40.MELANCHOLY OF FATHER
なぜ家に年上の男2人だけを呼ぶ?
ななしさんから送られてきた手紙への思いはそれだけだった。
彼らがマグル界に疎いことはわかった、ホテルに泊めるのは確かに不安が残る。
とはいえ、父と娘しかいない家に男2人とはかなりやりにくい。

そういえば、ななしさんはずっと勘違いをしている。
日本からこちらに転勤したことで、イギリスの勤務時間が適応されていることをあいつは忘れている。
つまり俺にも夏休みがあり、この男2人が来る間は家にいる。

…むしろ俺がいなかったらななしさんは男2人と一緒にいることになっていたのか。
そしてななしさんはそれを気にしていないと。
これは再教育の必要がある。

閑話休題、とにかくなぜ家に呼ぶ。
女友達ならまだいい、それなら許可を出しただろう。
しかし男の、しかも年上など家にいれたくもない。
というわけで、答えは決まった。

「却下」

当たり前だろう。
なぜいけると思った、ななしさんよ。
さすがに彼氏でも何でもない男2人を宿泊させるほど俺はお人よしじゃない。

とはいえ、ある程度は丸くなったつもりだ。
マグル界にも、魔法族がやっているユースホテルがあったりもする。
それを紹介しておけば問題ないだろう。
…それから、ななしさんには3人でロンドン観光も控えるように言っておくとしよう。
せめて、1人女子の友人を付けろ。


「…私が変なの?」
「ななしさんのパパが言うことも一理あるわね」
「あ、じゃあ私がついて行ってもいい?」

パパから厳しい手紙をもらってしまった。
どうやら私の考えはちょっとよろしくなかったらしい。
別に怒っているというわけではない、ただ呆れているって感じ。

それにしても、パパだって夏休みがあるってこと行ってくれればよかったのに。
そしたら、パパと夏休みの計画を立てて遊べたのになあ。

ちょっとその点にムッとしたが、まあいい。
ハンナがついてきてくれるようなので、これで問題ないだろう。

「じゃあパパに手紙を書いとくよ、ハンナ」
「やったあ!」
「えーずるい、私もななしさんの家泊まりたかったな〜」

というわけで、夏休みの予定がこれで1つできた。
うーん、楽しみといえば楽しみかもしれない。
ロンドンは私もまわったことがないし、ハンナも家はロンドンから遠いらしいから本当にはじめての冒険みたいなものだ。
どうなることやら、と思う反面、どうなっても面白そうだと思う。

パパからの返答を知らせに、談話室に降りた。
そこには、相変わらず機嫌の悪そうなルイス先輩(夏休みが近づくにつれて機嫌が悪くなっているみたいだ)とそれを宥めるセドリック先輩の姿があった。
ルイス先輩は苛立ったように足を組み貧乏揺すりをしていたが、私たちの存在に気付くとそれをやめた。

「こんにちは、ルイス先輩。早速ですが、報告があります。いい報告と悪い報告、両方ありますが、どちらから聞きます?」
「おー定番だな。悪いほうから頼むわ」
「パパが男を連れてくるのはやめなさいって」
「うん、だよね」

なぜかホッとした様子のセドリック先輩とまあそうだよなあ、と零すルイス先輩。
2人はダメ元のつもりだったらしい。
なんだちょっと私だけ恥を晒しただけなような気がする。

「いい報告は?」
「パパが魔法族の人がやってるユースホテルを紹介してくれるらしいです」
「お、それは助かる」

ルイス先輩は先ほどまでの苛立ちなどつゆほど感じさせず、ニコニコしている。
どうやらロンドンに旅行に行ければいいらしい。

私は2人に日程を聞いて、メモを取った。
これをパパに伝えれば、ホテルを取ってくれる算段だ。
私はメモとあらかじめ書いておいた手紙を持って、寮を出た。


寮を出て、フクロウ小屋に行った。
フクロウ小屋には相変わらずたくさんのフクロウがいたが、いつもより数が少ないように思えた。
きっと、誰もが夏休みの計画を立てているのだろうなと思うと、少しおかしかった。

適当なフクロウの足に手紙を括り付けると、何も言わずにフクロウは飛び立った。
今回のフクロウは寡黙なタイプだったみたいだ。
前回はちょっと乱暴だったらしく、パパからフクロウを選べという苦言が乗せられていた。
そのフクロウには私も突かれたので、気を付けようと思った。
まあ、それを思い出しのは今で、結局何も考えずにフクロウを選んでしまったのだが、結果オーライ。

それにしても、そこまでフクロウに気を使うなら買ってしまったほうがいい気がしてくる。
意外と頻繁に手紙を送るし、そのたびにフクロウ小屋に来るのも面倒だ。
それに、スピカ先輩は…というか彼女だけではなく、女性は結構フクロウ小屋を嫌がる人がいる。
私は気にならないが、不衛生だと思うらしい。
まあ、分からないこともない。
夏になったらパパに相談しようか。
でもこれ以上動物を買うのは面倒だろうか。
といっても、散歩が必要なわけではないし、そうでもないか。

「ななしさん?」
「…あ、アルとドラコ。こんにちは」
「ちょうどいいところにいたな」

大広間に行く途中の階段が気まぐれにアルとドラコを連れてきた。
この組み合わせは珍しい。
アルはときどき話が通じないから、ドラコのような自分の思い通りに行かないことが嫌いな人との相性が悪い。
とはいえ、別に仲が悪いわけではないのだろうが。

ドラコは何やら私に用があったらしい。
きっとなかなか私に会う機会がなかったのだろう。
スピカ先輩のように躊躇なくハッフルパフ寮にくるスリザリン生は珍しい。

「母上が、ぜひななしさんと話がしたいそうだ。夏にうちに来ないか?」
「あ、うん。行く!…パパは連れて行かないけど、いい?」

アルが隣で薄らと微笑んでいた。
どうやら彼がナルシッサさんに話を付けてくれたらしい。
いやはや頭が上がらない。

ママの話を聞くにあたって、パパがいると気まずい。
ということで、今回はパパを連れて行かないつもりだ。
ドラコのお父さんは、パパに熱心な様子だったから連れて行かないのはどうかと思った。
でも、仲悪そうだったし別にいいのかな。

「構わないと思う。母上が個人的に話したいといっていたから」
「そっか。わかった、ありがとう。日程はどうする?」
「八月の中旬以外ならどこでも平気だ」
「あ、なら夏休み始まって少ししたら行く」
「…アバウトだな」

ドラコは呆れたような顔をしたが、またあとで連絡してくれればいいと言った。
彼らとは大広間まで一緒に向かった。
大広間はいつも通り、騒がしい。
最も騒がしいのはグリフィンドールだった、いつも通り。
耳をすませば、夏の話が聞こえてくる。
夏休みを待ちかねるのは日本でも海外でも変わらないらしかった。
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