02.IN BOOKSTORE
ああ、小さくて良かった。
人と人の間を縫うようにして階段を下りた時、普段は憎んでいるといってもいい低身長に感謝した。
意外と難なく階段を下りきって、本棚の間の通路に差し掛かる。
すると何やらいい争いをする男たちの低い声が聞こえた。
巻き込まれたくないし、別の道を行こう。
と思ったのだが、誰もがそれは思うことらしい。
みな、その通路を避けるように端に寄ろうとするものだから、私はぎゅうぎゅうに押された。
そして押し出されるように、その喧嘩の真っ只中の通路に放り出された。

通路をちらと見ると、ローブを着た高身長の男性が2人杖を向け合っていた。

「いい大人が店内で喧嘩かよ…邪魔だっての…」

ぽろっと本音がこぼれた。
あーもうやだやだ、ただでさえ人が多くてイライラするのに。
使い走りの挙句、子どもが進んで迷子になるような現場に連れてきた母親を探すこととなり、その上喧嘩に巻き込まれるなんてついてない。

家に帰ったらパパにいっぱい愚痴ろう。
全く困った大人ばかりだと。

「…これはこれは、お嬢さん。1週間ぶりくらいだ」
「こんにちは、ルシウスさん。…あの、挨拶よりも先に言うことがあるんじゃないですか」
「おや、そうかね?」

あー、ナルシッサさんが頭を抱える理由が分かった。
この人、矜持も高いし頭もいいだろうし実力もあるんだろうけど、馬鹿だ。
日本風に言うなら、KY。
空気が読めない困った大人だ。

普通、喧嘩して道を塞いでて、それを指摘されたらごめんなさいだろうが。
それをルシウス・マルフォイは知り合いのお嬢さんだとわかった瞬間に手を取ってキスだもんなあ…。
いい歳のおじさんがこれは引くわ。

「あー…とりあえず、そこ、通してもらえますか。用事があって」
「用?君がロックハートに?」
「ロックハート?…ああ、教科書の人ですか。違いますよ。とある迷子の親を呼びに来たんです」

ああ、そうか。
さっきの少年がロックオン!ロックハート!って言ってたのは、それか。
ロックオン!がついているから流行りのアニメか何かかと思ったが、そのあとのロックハートにかかっていただけか。
そして、この混雑の原因は彼か。
全部つながった、だからといってどうということはない。

ルシウスさんは怪訝そうな顔をした。

「お嬢さん一人でこの先に行かせるのは…あまりお勧めできないな」
「まだ結構人が?」
「ああ。サイン会がまだ行われているからな…迷惑なことだ」
「そうなんですか…でも、早めに行かないと見失いますし。ご心配、ありがとうございます」

少年たちのためにも、母親に伝言をしなければなるまい。
迷子放送なんてこの本屋にはないだろうし。

母親を見つけられなかったら、自動的に私が彼らについていないといけなくなるだろう。
別にそうしなければならないというわけではないが、見捨てることはできそうにないし。
少女はともかく、少年はまだ迷子で泣く歳だ。
彼らの面倒を見続けるのは骨が折れる。

「それなら、僕がついて行く」
「結構だ、ドラコ。僕らがついて行くから」
「…ハリー、ドラコ。い…久しぶり」
「ななしさん、私も行くわ」
「ハーマイオニーも?ってか…ロンの家族?」
「あー、わかる?そっくりだからなあ…」

私がルシウスさんの隣を通って店の奥に進もうとすると、後ろから声がかかった。
なんだろうと思ったら、ドラコが階段上から声をかけてきていた。
どうやらルシウスさん一人で来ていたわけではないようだ、そりゃそうか。

そして、それに対抗するように声を挙げたのはハリーだった。
いつからいたのかと思ったのだが、いい争いの相手側を見ていなかったからきっとそちら側にハリーはいたのだろう。
というか、よく見たらルシウスさんといい争いをしていた相手は、どこかでみたことのある赤毛だった。
というか、その場にいるほとんどが赤毛。
今まで気付かなかったのが驚きなくらい、赤毛。

どうやら、いい争いの相手はウィーズリー家の父親だったらしい。
子供同士も仲が悪いが、父親同士も仲が悪いらしい。
この親あってこの子ありか。

「あーうん、なんでもいいけど」
「あら?ルシウスさん、こんにちは。珍しいですね、こんなところで」
「ああ…ルイス夫人。もしかして、子どもをお連れでは?」

ハリー、ハーマイオニー、ロンはやたらに張り切っている。
なんなんだろう、今まで無視しちゃってたから?
よくわからないけれど、まあいい。
ハリーたちがいれば、人ごみに流されることはなさそうだ。

さて、どこにいるかなとあたりを見渡した。
上から見た、濃い茶髪は見当たらない。

「ええ、見失ってしまったのですけれど。…全く私に似て活発な子だもので。たぶんシャルも連れて行ったんだわ。みませんでした?」
「シャル?」
「…ななしさん、君の探している人はこの人だろう。」

後ろでルシウスさんの話の中に、知っている名前が出た。
先ほどの少女はシャルと呼ばれていた。
ぱっと振り返ると、そこには上から見たときと同じ濃い茶髪の女性がルシウスさんと話していた。

ルシウスさんは呆れたように女性を見ていた。
私よりも扱いがぞんざいだ。

「私が何か?」
「あ、息子さんと娘さんが二階の図鑑コーナーで待ってますよ。人ごみが嫌だからって」
「あら、悪いことしちゃったわ…ごめんなさいね、ありがとう」
「いえ。あ、ご案内しますよ。私も図鑑コーナーに用事があるので」

これで私の仕事は終わりだ。
全く疲れた、本当に疲れた。
なんかいろんな人に巻き込まれたし。

これ以上彼らと話をしたくはない。
疲れるだろうし…手っ取り早く、その上スムーズに彼らと別れるには夫人と一緒に2階に行くのが一番だ。

「それではルシウスさん、お手数をおかけしました」
「いや、こちらこそみっともないものを見せてしまって申し訳ない。またいつでも遊びにおいで」
「あ、はい。では」

ナルシッサさんに会うのはいいけど、ルシウスさんはなあ…なんだか分かりやすく狡猾だからあまり好ましくない。
もう少し隠すことを覚えるべきだと思う、ドラコのためにも。
いかんせん、ドラコも分かりやすすぎるのだ、いろいろと。
分かられてしまえば都合の悪いとなんてたくさんあるというのに。

…まあ、人様の家にアドバイスができるほど、私は素晴らしい人間ではない。
階段でドラコにも挨拶をして、さっくりと別れた。

prev next bkm
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -