37.FOLLOW THE SURIZARIN
廊下はひどく寒かった。
談話室は暖炉のおかげでとても暖かかったから、そのギャップが身に染みる。

皆この寒さでは外に出たいと思わないのだろう。
廊下には人の気配はなく、ただ絵画たちが雪が綺麗だとか子どもたちが返ってきて騒がしいだとか、囁きあっていた。
図書室も同級生はいなくて、OWLやNEETを控えているらしい先輩が少しだけいるのみだった。

本を返して、新しく借りた。
図書室にいるか部屋に戻るかで迷ったが、結局図書室に籠ることにした。
部屋に戻ればお喋りに参加しなければならなくなるだろう。
今はそんな気分ではなかった。

クリスマスに初めて見たママの存在がなんとなく忘れられない。
私の知らないパパがいるのも、なんとなくもやもやした。
知らないことばかりだったんだなと思うと、どこか不安で怖い気がした。

「ななしさん?」
「あ…アル、珍しいね」
「談話室が煩いから…どうかしたの」

図書室の奥まった場所にいたのだが、声をかけられて顔を上げた。
そこにはアルがいた、片手には薬草学の本。
薄灰色の目が怪訝そうにこちらを見ていた。

アルは隣いい?といいながらも椅子を引いた。
私の返事を待つ気はないのだろう。
私は一つ頷いて、少しだけ椅子を横にずらした。

「んー、なんかアンニュイ」
「ふうん。パパさんと何かあったの」
「パパさんとママさんの話をしたんだけど、知らないことばかりだったなと思って」
「…そっか」

アンニュイの使い方あっているのだろうか。
若干そこに不安が残った。

そしてなぜアルは私が落ち込んでいる原因がパパだと思ったのだろうか。
私、そんなにわかりやすいのかな。
ママが死んでいることはアルも知っている。
コメントし辛かったのだろう、少し黙ってしまった。

私も自然と話すのをやめてしまった。
自分でも、どうしてこんなに落ち込んでいるのかわからないから困ってしまう。

「ななしさん、これから暇?」
「うん?暇だよ」
「じゃあちょっと付き合ってくれる?」

唐突にそう言いだしたアルについて、図書室を出た。
手には本だけだった。

アルは慣れた様子で地下へと続く階段を下りていく。
蝋燭の火だけが頼りの薄暗い道だった。
絵画たちは茶化すでもなく、ただ気だるげにこちらを目で追うばかりだった。

学校にいる絵画たちは個性豊かで、各々気の合う場所に住んでいる。
例えば、ハッフルパフ寮の近くには穏やかでお喋りな絵画がいる。
スリザリン寮の近くにいるのは、物静かな絵画らしい。

そんなことを考えていると、前を歩いていたアルが立ち止まった。
とある部屋の前だ、寮の前。

アルはその扉を3回ノックして、返事も聞かずに開けた。

「失礼します」
「…返事を聞いてから開けろ、アルタイル」

奥から聞こえてきたのは、悪名高いスネイプ先生の声だった。
ここはスリザリンの寮監である、スネイプ先生の自室らしかった。
何でここに連れてきたのか、不思議に思ったが何も言わずにアルの隣に立った。

スネイプ先生はアルに怪訝そうな目を向けていたが、隣の私を見るなり目を丸くした。
そんなゴーストを見るような目で見なくてもいいのに。

「ななしは何故来た」
「いや、アルに連れてこられて」
「ダメでしたか?」
「…ダメではないが」

分かった、アルは結構天然だ。
アルは前もってアポイントメントを取っていたのだろう。
ただ、スネイプ先生はアルが来ると思っていた、というかアルだけが来ると思っていた。
そうだというのに、アルは私まで連れてきたから驚いたのだろう。
いや、私も驚いた。

ダメではないが、常識に欠けているといっても過言ではない。
ただ、人数確認をしていなかったらしいスネイプ先生も𠮟るに叱れず、むすっとした仏頂面で私に椅子に座るように促した。

「それで、ななしは何をしに来た?」
「ななしさんのママさんについて、スネイプ先生なら知っているとかと思いまして教えてもらおうと思いました」
「吾輩はお前に薬学を教えるつもりだったのだが?」
「スネイプ先生は、父の1つ下の代だと聞きました。薬学はいつでも学べますから」
「…え、いや、アル?」

いや、話が通じないとかそういうレベルじゃない。
完全にスネイプ先生の話を無視して、自分の話を始めたアルを私は呆然と見るばかりだった。
アルはいたって真面目で、真剣な顔である。
私はオロオロするばかり…いや本当にどうしてこうなった。

スネイプ先生は隠すことなく大きくため息をついた。

「吾輩は、リコ・ななしとの付き合いが浅かったから詳しくは知らん。聞くならナルシッサ先輩がいいだろう。彼女はリコと仲が良かった。本来ならば、仲良くなるはずがないのだがな」
「ナルシッサさんって…ドラコのお母様?」
「そう。会ったことある?」

一度、夏休みに挨拶された程度の関係だった。
彼女にとって、私はどんなふうに見えたのだろう。
ぜひ話を聞いてみたいと思う。

「スネイプ先生は母と面識が?」
「同級生だ。リコはハッフルパフ生だったが、なぜかスリザリン生の一部から好かれていたな。今のお前と同じように」

どうやらスネイプ先生はママと同年らしい。
彼曰く、ナルシッサさんはママの1つ上だったが妹のようにかわいがっていたそうだ。
また、レギュラスさんはママやスネイプ先生の1つ下。
スネイプ先生は独身だとアルが言ったため、スネイプ先生の機嫌が悪くなったこと以外は問題なく話を聞くことができた。

「お前の母は吾輩の世代に置いて、ある意味有名人だ。いくらでも話を聞くことはできるだろう。お前が知ろうとするなら、の話だが」

スネイプ先生はそう言って話をまとめた。
そろそろ戻れといわれて、置時計を見ると時刻はすでに消灯時間20分前だった。
私はスネイプ先生にお礼を言って彼の部屋を出た。

「今度、スリザリン寮に来るといいよ。その時にドラコに話を聞いて、ナルシッサさんと連絡を取ってみよう」
「うん、ありがと、アル」

ハッフルパフの寮前まで送ってもらって、そこでアルとは別れた。
帰り際、これで姉さんのお茶会のきっかけができた、と小声で言っていたのを聞いてしまったからちょっと複雑な気持ちになった。
嬉しいけど、母のことを気にしていたと知ったらスピカ先輩の過保護が発動して大変なことになりそうだなと思った。
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