41.SECRET MIDNIGHT
「あ、やばい」

夜、消灯時間は過ぎていた。
私はどうしても続きが気になる本を読んでいた。
月明かりだけで読むには心もとなかったので、こっそりと読書灯を付けて。

本を途中まで読んで、ドラゴンが出てきたあたりではっと思い出した。
今日はヤタを外に出したんだ。
そして、連れ帰るのを忘れた。

「どうしよう」

この前、連れ帰るのを忘れたがヤタは自力で帰ってきた。
真っ白な身体を真っ黒にして。
洗うのもためらうような汚れ方をしてきた。

というわけで、迎えに行きたいのだ。
ヤタの場所は大体わかる、便利な魔法のおかげで。
パパがくれたヤタとおそろいのブレスレットは、ヤタとの距離といる方角を教えてくれる。
だから探すのには手間取らない。

ただ、消灯時間はとうに過ぎていて、今外に出るのは危ない。
ブレスレットはそう遠くない距離を指している。
今探せばすぐに戻ってこられるはず。

「…行くか」

ドラコではないが、ばれなければどうということもない。
私はローブを羽織って、杖とタオルだけ持って外へ出た。


ヤタは簡単に見つかった。
2階の廊下をスルスルと歩いているのを発見、即確保。
少々汚れてはいたが、タオルで拭けば落ちる程度の汚れだった。
ヤタはタオルで擦られるのが嫌なのか、シューシューと威嚇音を出している。
どうやらご機嫌ななめらしい。
さて、戻ろうと思ったとき、悲劇は起きた。

「ここで何をしている、ななし」
「…すみません。ペットが逃げ出しまして」

今日の巡回がスネイプ先生か聞いてない。
これではドラコの二の舞である、本当にやってしまった。
減点とかされたら、先輩たちに面目が立たない。
せめて、罰則だけで…なんて甘い考えなのだろう。

一瞬にして、いろんな考えが浮かんでは消えた。
いやマジでやばい。

「1人か」
「そうです」
「…ついて来い」

どこにだ。
スネイプ先生は速足で私の前を歩いた。
慌てて私はその背中を追う。
自室に連れて行かれて説教だろうか…いやそれは本当に嫌だ。

ヤタはまだ、シューシューと威嚇を続けていた。
もしかしてさっきの威嚇はスネイプ先生に気付いていたからかもしれない。
ヤタの警告にしたがっておけばこんなことにはならなかったかも。

「…どこに行くんですか」
「いいからついてきなさい。今、お前を1人にするわけにはいかない」

ヤタの警告音がさらに激しくなる。
スネイプ先生は自室のある地下室ではなく、二階の立入禁止区域に向かっていた。
なぜそんなところに私を連れて行く意味があるのだろう。
そう思って聞いたのだが、答えてくれる気配はない。

立入禁止区域の一番奥には、扉があった。
気でできた簡素な扉からは、かすかに唸り声が聞こえる。
ちょっと待て、何がいるんだ。

「吾輩から決して離れるな、ななし」
「はい…死にたくはないです」
「賢明なことだ」

ぎい、と開かれた扉の先には、頭が三つある犬がこちらを睨んでいた。
なんだこれ、ケルベロス?
地獄の番犬を思い浮かべるような頭だが、犬種としてはブルドッグみたいだった。
ケルベロスというとドーベルマンみたいな犬種を想像していたから、ちょっと拍子抜けだった。

とはいえ、私たちに唸り声を上げている当たりどう見たって友好的ではない。
かなり大きいし、噛まれたらひとたまりもないことは見て取れる。
スネイプ先生は慣れたようにしているから、彼についていれば問題ないだろうと思う。
ので、先生にお任せして、私は後ろにいた。

スネイプ先生は杖を振って大きな弦楽器を出した、低く荘厳な音色が部屋に響く。
すると不思議なことに犬は寝た…なんだこの生物。

「ヤタ、落ち着いてってば…」
「シャー」

犬の傍を通りすぎようとしたとき、ヤタがローブから顔を出した。
威嚇音を出している…犬にではない、これから進もうとしている部屋の先にだ。

スネイプ先生は、ヤタをみてギョッとしたように目を丸くした。
ですよね。

「…ペットとはそれか」
「そうです。ニシキヘビのヤタ君です。大丈夫ですよ、人には手を出しません」
「そうか…ニシキヘビ…」

最初こそ驚いてはいるようだったが、すぐにいつもの鉄面皮に戻った。
その上で、じっとヤタを見ている。
あまり怖いというわけではないようだ。

先生はツカツカと前を歩いた。
部屋の奥に進むにつれて、どんどん暗くなる。

「その蛇は人に慣れているようだな」
「はい」
「鱗は…」
「剥ぐと機嫌が悪くなるので嫌ですよ」

どうやらアルと同じことを考えていたらしい。
そんなに貴重なのか、ニシキヘビの鱗。
薬学をする人にとっては必要なものかもしれない。

私がきっぱりと断ると、少々機嫌を悪くした。
子どもか。

「…ここにいろ、ななし。目を瞑れ」
「はあ」

部屋の一番奥には、うねうねとした職種のような何かがうごめいていた。
暗くてよく見えないが、草の匂いがするから植物なのかもしれない。
何にしても気持ち悪いことこの上ない。

というか、学校の一室にこんなダンジョンみたいな場所があるなんて思っても見なかった。
そりゃ立入禁止にもなるだろう、。グリフィンドール生なんてこんなの好きそうだし。

言われた通り目を瞑ると、一瞬だけぱっと瞼が明るくなった。
そして、すぐ暗くなる。

「行くぞ」
「…はあ」

目を開けると、先ほどの暗がりのなかの触手は消えていた。
なんだろう、光に弱い性質を持っていたのだろうか。

前を歩くスネイプ先生に聞くのもあれなので、ちょっと思い出す努力をしてみた。
どこかで光に弱い食虫植物を習った気がする。
スネイプ先生の後をついて、ぼんやりと考えていると唐突に浮遊感。

「馬鹿者、前を見ろ!」
「…すいません」

どうやら触手がなくなった部分は、空洞になっていたらしい。
暗いのとぼんやりしていたのが相まって、思いっきり落ちた。
下で待機していた先生がすぐに気付いて浮遊呪文をかけてくれたので怪我はないが、驚いた。
驚いた拍子に思い出した。

「今のあれ、悪魔の罠ですか」
「その通りだ」

悪魔の罠は暗闇に生息する蔓のような形状をした植物だ。
じめじめとした暗闇を好み、光と暑さに弱い。
うん、なんでこんなところで実習しているんだろう。
スネイプ先生は更に早足で先に進んだ。
私は、その背中を追うことしかできない。

しかし、その背中はとても安心できるものだったから、私は途中から冒険気分だった。
prev next bkm
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -