33.GIFTS FOR YOU
ふわふわの布団を顎まで引っ張り上げた。
寒い、足元が寒い。
まだ目覚めきらない頭のまま、足をすり合わせる。
…足をすり合わせると、冷たいものに触れた。
つるつるしていて、うろこがあって。

「ヤタ、ナギニ…どっちよ」

嫌がらせとしか思えない。
ナギニは私の上に乗ってくることが多いが、冬場は暖かい場所に潜り込むことも多い。
どちらにせよ、さっさと出てほしい。
いくら変温動物でも恒温動物よりは体温が低いから、冷たい。

足で押しのけようにも、家に帰ってきて通常サイズに戻されている奴らを押しのけることなどできるはずもなく。
根負けした私がベッドを出た。
腹癒せに布団を捲ってみると、そこにいたのはヤタだった。
苛立ちのまま、布団は捲ったままにしておいた。

ベッドを出て、パジャマの上にカーディガンを羽織っただけの姿でリビングに降りた。

「なんだ、早かったな」
「おはよ…ヤタがベッドに入り込んで寒かったんだって…あいつ本当にむかつく」
「ああ…でも入ってきたのは朝だったんだろう、なら別に𠮟るほどでもないな」

パパは少しだけ驚いたように私を見た。
うん、まあいつもお休みの日は昼前まで寝てるからだろう。

ヤタは私の弟のようなものだが、いかんせん仲が良くない。
実際に弟がいたらこんなものなのかもしれないが、可愛さも分かりにくいから憎さ百倍。
嫌いじゃないんだけどさ、こう、なんというか人間臭すぎる。
人間臭すぎて喧嘩するくらいだし。

パパは私の分のカフェオレをこたつのテーブルに置いた。
パパの分はブラックだ、大人である。

「目が覚めたらプレゼントを整理しておけ。結構来てるぞ」
「ん?プレゼント?」
「クリスマスは今日だろう」
「わ、それ早くいってよ!メリークリスマス、パパ!」

どうやら今日がクリスマスだったらしい。
ヤタのせいですっかり失念していた。

どうやらプレゼントが結構届いていたらしい。
リビングに置いておくには少々邪魔なので、パパがまとめて別の部屋に置いてくれたようだ。
パパは苦笑しながらも、杖を振った。

「散らかすなよ」
「うん!わー、いっぱい来たね」
「日本と比べたらそうだろうな」

パパが杖を振ると、私の周りに色とりどり大小さまざまな箱が出てきた。
いや本当に魔法みたいだ。


近くにあった緑と黒のストライプの箱を開けてみると、スピカ先輩からのものだった。
箱には雪原を走る黒馬が描かれていた、ちなみに本当に走っている。
くるくると走る黒馬は時折立ち止まっては草をはむ。

しばらくそれを見ていたが、とりあえず箱を開けた。
中には手紙と、生成色にに濃い緑でカントリー風の模様が描かれたポンチョが入っていた。
手紙にはメリークリスマス、愛しい私の妹ななしさんへ、と書かれていた。
どうやら私はいつの間にかスピカ先輩の妹になっていたらしい。
内容はぜひそのポンチョを着て、遊びに行きましょうねとの胸が書かれていた。

ちなみに、もう2つ同じような緑と黒のストライプの箱があった。
違うのは、その緑と黒の量などの配色パターンだけ。
恐らくそのデザインがブラック家の象徴みたいなものなのだろう。
アルくんからはブックカバー、レギュラスさんからは手袋が送られていた。

ブラック家から3つ、ハンナやセドリック先輩などなどハッフルパフの友達から5個、
その他、グリフィンドール生から3つ、リガリオス先輩、それからなぜかマクミランから。
マクミランはお約束というか、クリスマスのお菓子と一緒にクディッチの雑誌が一緒に入っていた。
たぶん雑誌が主なんだろうな、全く懲りない人だ。

「はー、クリスマスってすごいね」
「返しは済んでいるな?」
「うん。だいたいは私も送ってる人だから。ちょっとだけ送ってない人からも来てるし、カードだけの人もいるから、その人たちの分はちょっと考える」
「カードと菓子程度でいいだろうな」

パパは私の隣のプレゼントの山を目を細めてみていた。
何を考えているのかは私にはわからない。

パパは口数の多い人ではないし(無駄なところでは多いが)、何を思っているのかを読み取るのは難しい。
ただ、別に怒っているわけでもなく、嫌がっているわけでもない。
複雑そうな感じだ、何だろう。

私は、パパのことをよく知らない。
それはパパが魔法使いだったということを最近知ったくらいには、私を10年近く男手ひとつで育てたその人を良く知らない。
私には祖父母というものもなく、ただパパだけが傍にいた。
別にパパを疑うわけではない、きっといつか教えてくれるのだろう。
私の出自も、パパのことも。

プレゼントの山から手元の新聞へと目線を落としたパパを、私は静かに見ていた。




夜になれば、ツリーの周りを飛んでいたサンタがテーブルの近くのランプの周りをくるくると回り始めた。
なぜそこに移動したのかは謎だ。

英国での初めてのクリスマスは、こたつで行った。
和洋折衷万歳、温かくていいクリスマスだ。

「メリークリスマス、パパ!」
「それ、朝も聞いたな」

朝も言っただろうか?自分の発言だが覚えていない。
なるほど、政治家の不適切発言はこうして生まれる。

閑話休題、朝言ったからといって夕方行って何が悪い。

「クリスマスにしか言えないんだから、何度でも言っておくべきじゃない?」
「メリットがないだろう」
「デメリットもないし。それにメリットならあるよ、可愛い娘の声を聞けます」
「さて、ケーキを切るか」

さらっとスルーされた。
それとパパ、ケーキを切るったって2人しかいないんだから包丁1回入れるだけだろう。
切り返しがちょっと下手だったな。

さて、そんなことはさておき。
ケーキはパパの手作りだ、カラフルなフルーツケーキ。
別にクリスマスだからってクリスマスカラーにしないあたり、うちのパパは優秀だ。
そして味も優秀と来るものだから、私の男を見る目のハードルは上がる。
ぶっちゃけ、パパよりもいい人なんていないだろ。

「いただきまーす」
「ケーキを先に出すべきじゃなかったな…」
「大丈夫、チキンも食べるよ」

野菜を摂れといっているんだ、とぼそりといわれたが無視。
今日くらいいいじゃないか、だってクリスマスなんだから。
といっても、パパの作るポトフは美味しいから食べるけどね。

食事を終えて、のんびりとお茶を飲んでまったりする。
これが一番幸せなんだよなあ…学校にいるときは誰かしら傍にいて、楽しいけど疲れる。
家だとそういうこともなくていい。

「ななしさん、俺からのプレゼントだ」
「くれないかと思ったよ」
「それはない。…それから、これはアイツからだ。中身は俺も知らん」

冗談のつもりが真顔で返されてしまった。
私はそれに対して苦笑を零しておいた、まあ伝わっただろう。

さて、私の目の前には2つの箱がある。
1つは真っ黒な箱、小さな箱だ。
そしてもう一つは可愛らしいカナリアイエローの箱、こちらは文庫本サイズ。
そして衝撃発言、パパのいう“アイツ”はママのことだ。
恐らくはママが生前私に残したものなのだろう。

「…とりあえず、パパのから開けるね」
「ああ」

ママからのプレゼントを開けるのには勇気がいる。
一先ず、パパのプレゼントを見てみよう。

小さな黒い箱の包装を解くと、中にはまた黒い箱。
触ってみたらベルベットだった。
それを開けると、中にはネックレスが入っていた。
細いチェーンの先には四角いペントップがついていた。

「女の子っぽい」
「少しはそういうものに気を配るように」
「うん、ありがと!」

呆れたようにこちらを見たパパに照れ笑いして見せた。
パパは私の後ろに回って、ネックレスを首にかけてくれた。
ひんやりとした違和感が少しあった。
掛けられたネックレスを手で弄って、ペントップの四角いものが何なのか確認しようと思ったが、うまくいかなかった。
ただ四角いだけだったから、何か仕掛けがありそうなのだけど。

ネックレスが肌に馴染んだあたりで、私はカナリアイエローの箱に手を伸ばした。
パパは何も言わない。

「手紙と、…リボン?髪留めかな」

出てきたのは、モスグリーンとカナリアイエローのストライプ柄のリボンだった。
いや、本当にリボンだ、何の加工もされていない。
その上に置かれていた手紙は同じようにカナリアイエローだった。
ななしさんへ、と日本語で書いてあった。

私がリボンを手に取ると、パパは眉根を顰めた。
…何かあるのだろうか。

「パパ?」
「…なんでもない」

いや絶対なんでもなくはないだろう。
しかし、パパはそれ以上何も言わなかった。
ママからの手紙を開けようとしたら、パパは更に不機嫌そうに眉を寄せたからやめた。
別にパパとママは仲が悪かったわけではないのだろうが、なんだというのだろう。

その後、パパは片づけを始めたので私もそれを手伝った。
シャワーを浴びて、おやすみなさいをして、部屋に戻ってようやく手紙を開いた。
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