39.PLANNING OF SUMMER
テストは何の滞りもなく終わった、恐らく可もなく不可もないだろう。
テスト終わりの解放感で、ハッフルパフ内はいつもよりもずっと穏やかな雰囲気になっていた。
談話室では至る所でお茶会が開かれ、夏休みの計画を立てる者だったり、両親への手紙を書く者だったり、様々である。
私も夏休みの計画を考えていた。
ただ夏休みといってもパパは仕事があるだろう。

今年の夏もダイアゴンに遊びに行くことが多くなりそうだった。

「ななしさんはロンドン住まいなんだろ?」
「そうですよ」
「ロンドン案内してくれよ、今度行こうと思ってるんだ」
「…案内といっても、私、昨年引っ越してきたばかりですよ」

ルイス先輩はキラキラした目でこちらを見たが、私はどうすることもできないだろう。
何たって、引っ越してきたのは昨年の…いや、一昨年になるのだろうか、冬。
年越しは日本でして、3月までは向こうにいた。

4月から学校の始まる9月までロンドンで暮らしていた…つまるところ5か月程度。
しかも夏休みはほとんどダイアゴンで遊んでいた。
1人でロンドンの街を歩くのは危ないとパパに言われたからだ。
というわけで、私はロンドンがさっぱりわからない。

「そういえば、ななしさんって東洋の出身なんだっけ?」
「そうですよ。ヨーロッパに来たのもこれが初めてです」
「ほー、そりゃ大変だな。結構違うんだろ、生活とか」

まあ確かに違ったが、なんだかんだで慣れた。
大味の食事にもやたらに長い休暇も、靴のまま部屋に入るのも何とか慣れた。
慣れたうえで思うのは。

「慣れましたけど、やっぱり日本がいいです」
「あー祖国か。そりゃそうだろ。10年もそっちで暮らしてるんだからな」

そう、やはり日本がいいのだ。
薄味の中の繊細な料理とか、短いと文句を言える夏休みとか、きちんと靴を脱いで上がる家とか。
夏の予定はまだ聞いていないが、日本に戻るのだろうか?
いやそれはないか、パパはこっちで仕事をしているし。


「日本かあ…いってみたいな。どうやって行くの?」
「…煙突ネットワークは繋がってないそうですよ。距離的に姿現し?ってやつも無理らしいです。なのでマグル式で飛行機に乗って…12時間くらい」
「え、12時間!」

目を丸くしたのは、総じて魔法界で暮らす人たちだった。
マグル生まれのハンナやミーニャは、あーそうだよね、と苦笑している。

「大変だよねえ、ななしさん。おばあちゃんとか向こうにいるの?」
「ううん、いない。だからたぶん夏もイギリスにいるよ」
「そっか。じゃあみんなで会おうね!」
「そうだね、基本的に私はたぶんダイアゴンにならすぐ行けるよ、近いから」

キャッキャとはしゃぐハンナとスーザンに計画を任せ、私はミーニャの猫を撫でていた。
イギリスの夏休みは非常に長い。
飽きるのは時間の問題だ、パパに聞いてこちらも計画を立てないと。

「セドリック先輩は夏休み、何をするんですか」
「今年はイタリアに行くって母さんがはしゃいでたよ」
「わお…バカンスですね」

初めてバカンスなんて言葉を聞いた。
日本じゃ口にしない言葉だ。
イギリスではそう珍しいことではないらしく、スーザンの家はフィンランドに、ハンナの家もフランスの田舎の祖母の家に行くという。

羨ましいとは思うが、実際に自分が行きたいかといえば、そうでもない。
今年の夏は何をしようとか計画立てるのは楽しいからやるけど、それが実行される確率は低い。
なんだかんだでぐーたら過ごす夏が一番だと私は思う。

「んで、ななしさん。案内してくれねーの?ロンドン」
「地下鉄の乗り方とかの手伝いならしますけど」
「十分!案内はガイドブックに任せりゃいいだろ。俺、マグルの生活様式さっぱりだからそっちだけ教えてもらえりゃいいわ」

ルイス先輩は本当にロンドンに来るつもりらしい。
曰く、家族旅行は不参加にしたいとか。

ルイス先輩の隣で、セドリック先輩は少し不服そうだった。

「ホテルとか取れます?」
「あ、無理」
「…とっときますね」

何だか取っても心配だ。
ホテルにはマグル製品がたくさんある。
テレビがない部屋はないだろうし、湯沸かしポットやドライヤーなんかも魔法界にはない。
好奇心のままに触ると面倒なことになりそうだ。

「さんきゅ!」
「…僕も行く、いいだろ?ジャック」
「おー、いいぞ。旅は道連れってな。ってなわけでななしさん、2人分よろしくな!」
「…あの、大丈夫ですかね?ホテルにはマグル製品がたくさんありますけど」

いや旅は道連れ世は情けとはいうけれど、マグル界を知らない人が1人増えただけだ。
3人寄れば文殊の知恵に一歩近づいたわけだが、ぶっちゃけ変に知恵を使ってもらいたくない。
何か騒ぎでも起こされたら大変だ。

「よかったらうち、来ます?パパに聞いてみるんで…」
「まじ?いいの?」
「パパ次第です。私は別に構わないし…客間はあるので大丈夫だと思います。ベッドは…ま、パパに頼めば何とかしてくれるはず」

下手にマグル製品に手を出される可能性がないだけ、ましだ。
ただ両方とも男の先輩だし、パパが渋るかもしれない。
ダメ元で手紙を出してみるとしよう。
ダメだったら、ホテルを手配すればいい。

私はパパへの手紙を書くべく、部屋に戻った。
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