35.LETTER TO THE FUTURE
ななしさんへ
こうして私とお話するのははじめてかな?
この手紙を読んでいるということは、あなたも魔女なのね!
嬉しいなあ、どこの寮になったんだろう?スリザリンかな、それともハッフルパフ?
レイブンクローもあり得るかも、リドルは頭がよかったし…グリフィンドールはどうかなあ…
でもきっとどこの寮に行っても楽しいわ!
ホグワーツは楽しいところでしょう?絵画と仲良くなると、きっともっと楽しいわ。
私なんてよくこっそり寮を抜け出して、迷子になっちゃったっけ
だいたい、友達が呆れ顔で迎えに来てくれるのよ
そうでないときは、絵画に道を聞くの
絵画たちは馬鹿ねえ、といいながらもきちんと道を教えてくれるのよ
もしかしたら、私の名前を出せば(あ、ママはリコっていうのよ)お話が弾むかもしれない!

あらら、ちょっとお話が過ぎちゃったかな
今はクリスマスでしょ?パパがちゃんと私のお願いを聞いてくれてたらそうなっているはず
もし、クリスマスにもらえていなかったら私の代わりに怒ってね
パパはどうかしら?パパは結構やんちゃなところがあるから、なにか悪いことをしていたらななしさんが怒っていいのよ

また話がそれちゃった…ななしさんと話したいことがたくさんあるの!
プレゼントのリボンは髪につけるもよし、もしななしさんがショートカットならブレスレッドにするのもいいんじゃないかしら?
パパはきっと何も言わないけれど、実はこれ、昔、11歳のママがパパからもらったクリスマスプレゼントなのよ
どうかしら、パパどんな顔していた?思い出して嫌な顔してたかしら?
想像したらちょっと笑っちゃったわ

リボンは結ぶものだからね、縁結びのおまじないもかけておいたの

ななしさんがたくさんの友達に恵まれますように

メリークリスマス、私の可愛い娘!

リコ


自分の母ながら、非常に話が長い。
手紙は3枚にも及んでいるし、なぜかイラストまで描かれている。
いやはや、マジでこれ私の母親か。
ちょっと悪戯好きの女の子って感じだぞ。

「…でも、似てるかな」

まあ、悪戯好きなところとかね。
ちょっと抜けているところとかも似ているかもしれない。

分厚い封筒の最後の一枚は、写真だった。
魔法界のものではない、マグル界に流通する一般的な写真だ。
写真屋さんで取ったものでもない、タイマーだろうか。

そこには、若いパパとママがいて、ママの腕には私らしき赤ん坊が抱かれていた。
パパは相変わらずの不愛想で、ママは万遍の笑み。
なんというかちぐはぐな夫婦だなという感想だ。
私の容姿はどちらかといえば、パパに似ていた。
両親ともども黒髪なのでそれは同じだが、顔つきとしてはパパに似ていると自分で思う。
ママはたれ目で可愛い系の人だった、明らかにぽやーっとした感じ。

私はその写真を手帳に、手紙はリボンの入っていた箱に戻して部屋の戸棚の一番上に仕舞った。



「手紙には、なんて?」
「ん?リボンのプレゼントは昔パパにもらったものと同じものを選んでみました〜パパどんな顔してた?って」

次の日、朝食を取っていると(今日は昨日の残りのチキンをホットサンドにしたものとクラムチャウダーだ。料理上手)パパが少し控えめにそう聞いてきた。
何をそんなに恐れているのだろうと思うけれど、とりあえずざっくりと答えた。
こうしてみると、ママはパパの話ばかりをしていたように思えた。

「…本当に馬鹿だな、なぜ娘へプレゼントに俺の名前が出てくる」
「よっぽどパパが好きだったんでしょ。それに私へのことも書かれてたし」

パパもそれを感じたのか、眉根を寄せつつバツが悪そうに視線をスープに落とした。
まあ、娘としてはパパとママの仲が良い姿をちょっと見られたのは嬉しい。
それに、まったく私のことを考えていないわけでもない。

「ねえ、パパ。ママのこと聞いてもいい?」
「いいが、俺はあまりあいつのことが分からん」
「わからない?」
「あまりに性格が違うから、あいつの考えていることは全くといっていいほど理解できなかったし、なぜ好きになったのかもいまだに分からん。あいつと結婚したことが、俺にとっては人生で一番の謎だな」

真顔でいうことか、それ。
確かに、見たところ性格は似ていなさそうだ。
ただ、ぽやっとしたママの面倒をパパが見ていたという図はなんとなく想像できる。
しかしそれでは、パパに利点はない。
パパは合理主義だし、ママと一緒になるのだって何かしらの利点があったのではないだろうか。
結婚とは一般的に好き合ったもの同士が一緒になることだが、パパはそれ以上のなにかを結婚に求めそうなイメージだったのだが。

そのイメージは間違ってはいないものの、本人の意図しないところでそうではない事態が起こっているらしい。
パパも本当に分からないようで、切れ目を細めていた。

「だが、不思議とこうなったことに後悔はないから、結局のところ惚れた弱みだったんだろうな」
「はあ…すごいねえ、恋愛って」
「リコは陰の功労者だよ、間違いなく。俺を救いあげた上に、俺の悪い部分をすべて消していったからな…。頭が上がらん」
「何それ、パパがそうまで言うとかマジですごい」

あ、思ったことがそのまま口に出た。
パパはちょっと苦笑して、そうだなと答えた。

私はこの時、パパの言葉をそこまで重く受け止めてはいなかった。
まあ、昔はやんちゃだったらしいという話は聞いていたから、足を洗わせたんだろうとくらいに思っていた。

ただ、冷静になってみればパパは優秀だったのだから、ママのような人に不良だとばれているのはおかしな話なのだ。
パパほどの能力と会話テクニックがあれば、ママくらい騙しておくことができただろう。
だが、それができなかったというのは不思議なことだ。
その理由は、後々明かされることとなるのだけど、このときは全くといっていいほど気づいてはいなかった。
あくまで、頭のいいパパをうまく言い包めて悪いことから遠ざけたママはすごい!とくらいにしか思っていなかったのである。
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