ハリー・ポッターが立入禁止の部屋に入って、何やらしでかしたことが2日後には噂になっていた。
幸いなことに、あとからのこのことやってきた私のことは噂になっていない。
私もすべてが終わった後のことしか知らないので、その噂をよく聞きに行った。
曰く、立入禁止の部屋には宝があり、それを狙う人からそれを守ったとか。
なんとなく納得のいく噂だったし、何より先生たちはそれを否定しなかった。
その宝がなんであったのか、狙う人とは誰であったのかなどはわからないまま、噂は拡散していた。
「で、ななしさんはどうしてあそこに?」
「…私全くの部外者なんだよ。ペットを外に放して、連れ帰るのを忘れちゃって。それでこっそり寮を抜け出たら運悪くスネイプ先生とバッタリ。さすがに1人で帰すわけにもいかないとかで、一緒について行ったのよ」
「うげ、災難だなあ…」
私はロンとハーマイオニーに呼び止められて、グリフィンドール寮に来ていた。
どうも、あの晩スネイプ先生と一緒にいた私を不審に思ったらしい。
そりゃ私だって不審に思ったとも、なぜにスネイプ先生と夜の散歩をしなくちゃいかんのだと。
2人から聞いた話で、ようやくあの晩に出歩く危険性なんかが分かったから納得したけど。
「ま、ベッドを抜け出したお咎めはなしになったからラッキーといえばラッキーだけど」
「たしかに!」
そう、お咎めがなくなったのは嬉しい。
ただでさえ3位という順位をビリにしてしまうところだった。
ハリーがいないおかげでレイブンクローがクディッチで勝利し、得点をかっさらって行ったのだ。
まあそれがなくても、3位に変わりはないのだろうが。
2人はその後、ハリーが目を覚ましたという連絡を受けて寮を飛び出していった。
あの時ハリーは気を失っていたし、また説明をするのも面倒なので、私はそのまま寮に戻った。
何だか今年一年振り返ってみると、まあ平凡だった。
ただ、最後の1週間だけはちょっと変な感じだったかなという感想。
「ちぇ、またスリザリンが優勝かよ」
「まあまあ、ビリじゃないだけましだよ」
大広間は全体的に緑と銀で構成されていた。
というもの、スリザリンが得点で優勝したからである。
ドラコは嬉しそうだった…スピカ先輩やアル、セオドールあたりはどうでもよさそうに談笑しているが。
まあなんというか、ブラック家はあまり競争に興味があるような感じではないし、まあ納得かもしれない。
さて、ハッフルパフ寮は変わらずのんびりしている。
ルイス先輩だけが悔しそうにしていたが、セドリック先輩はいつものことだし…むしろいつもよりもいいからね、と苦笑していた。
ハッフルパフ生の大半がセドリック先輩と同じような考えらしいことは、雰囲気で分かった。
「俺らが在学中に優勝できると思うか?」
「うーん…」
「その向上心のなさが、ハッフルパフの悪いとこだって!」
「まあ…そうかもしれないけど。勝ち負けだけじゃないさ、ジャック」
まあ、セドリック先輩の言い分も、ルイス先輩の言い分も間違っちゃいないよなあ、と私はぼんやり考えた。
そして、そんなことよりも早く夕食にならないかなあとも。
この夕食が終わったらあっという間に帰省だ。
ようやくパパの作る和食にありつけると思うと、楽しみで仕方なかった。
もちろん、パパに会うのも楽しみだ。
「あら、ハリーだわ…」
「本当だ、大丈夫なのかしら?」
ぼんやりと実家に帰ることを考えていたが、突然しんと静まり返った大広間にはっと我に返った。
私の隣でハンナとスーザンがこそこそと話している。
どうやらハリーが入ってきたらしい、どの生徒もあの噂について話しているのだろう、すぐに大広間は煩さを取り戻していた。、
幸いなことに、噂話は5分と持たなかった。
ダンブルドア校長が壇上に立ったからである。
「また1年が過ぎた!」
今年一年、いろんなことがあった。
魔法使いといわれたことから始まり、渡英して新しい友達、環境、勉強。
目まぐるしい1年だったと思う。
でも、とても楽しかったことだけは確かだ。
ここにきてよかったと、心から思える。
…まだ1年しかたっていないから、残り6年もあるけどね。
毎年こんな気分になるのだろうか…それとも慣れていくのだろうか。
慣れてしまうのはちょっともったいないなとも思った。
ダンブルドア校長は、グリフィンドールに加点をしていく。
ちょっと理不尽な感じもするなあ、と私は思いつつ聞いていた。
「したがって、飾りつけをちょっと変えなければならんの」
最終的に、グリフィンドールがスリザリンを抜いて優勝した。
ルイス先輩もセドリック先輩も喜んでいたけどいいのだろうか。
ハッフルパフ、ビリだけど…まあ喜んでいるからいいのかな。
キングズクロス駅も1年ぶり、通算2度目の使用だ。
「じゃ、ななしさん。夏休みにな!」
「またね」
構内でルイス先輩やセドリック先輩、ハンナ、スーザン、ミーニャと別れてA3出口に向かった。
パパとはそこで落ち合う約束だ。
カートが邪魔くさいが、駆け足でそこに向かった。
「ななしさん」
「パパ!ただいま!」
「おかえり」
1年ぶり、通算何度目かわからないパパは、相変わらずイケメンで優しいパパだった。
賢者の石end