
とりあえず、自分のするべきことをしてカフェに戻ろう。
忘れかけていたが、本来私は植物図鑑を買いにここに来たんだ。
恐らくセオドールが待ちわびて…いるだろうか。
彼はマイペースだからあまり気にしていないかもしれない。

私は植物図鑑を手に取って、レジへ向かった。
お金はセオドールが渡してくれている。
少々重いが、魔法のかかったバックに入れればなんてことはない。

私は鞄を肩にかけ直して、ギラギラ光る太陽のもとへと出た。
またここからカフェに戻らないといけないことを考えると、億劫だった。


「そんなことがあって、遅くなったの」
「そう、大変だったね。お疲れさま」

カフェに戻ると、お客さんが誰もいなくなっていた。
いたのは、セオドールとその向かいにモネ。
2人はテーブルの上にたくさんの雑誌を出していた。

モネは私の顔を見ると、すぐにキッチンに向かって行った。
私はモネの座っていた場所に腰を下ろした。

座ったと同時に、目の前のセオドールが随分かかったね、と声をかけてきたので事情説明をした。
ちょうど、ロックハートのサイン会があったという話のあたりで、モネがアイスティーを持って帰ってきた。
そのあともあったことを淡々と話して、時々アイスティーを飲んで、話終わるころにはアイスティーはなくなってしまっていた。

「シャルロッテのほうは知ってる」
「そうなの?」
「うん。その子だけは、その家族の子じゃない。親戚…というか本家の子だ。シャルロッテ…クラウチ家は確か夫人が亡くなっていて、当主とその息子、そしてシャルロッテの3人家族なんだ」

私の話を静かに聞いていたセオドールは、私がアイスティーの中に入っていた氷を食べ始めたのを見て、口を開いた。

そういえば、シャルロッテは髪色も性格もあの女性と似ていなかった。
彼女は物静かだったし、冷静でリアリストのような側面があった。
明るく、マイペースな女性と子供らしい男児とはどこか違う雰囲気ではあった。
どこか違和感の残る家族だと思っていたが、親戚というなら納得がいく。

「へえ。交流があったの?」
「まあ、僕も彼女と似たような境遇だから。時々クラウチ家に預けられることもあったし…僕の祖父はクラウチ家の当主の先輩で、仲が良かったらしい」

なるほど。
そういえば、セオドールは年老いた祖父と2人暮らしだとザビニが言っていたっけ。
セオドール曰く、シャルロッテ・クラウチは私たちより1つ年下らしい。
つまり、今年入学してくるということだ。

「無愛想だけど悪い子ではないから」
「それはわかるよ」

本当に性格の悪い子なら、煩いマルクを置いてどこかに行ってしまっていただろう。
だけど、シャルロッテは決してマルクから離れなかった。
マルクが散らかした本をきちんと元に戻し、それを当たり前のようにしていた。
育ちの良さがよくわかる子だった。

「でも、ハッフルパフにはこなさそう」
「クラウチ家はレイブンクローかスリザリンだね。ほとんどそう」
「セオドールの家は?」
「同じだよ。大体スリザリン気質の家の人はスリザリンかレイブンクローだから。夫婦でもそういう人が多い」

まあ、学校生活を見ていてもスリザリン生がまともに取り合うのはレイブンクローくらいだ。
レイブンクローは自分の知識欲のために動く人が多く、勤勉だ。
性質的に、ハッフルパフやグリフィンドールとはあわないことだろう。

私の知っているレイブンクロー生はリガリオス先輩くらいだが、彼は珍しいタイプなのかもしれない。
ただ、彼がセドリック先輩とルイス先輩以外のハッフルパフ生と仲良くしているところは見たことがない。

「だから、ななしさんはかなり特殊だよ。ななしさんの父上はスリザリンなんでしょ?」
「いや私が特殊って言うか、パパが特殊なんだと思うよ。ママはハッフルパフ生だったらしいから」

確かに、私は少しだけ変わっているのかもしれない。
ハンナやスーザンの他寮の友達は、大抵グリフィンドールだ。
私がスリザリン生と仲がいいというと、皆驚いていたし。

きっとパパが学生の頃もそうだったのだと思う。
この深い蟠りは長く長くあるものなのだ。
グリフィンドールとスリザリンの仲が悪いのと同じように、他の寮にも蟠りがある。
それこそ、きっと、創設された当初から。

ホグワーツに1年通ってみて、分かったことがある。
この学校はとても人間臭いのだ。
寮制もそうだし、先生も、生徒も、絵画たちも。
みんなとても人間らしい。

嫌いなものは嫌い、好きなものは好き。
よく言えば、とても素直でまっすぐで、悪く言えば頑固で矜持が高い。
折れることを知らず、自分のために戦いを好む気質がある。
1年を通して行われる寮杯もそうだし、寮監の贔屓やら、絵画たちの言葉やら。
その原因は、偏にみんながみんなホグワーツに通っているからに他ならない気がした。
私たちの頃はこうだったという偏見や伝統を、自然に押し付けていくスタイル。
教師も絵画も皆ホグワーツにいたから、その当初の当たり前が横行しているのだ。

酷く閉ざされた、特殊な場所。
学校というのはそういう傾向にあるのかもしれない。

「ななしさんみたいな人だったら、スリザリン生でも好きになるかも」
「え?」
「ななしさんみたいに、分け隔てなく誰とでも付き合えて、優しい人なら、きっとどの寮でもやっていけるんだろうね」

考え込んでいて、セオドールのことを忘れかけていた。
私はそんなに優れた人間じゃない。
そう思うのだけれど、セオドールはそう思っていないようだった。

ところで、真顔でさらっとそういうことを言うのやめてほしい。
こっちが恥ずかしくなる。

「…あー、うん。ありがとう」
「どういたしまして」

そのあと、無言になってしまって気まずくなりはじめたころ、モネが新しくアイスココアを持ってきてくれた。
ニコニコしながら、青春ねえ、というものだからさらに恥ずかしくなったのは言うまでもない。
prev next bkm
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -