42.WARMING OF SNAKE
スネイプ先生の大きな真っ黒い背中は、パパのそれを思い出させた。
本来なら怖いはずの場所も、その背中があるだけでどこか安心できる。
ヤタは相変わらず威嚇音を出したり、頻りに周囲を警戒したりと忙しそうだったが。

次に辿り着いた部屋では、鍵に羽が付いたものが飛び交っていた。
ただ、どの鍵も羽が折れていて、どこか弱弱しい飛び方をしていた。
部屋の中央には箒が乱雑に転がっている。

「ななし、箒は得意か」

しかめっ面のスネイプ先生が箒を睨みつけたまま、そう問いかけてきた。
丁度半年くらい前にその話で陰鬱な気分になったのを思い出したが、とりあえず頷いた。
まあ、得意な方だろう、好きかどうかはさておきとして。

スネイプ先生は私に箒を差出し、空を飛ぶ1本の鍵を指さした。

「あれを取れ」
「…いや、どれですか」
「あの、右側の羽が折れている鍵だ。一番錆びている鍵」
「あー…あれですか」
「取ったら鍵はすぐに吾輩に渡し、すぐに扉に向かえ。他の鍵が追いかけてくるようになっている」

なぜ私が。
というか、これ私がいなかったらどうしていたんだろう。
箒を手に取りながら、スネイプ先生を見ていたが、さっさとしろといわれて仕方なく箒にまたがった。
なんだかとても損をしているような気がしてきた。

さて、私が地面から足を離すと、鍵たちが突然こちらに飛んできた。
こんなになるなんて聞いてない。
私は鍵の群れの中をつっきり、先ほどの右羽折れの鍵を探した。
というか、どいつもこいつも羽が折れていて分かりづらいったらない。
ただ、よく見てみると右羽折れの鍵は右へ左へ、揺れながら飛んでいるから、見失ってもすぐわかるのだけが救いだった。

何とか鍵を取ってスネイプ先生に渡すと、先生は何事もなかったかのようにドアを開けた。
何平然とした顔で先に進んでいるんだ。
いろいろと言いたいことはあったが、前もって言われていた通りドアに突っ込んだ。
といっても途中で箒からは飛び降りたが。
さすがに、箒に乗ったままドアを潜り抜けるのは難しい、そんな低空飛行怖くてできない。

「スネイプ先生?」
「ダンブルドア校長…」
「おや、セブルス。遅かったのう。…はて、後ろの生徒は」

箒から飛び降りてやや転げるようにして奥の部屋に入ると、いつの前を歩いていたスネイプ先生が立ち止まっていた。
不思議に思って声をかけると、スネイプ先生の前にはダンブルドア校長がいた。
その腕には、ハリーが抱かれていて、校長の後ろにはロンとハーマイオニーがいた。
え、何この状況。

ダンブルドア校長は不思議そうに私を見ていた。
スネイプ先生は怪訝そうに、違反者ですと低い声で言った。

「そうか。ハッフルパフ生にしては随分と冒険的な子じゃのう…罰則はこれかね?罰則にしてはきつい気がするがの」
「…一人で帰すわけにはいきませんでしょう」
「そうじゃの。じゃが、ここまで連れてくることもなかろうに」

スネイプ先生は不機嫌そうに言った。
何やら危険な状況だったらしい。
となると、ハリーは大丈夫なのだろうか。
寝ているように見えるが、もしかしたら気絶しているのかもしれない。

「ハリー、大丈夫ですか」
「おお、大丈夫じゃ。時期目が覚めるじゃろうて、若いしの」

若いのは関係ないと思うが、飄々とした様子なので心配はいらないのかもしれない。
私はダンブルドア校長とスネイプ先生に連れられて、部屋を出た。
部屋を出るとき、やはり警戒しっぱなしだったヤタが、一段と警戒音を大きくした。

ふっと、頬を撫でるような生ぬるい風。

「シャアー!」
「ちょ、ヤタしまっ…締まってる…!」
「…何をしているんだお前は」

ぞわっとしたのも一瞬、ヤタが私の首を締め上げた。
彼は何かを警戒して威嚇しているようだが、その何かを追い払う前に私が死にそうだった。

ついてこない私を不審に思ったらしいスネイプ先生が戻ってきてくれて、私のありさまを見て呆れたように呟いた。
そんなの私が聞きたい。
ヤタが威嚇をしていたのはほんの数秒で、すぐに何事もなかったかのようにローブの下に戻った。

「ヤーター?お前何ご主人様締めてんの!この馬鹿蛇!」
「シュー」
「シューじゃないっての!殺す気かおバカめ!」
「さっさとしろ」

呆れかえった様子のスネイプ先生がこちらを見ている。
クソ、恥ずかしい思いまですることになってしまったじゃないか!
これは実家に帰ったらパパに𠮟ってもらわないと。

ヤタは先ほどまでの不機嫌などどこ吹く風、おとなしく私のローブの中に納まった。
いったいなんだったというのだろう。
普段はおとなしく…いやぐーたらな子なのに、あんなに怒っているのを見たのは初めてだ。
昔鱗を剥いでしまったときもちょっと威嚇するだけにとどまったのに。

ちょっと不思議に思ったが、スネイプ先生の早く来い、という視線に気付いて駆け足で部屋を去った。
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